市場全体が下落トレンドに突入している時、いかにして運用利益を出せばよいのか――。これは多くの投資家が悩むテーマだろう。
投資顧問や資産運用の事業を営むスパークス・アセット・マネジメント(スパークスAM)は、日本株運用にロング・ショート戦略を持ち込んだパイオニアとされており、今日では国内外の機関投資家や個人投資家にロング・ショート戦略を軸としたファンドを提供している。
日本株の運用を担うファンドマネージャーに取材する連載「ニッポン、新時代」。今回は、スパークスAMでロング・ショート戦略を実践する春尾卓哉氏に、その手法の真髄や日本市場の展望を聞いた。
「世界三大投資家」の1人から受け継がれた手法
偉大な功績を残した投資家の1人に、ジョージ・ソロスという人物がいる。同じく著名投資家のジム・ロジャースとともに1973年から運用を開始したクォンタム・ファンドは、10年間で40倍以上の運用資産に到達したといわれる。これらの実績から、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャース、そしてウォーレン・バフェットは「世界三大投資家」と呼ばれることも多い。
ソロス氏のもとでファンドマネージャーとして活躍した日本人もいる。スパークス・グループの創設者であり、代表取締役社長を務める阿部修平氏だ。同グループは、運用会社として日本で初めて株式上場を果たし、着実に実績を残してきた。スパークスAMは、このグループの中核的存在である。
阿部氏は、ロング・ショート戦略の指導をソロスから直接受け、日本の運用会社としては早くからこの戦略によるファンド運用を行った。
2002年3月に運用を開始し、現在までに245%のパフォーマンスを残してきた。ここ5年でも32%の収益が出ているとのこと(いずれも2025年12月末日時点)。
この投資信託のファンドマネージャーを現在務めているのが春尾氏である。そもそも、ロング・ショート戦略とはどういった手法なのだろうか。
「ロング・ショート戦略とは、投資ポートフォリオの中にロングポジション(買い)とショートポジション(空売り)を混ぜて運用する手法のことです。一般的な投資信託はロングポジションが中心ですが、これらは相場が上がっている時であれば利益が出やすいものの、下がり相場では損失を生む可能性が高くなります。一方、この戦略はショートポジションをポートフォリオに組み合わせることで、下落トレンドでも利益を生み出すことを目的にしています。相場が上昇しても下落しても、安定的に利益を狙えるのがこの戦略の特徴です」
投資の基本はロング(買い)だが、どんなに良い銘柄を選んでも、相場全体が下がっていればその動きに巻き込まれて株価が下がる可能性がある。こうした時、ショート(空売り)によって利益を出すのがこの手法。「買い・売りの両方で適切な銘柄を選んでいれば、つまりファンドマネージャーの腕さえあれば、相場のトレンドに関わらず利益を出せる戦略です」と春尾氏は口にする。
スパークスがロング・ショート戦略を運用に取り入れたのは1997年のこと。その背景には、当時の市場環境が関係していたという。
この頃、日本市場は長期の下落トレンドに陥っていた。日経平均株価は、1989年に史上最高値の3万8915円87銭を記録した後、2003年まで下降を続けたのである。「こうした厳しい相場環境の中でも、運用によって利益を生み出し、プラスのリターンをお客さまに還元したい。それがスパークスのロング・ショート戦略の起源と言われています」。
ショート銘柄の選定に用いられる「2つの視点」
ロングとショートの両方を取るといっても、あくまでロングの割合を多くするのが「スパークスのスタイル」だという。つまり、基本的には“買い”の銘柄を中心に構成して、長期的な株価の上昇でリターンを狙う。しかしその間に、短期的な下落トレンドが市場で発生することもある。そういったリスクを抑制するために“売り”の銘柄を一定数持つという。
ではどのような銘柄をショートするのか。春尾氏は「大きく2つの軸で選んでいます」と話す。
「1つは、実力に対して過大評価されている銘柄です。
もう1つは、長期的に見てマーケットが縮小していく業界におり、その中でも劣後したポジションにいる銘柄だ。過去の歴史で例を挙げるなら、産業革命で自動車が普及するかたわら、馬車などの交通手段は衰退していった。同じく、西洋から洋服文化が入ると、日本で和服を着る人は減っていった。こうした「構造的に長期で縮小していく業界」の中で、厳しい位置にいる銘柄がショート候補となる。
