執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
欲しいものを手に入れて使うために行う買い物。
しかし「買い物依存症」は使わないのに買い物をします。
買い物自体が目的だからです。クスリ系の物質依存と違って、買い物をするという「行為」そのものにハマってしまう、プロセス依存の買い物依存症。
買い物をすると束の間、元気になり、さびしい生活が忘れられます。その快感を求めて、衝動的に買い物が繰り返されます。行く末は借金地獄や自己破産ということも…。
実際の事例を基に、詳しく見ていきましょう。


Aさん(30歳)のケース
Aさんは5年前に結婚して子どもはいません。仕事に忙しい夫とのすれ違いが続き、最近さびしい気持ちが募っていました。
子供のころから比較的豊かな家庭で何不自由なく過ごしてきたそうです。母親はAさんを、まるでペットのように過保護にし、Aさんも母親の顔色をうかがって、よい子を演じてきました。
Aさんは、洋服が目にとまるととにかく買いたくなります。とくに、ちょっと嫌なことがあった時は、買い物をすると元気になれます。
けれど、せっかく買ったものを着るわけでもなく、包装紙に包まれたままクローゼットに山積みです。
貯金が底をつくと、消費者金融から借金を繰り返し、家計は今や火の車ですが、止められません。最初は父親や夫が肩代わりしてくれましたが、もう限界に来ています。
買い物依存症の心理
Aさんのように鬱屈している日常生活で、買い物で散財する時だけが、イライラを発散し気分が高揚し、日常生活が忘れられます。
買い物をすれば店員からちやほやされ、束の間の優越感に浸れます。でも、店を出た途端、自己嫌悪に陥り、罪悪感に苛まれます。
買い物依症 はこうした悪循環の繰り返しです。
臨床的には、うつ病、不安障害、物質乱用、摂食障害などの問題を抱えていることが少なくないとのことです。
買い物依存症 の10の傾向
買い物依存症 の傾向、セルフチェックしてみてください。5項目以上該当すれば要注意です。
□ 以前の買い物体験がはっきりと思い起こせ、次の買い物スケジュールを作ることにこだわりがある。
□ 見境なく高価なものを買いたくなる。

□ 買い物をやめる努力をしたが成果はなかった。
□ ストレスを吹き飛ばすためや、現実の世界から逃げるために買い物に行ってしまう。
□ 買うのを我慢しようとするといらだちがつのる。
□ 購入できなかった商品に固執して、後日捜し求めてしまう。
□ 買い物に執念深いことを分からせないため、家族や友人などをだます。
□ 買い物をやめられないせいで、仕事をなくしたり、大切な人とうまくいかなくなった。

□ 買い物に必要なお金を手に入れるため、法律に反する行動に出てしまった。
□ 買い物に必要なお金を、他の人に借りようと思ったことがある。

買い物依存症は現代病?
今日では広くクレジットカードが普及されてきました。買い物をすれば、支払いという現実が追いかけてきますが、クレジットカードでの支払いは直接現金を使っていないので、お金を使っている感覚をマヒさせやすいです。
カード払いは買物のハードルを低くし、依存症を促進し、果てはカードローン破産に陥ってしまうことも。
大量消費に加えて、ネット通販などもますます活況となる現代社会において、買い物依存症はそんな現代社会を象徴する病理なのでしょうか?
買い物依存症の古典的な事例は、マリー・アントワネットです。
1915年に精神科医クレペリンが、「オニオマニア(乱買癖)」という用語を用いています。
フランス革命で処断された有名なマリー・アントワネットは、派手な生活の陰に、孤独で不幸な人生を余儀なくされ、貴族という財力を有する階級だったので、買い物依存症とギャンブル依存症にハマっていたことは、よく知られた例です。
女性がハマりやすい依存症ともいえるでしょう。
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長