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■公式戦初手合
NHK杯囲碁トーナメント2回戦第13局。
対局前の控え室では、上野愛咲美女流棋聖のスマートフォンを許家元碁聖がのぞき込みながら、詰碁の話題で盛り上がるなど、和やかな雰囲気が漂う。ふだんから研究会などで顔を合わせているからだろう。「いつものNHK杯の緊張感がなく、リラックスできました」と言う許碁聖だが、「上野さんは力強い。気を抜くと一瞬でツブされてしまう」と気合いを入れ直す。
それに対し「1回戦は知らないうちに終わってしまった感じでしたが、今回は『NHK杯だ!』という実感がありました」と言う上野女流棋聖。「許さんは何でもできる。好きなように打っているとツブされるので、早く終わってしまわないように頑張ろう、という思いでした(笑)」
■短手数で決着
許碁聖の黒番で始まった対局は、序盤からお互いに反発を繰り返し、険しい戦いに突入する。きっ抗した競り合いが続くと見られた中の59手目、許碁聖から狙い澄ました切断の一手が繰り出される。するとこの手を全く考えていなかったという上野女流棋聖はみるみる失速。「これはまずいぞ…。
「上野さんの見損じが大きかったですね。切断がなければ、ゆっくりした進行になっていたでしょう」との許碁聖の感想に対し、上野女流棋聖は「やっぱり、許さんはすごいんだな。もう一度打っても、そんなに変わらない」と力の差を感じたそうだ。
※AIの影響などについて語ったインタビュー後半はテキストでお楽しみください。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
文:丹野憲一
■『NHK囲碁講座』2019年1月号より