年々金融リテラシーの重要性が高まっています。皆さん、金融リテラシーを身につけていますか?本連載では、大阪公立大学・北野友士准教授のご著書である「学生に読んでほしい お金の攻略本」の内容を全6回に分けて紹介しながら、皆さんと一緒に金融リテラシーについて学んでいきます。
第6回で紹介するのは、投資についてです。ここまで、リスクを中心にお金を「守る」話を説明してきたので、ここからは「攻め」も理解していきましょう。
(第5回はこちら)
投資はギャンブルと違う?
最初に投資した(掛けた)額が、投資(掛け)の対象の成果によって増減する点では、投資もギャンブルも同じです。ただし、一般的に投資とギャンブルは別物として区別されます。
ここから、株式投資とギャンブルが異なる理由や、株式市場の仕組みについて、確認していきましょう。
株式投資とギャンブルが異なる理由
期待値の違いが、株式投資とギャンブルが異なる理由として挙げられます。
一般的に、ギャンブルは皆が掛け金を持ち寄り、主催者が一定割合を控除して残りの金額を参加者が奪い合うシステムです。そのため、ギャンブルは長く続ければ続けるほど、確実に主催者に控除される分だけ損をする仕組みになっています。
株式投資も、それぞれがお金を持ち寄る点はギャンブルと同じです。ただし、事業が成功して会社が利益を得られれば、お金を持ち寄った全員が勝者になれる点がギャンブルとは異なります。
なお、株式投資した元本は、基本的に会社からは返してもらえません。そこで、株式に投資したお金を会社自身から返してもらう代わりに、株式市場(株式の流通市場)という仕組みが用意されています。
株式市場の仕組み
Aさんが、100万円で投資した株式の配当利回りが5%であったと仮定します。もし銀行の預金金利が1%ならば、銀行預金しかしていないBさんには配当利回り5%の株式が魅力的に映り、Aさんに「譲ってほしい」とお願いするかもしれません。
このように、発行済の株式を投資家同士で売買する場が、株式市場(株式の流通市場)です。
株価を評価する方法
ある会社の株価が、1株いくらであれば妥当なのかは、人の考え方によって異なるでしょう。そこで、理論的に妥当な価格を判断できるようになるために、株価を評価するモデルの計算式や、株価の割高・割安を判断する投資指標を簡単に紹介します。
株価を評価するモデルの計算式
ファイナンス論で使われる基本的な株価評価モデルが、配当割引モデルです。配当割引モデルにはゼロ成長モデル(ここでは「配当割引モデル」と表記)と、定率成長モデルの2つがあります。
配当割引モデルを使って理論上の株価(P)を求める際の計算式は、以下の通りです。
*D:毎年一定額受け取れる配当、μ:期待収益率(投資家が求める配当利回り)
配当割引モデルを使う場合、配当が毎年一定と仮定しているため、会社が成長する可能性を考慮していません。しかし、現実の資本主義社会において、成長しない会社が永続することは困難でしょう。
そこで、会社が一定の割合で成長を続け、成長に合わせて毎年の配当が増え続けるという要素を加えた定率成長モデルが存在します。成長を見込んだ株価(S)を算出するための定率成長モデルを使った計算式は、以下の通りです。
*D1:1年後の配当、μ:期待収益率(投資家が求める配当利回り)、g:配当の増加率
例えば、1年後の配当(D1)が20円で毎年2%ずつ配当が増加し(g = 0.02)、投資家が求める配当利回りが4%(μ = 0.04)の場合、その会社の成長を見込んだ場合の理論的な株価は1,000円です。
なお、定率成長モデルの式を分析していくと、理論上は今後も高い成長率を期待できる会社の株価は高くなり、低い成長率にとどまると予想される会社の株価は低くなることがわかります。
株価の割高・割安を判断する投資指標
株価の割高・割安を判断する際の主な投資指標を以下にまとめました。
・PER(倍)(株価 ÷ 1株あたり当期純利益 )ー株価が利益の何倍になっているかわかる
・PBR(倍)(株価 ÷ 1株あたり純資産)ー株価が純資産の何倍になっているかわかる
・ROE(%)(当期純利益 ÷ 自己資本 × 100)ー株主の投資したお金に対して、どれだけの利益を生み出しているかわかる
・配当利回り(%)(1株あたり配当金 ÷ 株価 × 100)ー現在の株価に対して、どれだけの配当が期待できるかわかる
・配当性向(%)(配当金総額 ÷ 当期純利益 × 100)ー利益のうち、どれだけを配当に回しているかわかる
なお、株価が過大評価されているのか、過小評価されているのかを、投資に慣れていない方が単独で判断することは困難です。実際の銘柄選択については、プロの投資家の投資手法などについてより詳しく学ぶとよいでしょう。
投資リスクと向き合うには?
