NISAやiDeCoで資産運用を始めてから、せっかくならもう一歩踏み込んで個別株にも投資してみたい、と考えている人もいるのではないだろうか。
ただし、個別株となると企業や業界の動向をチェックし、将来を予測しなければいけないため、働きながら片手間で行うのは難しい印象もあるだろう。
そこで、20代の頃に「50歳で3億円」という目標を設定し、20年以上の時間をかけて目標を達成したとりでみなみさんに、これまでの経験について聞いた。
「銀行に預けるよりお得」と感じた株式投資
とりでさんが株式投資を始めたのは2000年頃。新卒でSEとして働き始めて2~3年目、毎日のように残業をしていたそう。
「当時の残業は青天井で、終電で帰るか会社に泊まり込むかの毎日でしたね(苦笑)。でも、働いた分だけ残業代はきちんと出ていたので、給料はよかったんです。とはいえ、お金を使う時間がなくて、貯まっていく一方。そんなときにふと、銀行に100万円預けていても年数百円の利子しか付かないのはもったいない、もっとほかにお金の使いようがあるんじゃないかと思ったんです」(とりでさん・以下同)
同じ頃、友人が「株式投資を始めた」と話していた。その姿を見て、真似してみようと思ったのが投資を始めたきっかけ。
「あの頃のトヨタ自動車は、配当利回りが年4%前後あったと記憶しています。自分が勤めている会社よりも安定性の高いトヨタ自動車の株を100万円分買うだけで、配当金として毎年4万円入ってくるということは、銀行預金を投資に回さないと損だと思ったんです。当時は株価や配当利回りのことをよくわかってなかったので、仮に株価が下がったとしても毎年4万円を25年間受け取り続けたらトントンになるから、損しないどころかお得じゃんって雑に考えてましたね(笑)」
未知の株式投資に対する不安よりも、キャッシュフローとして定期的に4万円入ってくることに対する期待感のほうが大きかったという。しかし、初めて買った株式はトヨタ自動車ではなかった。
「最初はカゴメとオリエンタルランド、ワタミ、三洋電機の4銘柄を買いました。当初は『伸びる会社に投資する』って発想がなくて、『応援したい会社にお金を預けよう』って感覚で選びました。『応援したい』という気持ちさえあれば、株価が下がったりその会社の資産が減ったりしても持ち続けられると思ったんですよね。三洋電機以外は株主優待があったのも魅力的でした」
しかし、日経平均株価がなかなか上がらない状況が続き、保有している銘柄も好調に推移したとは言い難かった。
「あまりいい状態ではなかったはずです。カゴメだけは上がっていたから、300株持っていたうちの200株は売れました。ワタミも多少上がってきたから売ろうか考えたんですが、1単元しか持っていなくて、それを売ってしまうと株主優待を受け取れなくなるので、結局売れなかったということもありました」
時代に合わせて「バリュー投資」から「グロース投資」へ
当初は「応援したい会社」という軸で投資を行っていたが、ある書籍との出会いで考え方が一変する。
「『謎のトレーダー「しん」の〈株〉バリュー投資法』という書籍を読み、株は数字で見ることができる、要はファンダメンタルズで見ることができるということを知ったんです。それまでは企業の印象と配当利回りでしか見てなかったんですが、売上と利益が上がっているから配当が出るという仕組みがわかって、見方が変わりました」
さらに『私でも面白いほどわかる決算書』という書籍も読み込み、財務諸表の見方がわかるようになった。
「この2冊はかなり勉強になりましたね。ファンダメンタルズを見ることで、雰囲気で投資するのではなく、ちゃんとした根拠を持って投資できるようになるんだってわかったし、何を買うべきかという基準が自分のなかにできた感覚がありました」
改めて投資について学び、とりでさんが行きついたのはバリュー投資。企業の利益水準や資産価値などに対して、株価が割安な銘柄に投資する手法だ。
「20~30年間、ずっと右肩下がりで日経平均株価が下がっていくような時代だったので、バリュー株のような時価総額よりも現金同等物の数値のほうが高い銘柄を持っていないと耐えられなかったところもあります。