ただし、ショート銘柄選びは難しさをともなう。たとえば、1つ目の軸として挙げたバブル化している銘柄は「一般的には割高に見えても、株価上昇自体が次の株価上昇への期待を膨らませ、さらに株価を伸ばすことも少なくありません」とのこと。また2つ目の軸についても「アクティビスト(※)が業態転換を迫ったり、株主還元の強化を要求することで株価が上昇するケースが近年増えています。アクティビストが投資をしていることが判明しただけで急騰することも少なくありません。」と話す。だからこそ、慎重に企業の動向を観察して“売り”の判断を下すことが重要になる。
※投資先企業に積極的な提言を行う株主のこと
「ショート戦略の怖さは、損失の可能性が無限大である点です。
こうした難しさがあるからこそ、「もしロング・ショート戦略を行うなら、プロのファンドに任せたほうがよいと思います」と春尾氏。個人投資家は「基本的にショートすべきではない」と明快に告げる。それは決して営業トークではなく「売りの怖さ」を知っているからこその助言だろう。
理想的な「プラスサム」に突入の日本市場、なかでも注目は……
スパークスの投資は、企業の実態価値、つまりは実力値とその企業の株価の“乖離”に目をつけるところから始まる。もし実力値よりも株価が割安であれば、いずれその差は埋まると見て銘柄を買う。反対に割高ならショートする。さらに、その“乖離”が埋まるきっかけや時期を加味して投資のタイミングを探る。こうして利益を獲得していくのが基本スタンスだ。春尾氏もこの判断軸で日々の運用を行っている。
2008年に新卒でスパークスAMに入社した春尾氏は、1年目からリーマン・ショックを経験するなど、さまざまな状況を見てきた。その道のりがあるからこそ、どんなに市場が急変しても判断軸をぶらさず、実力値と株価の乖離を冷静に見ることを心がけていると話す。
では同氏にとって、今の日本市場はどう映っているのだろうか。そう聞くと「魅力的な市況になりつつある」と伝える。
「日本は持続的なインフレ環境に転換していますし、企業の動向を見ても、株主を尊重した経営が浸透してきました。これらにより、プライム市場を中心に株価が上昇しています。多くの投資家が利益を得られる“プラスサム”の市場環境になってきたと感じます。」
その上で、これから投資する対象としては「中小型株、とりわけグロース市場銘柄に注目している」と春尾氏は付け加える。
「大型株中心のTOPIXや日経平均株価がここ数年で大きく上昇したのに対し、中小型株が中心となるグロース市場は停滞が続いてきました。ですが、グロース市場すべてが悪いのではなく、なかには優良銘柄があるはずです。今はグロース市場全体の指数や印象に引っ張られて株価が停滞しているものの、確かな実力を持っているグロースの中小型株は存在します。そのような銘柄は、まさしく『実力値と株価の乖離が起きている状況』であり、チャンスがあるでしょう」
投資上達のコツは「SNSを見ないこと」
新しいNISAにより、ここ数年で投資を始めた人は格段に増えた。その中で個人投資家に伝えたいのは「自分で考えて投資をしてほしい」ということだと話す。
「最近は、著名なインフルエンサーのSNSを見て、その人が買っていた銘柄を『私も買いました』という人をよく見かけます。しかし投資とは、本来そういうものではないでしょう。自分で考えて、判断して行うものです。『投資は自己責任』と言いますが、それは買うという行為だけでなく、どの銘柄を買うか考えるプロセスも自分で責任を持つことだと思います。そもそも、そのインフルエンサーが本当に該当の銘柄を買っているのかわかりません。何より、自ら考えて買わなければ、知識も積み上がらないでしょう」
ついインフルエンサーの言葉に流されて投資判断をしてしまう――。そういった人に対しては「SNSを見ないことから始めてみてはいかがでしょうか。そのほうがパフォーマンスは上がるかもしれません」と和やかに伝える。
社会人1年目にリーマン・ショックを経験して以来、春尾氏は、つねに「明日は何が起きるかわからない」と頭の片隅で考えながら投資に携わってきた。2020年のコロナショックでも、その思いを強くしたという。あの時のように市場が“窮地”に陥った時、自分が保有している銘柄を手放すべきか、持ち続けるべきかという判断は、結局のところ、なぜ自分がその銘柄を購入したのかとつながってくる。だからこそ、自分で考えて投資しなければならない。さまざまな相場を見てきたファンドマネージャーだからこそ、その言葉には強い思いが込められている。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

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