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「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……


リモート化は大変だったが簡単でもあった

コロナ禍によって政府から緊急事態宣言が出されたことにより、全国の会社はモートワーク化をせざるをえませんでした。対応をされた方々はとても大変だったことだと思います(私もそのひとりです)。

しかし、大変ではあったと思うのですが、不可抗力で「やらねばならない」ことでしたので、社内の合意形成を行うことは必要ありませんでした。

社員の皆さんも「仕方ない」と思っていたでしょうから、誰も文句を言うことはなかったと思います。そういう意味では、ゴールややるべきことは明確だったので、粛々とそこに向かってリモート化を進めればよかったわけです。

 


対面に戻っていい、となってから困難が

その後、緊急事態宣言も解除されて、各企業はテレワークを「やらねばならない」という状態からは解放されました。

しかし、多くの経営者や人事の方々は実感されていると思うのですが、「どのような状態に戻すのか」を決めて、「社内の合意形成を得る」という困難が待ち構えていたのです。

「リモート化」は「リモート化」であり、どうすべきか明確です。出社しないでなんとか仕事を継続できるようにすればよかったのです。しかし、「完全リモート化しなくても良い状態」というのは、バラエティに富んでいます。

完全にもとのリアルに戻すということから、リモートワークを続けるまで無数の段階があります。これを自社はどこにするのかを決めなくてはならなくなったのです。


まず、「どこまで戻すのか」という問題

まずはそもそもどこまでリモート化を解いて、どこまで今までのリアルな対面での仕事に戻すのかというバランスを決めなくてはなりません。

実はここについては、比較的やるべきことは明確で、さまざまな事例や研究などのエビデンスに基づいて、自社の事業や仕事の特性から考えれば、どういう働き方が適しているのかを論理的に考えていけばよいのです。

まだ研究や各社の実践が現在進行系であるということが難点で、確信的に「これがいい」とまでは言えなくとも、それでも既にかなりのエビデンスが集まっています。

それらを踏まえれば、自社はどういう働き方に戻すべきか、ある程度はわかります。

 


難しいのは「合意形成」

次に、どういう働き方にするかというゴールが決まったとしても、それを社内に発表して、納得や合意を得なければなりませんが、実はそれが難しいのではないかと思います。

リモートワークのメリットを一度知ってしまった人は、もとのリアル出社に戻ることに反発を感じるかもしれません。

リモートワークがつらかった人は、喜ぶかもしれません。このように、全員が完全に納得するような働き方はありえないからです。

つまり、どんな働き方に決めようとも、絶対に誰かは不満を持って、反対しているということです。ここを人事制度を作るのと同じくらいの丁寧さで対応していかねばならないと思います。


エビデンスがここで効いてくる

もし、働き方を決めるのに、社員各自の「好み」だけで考えていたら、先に述べたように絶対に合意はありえません。

ここで効いてくるのがエビデンス、です。みんながそういう働き方をしたいから、で説得するのではなく、このように働くほうが自社の仕事においては、効率的であり創造的であるということを、事例や研究などによって説得することが必要です。

働く人々の価値観はとても重要ですが、そもそも働く目的は事業を通じて社会に価値を提供することですから、この観点から「この働き方がよいのだ」と言われれば、まともな人なら納得せざるをえないでしょう。

 


ただし、うれしいかどうかは別

しかし、「納得せざるを得ない」ということは「心から同意している」こととは違います。理性的に考えてそのほうがいいのであれば、自分は完全リモートワークがいいのだが、渋々リアルに戻ろう、などと考えているわけです。

そこへ、リアルな場で仕事をするのが好きなマネジャーたちが、明るく「やっぱり対面はいいなあ。マネジメントもしやすいし!」などと放言していると、彼らはどう思うでしょうか。きっと「あなたたちのような人がいるから、本当はリモートワークができたのに、リアルに戻ってしまった」と思うことでしょう。

現状の各社員やマネジャーのリテラシーが理由でリアル化を進めた場合は特にそうです。


誰がどういう働き方の価値観を持っているか知る

ですから、つまらない話ではありますが、明るく「リアルがよい」とか「リモートがよい」とか、仮にも多くの人をまとめるマネジャー層や経営や人事は言ってはいけないのです。

どんなゴールを作っても、誰もが少しずつ我慢しているというのが実態なのですから。それを察することなく、決めた新しい働き方、自社における「ニューノーマル」を礼賛していると、「人の気持ちのわからない鈍感な人」だというレッテルを貼られてしまうかもしれません。

コロナ後の働き方はまだまだ全国で模索中です。くれぐれも軽口を叩かないようにし、社員の「好きな働き方」の本音を聞き出すようにしましょう。

 

連載「20代から好かれる上司・嫌われる上司」一覧へ

「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。

好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。
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リモートから対面に戻ってマネジメントしやすい、と安堵する上司は20代から嫌われる
『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)

曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

石井あかね=イラスト