現在のとりでさんは、かつて購入してきたバリュー株を担保にして、グロース株の信用取引を行う手法を取り入れている。つまり、バリュー投資からグロース投資へと軸を変えたのだ。グロース投資とは、利益成長性や将来性の高さが期待できる銘柄に投資する手法。
「切り替えたのは2017年頃です。その頃、KG情報という四国の印刷会社の銘柄を購入して10年ほどが経った頃でした。KG情報はバリュー株として有名で長く持ち続けていたんですが、増配するというニュースがきっかけで2017年にストップ高になったんです。そのときに久々に株価チャートを見たら、10年間株価が上がっていないどころか、10年前に買ったときの株価に回復したタイミングだったんです。年4%ほどの配当金は受け取り続けていましたが、もっと株価が上がる銘柄はあったはずだと。せっかく投資するならグロース株のほうがいいのではないかと思い始めました」
2013年頃からアベノミクスの影響で株価が上がり始め、グロース投資を行っている人のパフォーマンスが上がっていることは見聞きしていたという。
「グロース投資を始めてから、パフォーマンスは日経平均株価以上に上がるようになりました。バリュー投資をしていた頃は、そもそも日本全体の株価が上がらないから資産も劇的に増えていかなかったので、入金しては新しい銘柄を買って銘柄数だけが増えていく状況で、配当金や株主優待は受け取れるけどパフォーマンスは上がらなかった。
好調でも不調でもブレない手法で続けるのが資産運用のコツ
とりでさんが株式投資を行うにあたって、心に決めているのは「仮に株価が必ず下落するとわかっていても売却しない」こと。
「儲けようと思って投資を始めたわけではなくて、順調に資産が増えていけばいいなくらいの感覚だったのが大きいと思います。27歳のときに試算したんですよ。当時、貯金や投資で既に2700万円の資産があり、そこから仮に毎年300万円入金するとして、どのくらいまで増やせるんだろうと。アメリカの平均パフォーマンス年7%で計算すると、51歳のときに3億円になるという結果が出て、それだけあれば生きていくのに困らないなということで『50歳で3億円』を目標に設定しました。年7%のパフォーマンスなら頻繁にトレードする必要はなく、長期で保有し続けられるものを選べばいいという発想になれたんです」
投資を始めてからの十数年は日経平均株価が上がらず、思うような成果が出なかったため、投資の熱が冷めた時期もあった。その頃は入金せずに現金を貯めていたが、株式を売るという選択はしなかったそう。
「仮にいい銘柄を売ってしまった場合、もう一度買い直すことになりますが、買うタイミングを悩んでいるうちに売却した価格に戻ってしまったら売らなかったのと同じですよね。売却した価格より1円でも安く買い直せたらお得と思うかもしれませんが、そのために売買手数料を払っては意味がありません。たとえ株価が下がったとしても保有し続けたほうが、時間的にも金銭的にも効率がいいと考えられます」
もともと描いていた目標と実際のパフォーマンスを照らし合わせると、2014年時点では目標から6年遅れの状態だったが、グロース投資に変えた2017年ごろに3年遅れ、2021年に1年遅れまで回復し、2024年1月に想定よりも早い段階で目標の3億円を達成。不調なときも好調なときも投資手法を変えなかった。
「目標の『資産を3億円に増やす』を実現するため、リスクを極力抑えて、年7%のパフォーマンスを出すことに注力してきたので、淡々と続けてこられたんだと思います。
最適な手段を選ぶため、ある程度資産が増えてきた際にはチャレンジするのもいいという。
「僕はあまり手法を変えずに続けましたが、資産が1000万円くらいになってきたら100万~200万円くらい引き出して、デイトレードに挑戦してみるのもいいかもしれません。向いてると思ったらもう少し資産を移してもいいし、難しいと思えばやめればいい。どちらにしても、さまざまな手法の投資をしている人が市場にいると知ることで、投資の選択肢も増えてくるはずなので、経験は必ず活きてくると思います」
明確な目標を定め、淡々と株式投資を続けてきたとりでさん。後編では、より具体的な投資手法と投資初心者がしがちな失敗について伺う。
(取材・文/有竹亮介)

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