シュレッダーを駆使し、唯一無二のコラージュアートを創出する河村康輔さん。
そのカオスを表現したかのような作品は、中学生時代から習慣的に観るようになった映画からの影響が大きかったそう。
「25年前くらいにイギリスの“スキンズ”という若者たちに興味が湧いたのですが、いろいろと調べたら政治的イデオロギーの濃いものだとわかり、大好きだったにもかかわらず公に言いづらくて。でも『THIS IS ENGLAND』を観たら、抱いていたスキンズのイメージが変わりました」。
「思想や国籍、人種などに関係なく自分の生きる道を見いだすことの大切さみたいなものが描かれていました。これを観た2006年頃はまだアートで生計が立てられず、このまま続けるべきか迷いがあったので背中を押してもらった作品ですね」。
毛色は異なるが、次の2つの映画も創作の原点になっている。
「逃避行する男女を中心に、愛とセックスと暴力を映し出した『ワイルド・アット・ハート』、また主人公が麻薬の密売王に成り上がるまでのめちゃくちゃな日常と自滅するまでを描いた『スカーフェイス』も、今の自分の核になっている作品です。
現実&非現実、またフィクション&ノンフィクション、どちらとも取れるような不思議な映画なのですが、そういう幻想的な部分をコラージュという技法を通じて自分の作品でも表現したいと思わせてくれた映画です」。

3作に通底するのは、人間が持つ汚く醜い部分ときれいで尊い部分がむき出しになっており、それらがこれでもかというくらい神々しく表現されているところ。河村さんのコラージュ作品に見られる蠱惑的な魅力とつながるものがあるが、今回のテーマであるルームウェアとはどんな関係があるのだろうか。
「どの作品のキャラクターも屋内外を問わず、服装をあまり変えないんです。『THIS IS ENGLAND』はポロシャツにサスペンダーという典型的なスキンズスタイルで、『ワイルド・アット・ハート』は主人公が常にヘビ柄のジャケットを着ている。
『スカーフェイス』では、ほとんどのシーンでシャツのボタンがはだけたセクシーな大人の着こなしが見られる。どれも男としていっさいぶれずに同じスタイルを貫いており、そういう部分にすごく憧れました」。

各作品のキャラクターと同様、河村さんも服装は常に同じであるという。外出する際もルームウェアも、常に黒い服を纏っているらしく、そこには理由がある。
「この仕事を始める20歳くらいのときに、生活したり表現したりするうえでいちばん難しいことを自らに課そうと決めたんです。というのも、当時は上京したばかりで知り合いもいなければ仕事もなく、逃げグセのある僕は何だかんだ理由をつけて実家に帰ってしまいそうでした。
だからそうならないように意志の表示として難しいことに挑戦しようと思い、考えているうちに『普通であること』がいちばんしんどいのではないかと気付きました。『普通』って一歩間違えたらダサくなったり、気取った感じになったりすると思うんです。
それでは何が普通か?と考えて出た答えが、何もいじらない黒い髪に黒い服。黒という色は普通だけど意志の強さを感じさせる色ですし、逃げずに頑張るという意味でも着ていました。髪型も服装もいつも同じならカッコつけたいと考えず、より創作に集中できますからね」。
河村康輔●1979年、広島県生まれ。
オオサワ系=文