「看板娘という名の愉悦」とは……

2018年5月、東京・田町の駅前に新しい商業施設がオープンした。東口一体に広がる東京ガスの所有地で行われている再開発事業の一環だ。

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施設の名前は「ムスブ田町」。エリア内のステーションタワーSには、飲食店、スーパーマーケット、ホテル、コンビニ、オフィスなどが入居する。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
和洋中と個性的な飲食店が立ち並ぶ1階。

今回訪れたのは「大衆酒場 BEETLE 田町」。客単価3000円未満ながら、現代的な洗練さも併せ持つ“ネオ大衆酒場”という業態をいち早く取り入れた居酒屋チェーンだ。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
レトロとモダンないいとこ取りといった外観。

店内では看板娘が働いていた。「いらっしゃいませ~」ではなく、「こんばんは~」という挨拶で迎え入れてくれる。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
手前には大衆酒場の象徴ともいえるコの字型カウンター。

さて、席に着いてドリンクメニューを見る。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
「ヨーグルト酎ハイ」など気になるお酒もあるが……。

ここはひとつ、田町という立地に敬意を評して「バイスサワー」にしよう。同じ京浜東北線上に本社を置くコダマ飲料のロングセラー商品だ。セットで480円。


看板娘、登場

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
「お待たせしました〜」。

シャリキン焼酎を運んできてくれたのは、福島県南部の港町・小名浜出身の佳央梨さん(23歳)。1年半ほど前から、この店でアルバイトをしている。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
料理は人気ツートップを注文。

分厚さに驚かされる「ハムカツ」と朝挽きの「レバテキ」はともに390円。枡に入っているのは焼き石。熱々の石の上にレバーを置くと、すぐに火が通る。これがやたらと楽しい。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
焼き加減も自由自在。

店内のテレビではプロ野球中継が始まった。野球の試合を観ながら飲むお酒は本当に美味しい。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
日本ハムVS楽天か。

僕は中日ファンだが贅沢は言えない。野球中継を流してくれるだけでありがたいことだ。そんなことを思いつつ、別のテレビに目を向けるとーー。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
中日戦だ。

ちなみに、もう1台のテレビでは巨人戦。これはすごい。スポーツバー以外でプロ野球の多角中継が観られるとは。

感動しつつ、佳央梨さんの話に戻す。実家の引っ越しに伴い、山梨県大月市の小学校に入学した。そこから中学、高校とバスケ漬けの日々を送る。

「中高時代は、ほぼ休みなしで練習でした。土日は他校に出向いて練習試合。スリーポイントシュートですか? 調子がいい時は10本中7、8本は入ります」。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
高校時代はキャプテンとしてチームを牽引した。

「練習はかなりきつかったです。でも、あの頃に経験した厳しさがあるからこそ、大人になっていろんなことに耐えられるようになったと思いますね。顧問の先生たちにも感謝しかありません」。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
今でも家では、しょっちゅうバスケットボールを触っているそうだ。

そんな佳央梨さんについて、店長の山口 顕さんはこう賞賛する。

「コミュニケーション能力が高いので、アルバイト全員をまとめるのが上手。僕ら社員とアルバイトの橋渡し役でもありますね」。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
バスケ部時代に培ったスキルかもしれない。

一方で、外国人の女性スタッフも言う。

「よく働くし、サボらないのが偉い。あと、わからない日本語を丁寧に教えてくれるので助かります」。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
店での立場は佳央梨さんより上だという女性。

ちなみに、佳央梨さんは6人兄弟のいちばん上。これも“人をまとめる”才能を生んだ一因だろう。

高校卒業後は山梨県内の短大へ。栄養士の資格を取るために栄養科に入学した。

「高齢者や保育園児向けなどのテーマがあり、それに沿って献立を決めます。献立を考えること自体は難しくないんですが、栄養価、エネルギー、ビタミンなどの基準数値を埋めるのが大変でしたね」。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
グループのメンバーと一緒に作成した献立例。

取材も終盤に近づいてきた。最近楽しかったことを聞くと、こんな写真を見せてくれた。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
インスタ映えする1枚。

「福島県いわき市にある『いわき回廊美術館』です。

田んぼの景色に飛び込めるブランコがあると聞いて、いとこたちと行きました」。

さて、そろそろ締めよう。そう思って再びメニューに目をやると「ホームランバー」の文字が。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
懐かしい……。

「菊正宗」の樽酒(1合400円)と合わせて注文した。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
“ネオ酒場”としてはアリなんじゃないか。

創業350年を超える老舗酒造がつくる辛口の日本酒と、昭和30年代に誕生したシンプルなバニラアイス。なんだかワクワク感を味わえる店だ。

この日、6試合行われたプロ野球では計6本のホームランが飛び出した。しかし、こちらは残念ながら“ハズレ”。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
佳央梨さんいわく、「ホームラン、私は5回ぐらい見ました」。

「忙しくて話し込む時間はないけど、常連さんから『いつもありがとう』『今日もみんな元気だね』といったひと言をもらえるだけでも嬉しいです」。

最後に読者へのメッセージをお願いしますよ。

田町の“ネオ大衆酒場”で、看板娘が中高の青春時代をバスケに捧げていた
皆さんも、ぜひ田町で“ネオ”な酒場を体感してください。

 

【取材協力】
大衆酒場BEETLE 田町
住所:東京都港区芝浦3-1-21 ムスブ田町ステーションタワーS 1F
電話番号:03-6809-6514
https://productoftime.co.jp/business_field/

 

「看板娘という名の愉悦」Vol.117
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

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