新生活が始まる4月1日は、法改正の時期でもある。2025年は「働き方」に関する法律が変わるタイミングとなった。
そこで、ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子さんに、いち労働者である僕らの生活に関係する法改正について、教えてもらった。
育児・介護と仕事を両立しやすくなる法改正
「2025年4月1日は、『育児・介護休業法』『雇用保険制度』『継続雇用制度』という3つの法律や制度の改正、経過措置の終了のタイミングとなりました。今後の働き方に影響する可能性があるので、ひとつずつ見ていきましょう」(川部さん・以下同)
●育児・介護休業法の改正内容
(1)子の看護休暇の見直し

「看護休暇の対象となる子が未就学児に限定されていたところから、小学3年生まで広がり、取得の理由として『学級閉鎖』や『入園・入学式、卒園式』も認められるようになりました。その変化に伴って、名称も『看護等休暇』に変更されています。全体的に、子育てしながら働いている人を支援する改正といえます」
(2)所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
勤務先に対して残業免除の請求ができる労働者の範囲が、「3歳未満の子を養育する労働者」から「小学校就学前の子を養育する労働者」に拡大。
(3)短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワーク追加
これまで短時間勤務制度の代替措置として「育児休業に関する制度に準ずる措置」「始業時刻の変更等」を選択できたが、「テレワーク」も追加された。
「(2)(3)の改正も、子どもを育てながら働く人がさらに働きやすくなる内容です。特に(2)は企業が必ず対応しなければいけない改正なので、助かるパパやママは多いのではないでしょうか。また、3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるような措置を講じることも、努力義務化されました」
(4)育児休業取得状況の公表適用拡大
これまで「従業員数1000人超の企業」に育児休業取得状況の公表が義務付けられていたが、今後は「従業員数300人超の企業」と対象が拡大する。
「これまではいわゆる大企業のみ、育児休業取得状況の公表が義務付けられていましたが、今後は『従業員300人』を超えている企業すべてが対象になります。転職や就職を考えている場合は、参考になるでしょう」
(5)介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
子の看護休暇と同様に、これまでは「週の所定労働日数が2日以下」「継続雇用期間6カ月未満」のいずれかに当てはまる労働者は対象外とできたが、今後は「継続雇用期間6カ月未満」が撤廃となる。
「入社から6カ月が経っていない人でも、介護休暇を申請できるようになるということです。また、介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施や相談窓口の設置、社内の介護休業利用の事例の収集など、介護離職防止のための雇用環境の整備が義務化となり、企業は労働者に対する情報提供や介護休業利用の意向確認などを行うことになります。
離職・転職時に影響する「雇用保険制度」の改正
●雇用保険制度の改正
(1)自己都合退職者が教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除
これまで自己都合退職者は、待機満了の翌日から原則2カ月間の給付制限期間を終えてから基本手当(失業給付)が支給されたが、今後は給付制限期間が「1カ月」に短縮される(5年間で3回以上の自己都合退職の場合は給付制限期間が3カ月となる)。
「今回の改正のポイントは、給付制限期間が短縮されるだけでなく、雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を行った場合に給付制限が解除され、すぐに基本手当を受けられるようになるという点です。教育訓練とは、知識や技術、資格などを習得するための研修や学習活動のこと。転職が当たり前になっているからこその改正といえます」
(2)就業促進手当の見直し
安定した職業以外の職業に早期再就職した場合に支給されていた「就業手当」が廃止。早期再就職し、離職前の賃金から再就職後の賃金が低下していた場合に低下した賃金の6カ月分が支給される「就業促進定着手当」の支給上限が、基本手当支給残日数の「原則40%相当額」から「20%相当額」に引き下げられる。
「2022年度の時点で、『就業手当』の受給者は年間3586人、『就業促進定着手当』は年間9万2546人と少なかったため、廃止や引き下げとなったのだと考えられます。国としても、できるだけ安定した職業を見つけ、賃金が上がるような前向きな転職をしてほしいという思いもあるのでしょう」
(3)雇用保険料率の改定
2025年4月から、労働者の雇用保険料率が「0.6%」から「0.55%」に引き下げられる(一般の事業の場合)。
(4)雇止めによる離職者の基本手当の給付日数にかかる特例等の2026年度末までの継続
雇止めによって離職した人に対する基本手当の給付日数を「90~150日」から「90~330日」に延長していた特例を、2026年度末まで延長。
(5)教育訓練支援給付金の給付率引き下げ
初めて専門実践教育訓練を受講し、修了する見込みのある45歳未満の離職者に対して受講支援として支給される「教育訓練支援給付金」は、「基本手当日額の80%」から「基本手当日額の60%」に引き下げられる。
(6)出生後休業支援給付の創設
子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付し、育児休業給付とあわせて給付率80%(手取りで10割相当)へと引き上げる制度。
「もともと育児休業給付は休業開始前賃金の67%相当額(手取りで8割相当)が給付されますが、産後すぐはさらに『出生後休業支援給付』を上乗せして、給付率80%にするという制度が新設されました。金銭的なハードルが下がり、育休を取得しやすくなったといえるでしょう」
(7)育児時短就業給付の創設
2歳未満の子の養育のために時短勤務をしている場合、「時短勤務中に支払われる賃金額の10%」が給付される制度。
「時短勤務を選択すると、どうしても賃金が下がってしまうという課題がありました。
(8)高年齢雇用継続給付の給付率引き下げ
60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の一定の雇用保険一般被保険者に支給される「高年齢雇用継続給付」。これまでは「各月に支払われた賃金の15%」が上限となっていたが、今後は「各月に支払われた賃金の10%」に引き下げられる。
「数年かけて老齢年金の受給開始年齢が60歳から段階的に引き上げられ、2025年度以降はすべての人が65歳から受給開始となります。実質的に定年が65歳になり、これまでよりいい条件で働き続けられる人が増える可能性が高いため、『高年齢雇用継続給付』の上限が引き下げられるのだと考えられます」
60~65歳が働きやすい環境の整備が進められる
「高年齢雇用継続給付」と関連するものが、3つ目の「継続雇用制度」だ。
●継続雇用制度の経過措置の終了
年金受給開始年齢の段階的な引き上げに関連する経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることができた。しかし、2025年3月31日でその経過措置が終了。
今後は、高年齢者雇用確保措置として、企業は以下のいずれかの措置を講じる必要がある。
・定年制の廃止
・65歳までの定年の引き上げ
・希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入
「企業が老齢年金を受け取っている労働者に対して、『年金を受け取っている分、雇用の機会や賃金を限定的にしますよ』とすることが認められていましたが、今後は65歳未満の全員が老齢年金を受け取れなくなるため、労働環境を整える必要が出てきたというわけです。少なくとも65歳まで働く社会になったという変化を受け止めるときが来たといえるでしょう」
これからの生活に影響するであろう「働き方」に関する改正が行われた2025年4月1日。自分や家族のためにも、きちんと改正内容を把握しておこう。
(取材・文/有竹亮介)