
柏倉陽介●ネイチャーフォトグラファー。1978年生まれ。自然風景から環境保護まで多岐にわたる被写体を撮影。ナショナルジオグラフィック国際フォトコンテストなど数々の賞を受賞。
なぜに礼文島? 移住を決意した理由

柏倉さんが住むのは礼文島の中でも最北端にあるスコトン岬。集落の人たちはみんなが漁師だという。
探検部だった学生時代に西表島を訪れた頃から島に魅力を感じていたという柏倉さん。20代後半に雑誌の編集者からカメラマンに転身し、それからは仕事で世界中の景色を撮影してきたが、なかでもお気に入りの屋久島には通い詰めていたという。そんな柏倉さんが礼文島と出会ったのは、礼文島を舞台にした小説『北のカナリアたち』(幻冬舎)の著者・湊かなえさんとの仕事がきっかけ。ただ、当時は利尻島のみの滞在だった。「礼文島は花が美しい島ですよ、って湊さんに教えてもらったんです。いつか行こうと決めてましたが、たまたま2021年の夏に、礼文島の風景写真を撮る仕事が舞い込んできて……」。
最果て感も相まってスコットランドにも似た景色の礼文島。
高い木がなく、なだらかな地形に芝生のような植物が沿って生えている独特の風景。「車を停めて眺めた風景を見て、『これだ!』って衝撃が走ったんです。
失敗① 資材の運搬に時間と労力をかけすぎた
何もかもが順風満帆というわけにはいかない。象徴的な失敗談が3つある。

日本最北の島までの車移動は気が遠くなるほど果てしない。
往復で約2700キロの行程だが、柏倉さんは資材の運搬のため2往復。今となっては、もっとうまい方法があったはずだと後悔を口にする。「資材にこだわり始めると稚内のホームセンターにはないんですよ。でも今思うと、資材の調達は北海道内でやるべきだし、できましたね。ハイエースをレンタルして北海道全域を回って調達すれば、運搬費も労力も3分の1は削れたと思います(笑)」。Amazonなども駆使したが、礼文島までの配達には資材の長さや重さに制限があった。札幌にもホームセンターは充実している。教訓① 資材はできるだけ近場で調達すべし
失敗② 孤独なDIYにおけるケガを想定していなかった


これまでは神奈川の自宅の壁リフォームや、友人の書店の本棚を作ったりのDIY。大規模改修を独学でひとりで行った柏倉さん。
流血している自分にパニックを起こし、助けを求めて大声で叫ぶも風の音が強く、近所の人に届くことはなかった。 「2軒となりに住む元オーナー宅に駆け込みました。目がえぐれているような痛みで、これはただ事じゃないと思って……」。
教訓② 危険性がどこにあるかよく想像しながら動くべし
--{}--失敗③ 作業を甘くみて時間配分をミス


まったく別のスペースにシャワールーム、洗面台を作るなど、難度の高いリフォームを手がけた。
この5月に礼文島を訪れたときは、床一面に貼ったフローリングの一部が山みたいに盛り上がっていたという。「びしっと完璧に貼ったと思ったんですけどね、フローリングを貼ったのは冬の乾燥した季節。だんだん暖かくなって、湿気で木が膨張したんですよ。まったくの想定外。締め切りを設定すると、そのゴールに向かって頑張れるメリットはありますが、うまく行かないと焦る。ちゃんとやっているつもりでも、塗り方や貼り方が雑になるんです。ゆっくり、3~4倍の時間をかけて楽しんでやればよかったなって、今となっては思いますね」。教訓③ DIYの時間配分は余裕を持つべし

ギャラリーをイメージした内装の出来に大満足とのこと。
見切り発車だったリフォーム計画。現在はなんとか8割まで完成したが、振り返ればもっとうまくできたことは多分にある。とはいえ、今では礼文島に行く度に夢が広がり、次の滞在では何をしようと思案するのが楽しいという。
夜空の圧倒的な綺麗さも礼文島の魅力。「自然写真家として完璧な島」なのだという。
「時々、漁師の方が声をかけてくれて、バフンウニの剥き作業を手伝わせてくれるんですよ。採れたてのウニを食べたときの感動はすごかったですね。まだのんびりできる年齢でもないので、仕事をしながら礼文島と本土を行ったり来たりですが、写真教室も始めたいし、礼文島をいろんな人に知ってほしいので、長期滞在できる施設も作りたいんです。ゆくゆくは島のツアーや共同の無人販売所を始めたり、星空展望台を作ったり、そんな未来を想像しています。礼文島まで来るのは大変ですが、長く住みたくなる土地になると確信しています」。◇古民家のDIYで失敗を重ねた柏倉さんだが、島の美しい風景と天秤にかければ取るに足らないものかもしれない。とはいえ、島への移住や家のリフォームを検討している人はぜひ参考にされたし。