ここから、投資リスクと向き合うための考え方について紹介します。
投資先の株価の下落リスクは0にできない
そもそも、投資先の株価の下落リスクを0にする方法はありません。
投資先の事業がうまくいかず利益が出ないケースや、成長性の低下などが見込まれるケースなどで、当然ながら株価は下がることがあります。株価が下がれば、基本的に最初に投資した金額よりも低い金額でしか流通市場で売却できません。
もちろん、今後値下がりリスクを回避しつつ、銀行の預金金利を上回るような配当を保証する金融商品が誕生する未来もありえるでしょう。しかし、その場合は対象の金融商品の需要が高まり、価格が高騰することにより、基本的に利回りは低下します。利回りの低くなった商品は魅力が薄れるため、最終的に価格の下落につながるでしょう。
分散投資が中長期的に有効
下落リスクを0にすることはできませんが、投資先の業種を分ける、日本以外の国や円以外の通貨にも投資するといった「分散投資」が中長期的には有効にはたらく場合があります。分散投資とは、「卵はひとつのカゴに盛るな」の格言が示す通り、投資先を分散することでリスクの軽減を図る手法です。
しかし、分散投資の効果を発揮するためには、個々の銘柄が長期的にみて値上がりするだけの実力を備えていなければなりません。
分散投資の方法
分散投資の方法は、主に以下の通りです。
・銘柄の分散
・資産の分散
・地域・通貨の分散
・時間の分散
銘柄の分散とは、1社に限定せず、他の会社にも分散して投資する方法です。業種の違いも意識すると、より分散の効果を期待できます。
資産の分散とは、株式だけでなく、社債・国債、不動産など異なる種類の資産に投資する方法です。資産の種類によって値動きは異なる傾向があるため、資産を分散することで、リスクの軽減効果が期待できます。
地域・通貨の分散とは、日本以外の地域や、外貨建ての資産にも投資する方法です。例えば日本経済が低迷する状況下では、外貨建ての資産にも投資することで、円建て資産の収益性が低下するリスクを補うことが期待できます。
時間の分散とは、株式を買うタイミングを少しずつずらして、高値掴みを避ける方法です。ドルコスト平均法を活用すれば、時間の分散による効果を高められます。ドルコスト平均法とは、一定のタイミング(例:毎月)で一定額ずつ値動きがある金融商品を買い増す方法です。
投資リスクと付き合うための投資信託
投資信託とは、多くの投資家から投資資金を預かり、ファンドマネージャーが一定の投資方針にしたがって分散投資を実施するものです。
分散投資を実施しようとすると、十分な投資資金を確保できないという壁にあたることがあります。その点、投資信託は、まとまった投資資金を用意しなくても分散投資を実施できる方法のひとつです。
ここから、投資信託の選び方や注意点について解説します。
投資信託の選び方
投資信託の投資対象は、大きく分けて、国内株式・国内債券・国内不動産・外国株式・外国債券・外国不動産の6つに分類されることが一般的です。また、バランス型・内外株式・内外不動産のように、6つから派生したものもあります。
数ある投資信託の中から、自分が購入するものを探す方法のひとつは、自分が興味を持てるテーマに投資することです。一般社団法人投資信託協会のウェブサイトでは、投資の大まかな投資対象や、興味のあるキーワードで検索できます。
候補をいくつかに絞ったら、目論見書を読んでみることもポイントです。
投資信託の注意点
現物株を購入する場合、基本的に購入時と売却時に証券会社に委託売買手数料を支払うだけであるのに対し、投資信託は購入時・売却時の手数料に加え、運用期間中の管理費を支払わなければならない点に注意が必要です。投資信託にはさまざまなコストがかかっていることを理解し、トータルのリターンを意識しつつ商品を選びましょう。
なお、投資信託の種類によっては、「ノーロード」と呼ばれる購入時手数料のかからないファンドも存在します。
NISAやiDeCoの基礎知識
投資に興味を持った方は、NISAやiDeCoから始めるのもよいでしょう。それぞれの概要を簡単に紹介します。
NISAとは
NISAとは、2014年から始まった少額からの投資を行う人のための非課税制度です。NISAを利用した場合、対象の金融商品に投資した際に得られる利益に課せられる税金(所得税や住民税)が非課税になります。
2024年に始まった新NISAでは、旧NISAの一般NISAとつみたてNISAを一本化し、さらに拡充・恒久化したうえで併用できるようになりました。
iDeCoとは
個人型確定拠出年金であるiDeCoは、公的年金の上乗せ部分として任意で加入する私的な年金制度です。iDeCoを活用することで、拠出時や払出時に税金面での優遇が受けられます。
iDeCoは自分で選択した運用商品の運用成績によって老後に受給できる年金額が変動する点に注意が必要です。資産運用がうまくいかない場合は、期待したような年金額を受けられない場合もあります。
また、どの金融機関で手続きするかによって、取り扱う運用商品や手数料が異なる点も重要です。
リスクと向き合いつつ投資を検討しよう
今回は、大阪公立大学・北野友士准教授の「学生に読んでほしい お金の攻略本」の第6章、「守りを固めた後は攻めに転じるー投資の基礎知識ー」の内容を紹介しました。
株式投資では、事業が成功して会社が利益を得られれば、お金を持ち寄った全員が勝者になれる可能性がある点が、ギャンブルとの大きな違いです。ただし、投資にはリスクがあるため、分散投資などの対策を検討しなければなりません。
分散投資の具体的な方法は、銘柄の分散、資産の分散、地域・通貨の分散、時間の分散などです。また、まとまった資金を用意できない場合は、投資信託を購入して、分散投資を図る方法もあります。
投資を含むファイナンシャル・プランニングは、ライフデザインやライフプランを達成するための手段です。この機会に、リスクとゆっくり向き合いながら、株式や投資信託などへの中長期的な投資を検討してみてはいかがでしょうか。
*本記事は、こちらの第6章をもとに作成しています。
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。