「“職遊融合”時代のリアルライフ」とは……
2020年は生活が激変した1年だった。リモートワークやワーケーションが注目を浴びた。
そのリアルユーザーたちに話を聞く本企画。今回は、静岡県掛川市でマルチに活動する長濱裕作さんを尋ねた。
PROFILEフリーランス
長濱裕作さん
1981年、長崎県生まれ。幼少期に移り住んだ静岡県掛川市で、ライター、ゲストハウス「どこにもない家」の運営、空き家活用を推進するNPO法人「かけがわランド・バンク」のコミュニティマネージャーなどマルチに活動。
もっと自由に、もっと好きに生きるために
生まれ育った静岡県掛川市を拠点に、フリーランスのライター、講師業、ゲストハウス「どこにもない家」の運営、NPO法人「かけがわランド・バンク」への参加など、多岐にわたり活動している長濱裕作さん。しかし1年ほど前まで仕事は、ほぼライターだけだった。
それがなぜ、今のような多彩な顔を持つにいたったのか。答えはLACとの出会いにあった。
「2019年6月に、LAC伊豆下田でワーケーションのイベントが開催されました。『参加してみませんか?』と声をかけてくれたのが、ユーザーとして活用していた、クラウドソーシングのサービスを提供するランサーズ。
振り返れば、このイベントに参加していなかったら今の僕はいなかったでしょうね」。
人生を変えた、破天荒な人たちとの出会い
イベントは地域の企業が抱える課題をフリーランスが力を合わせて解決していくもの。
下田市役所や飲食店などの地元企業と7名ほどのフリーランスが参加していた。
「こういう働き方、生き方をしたいと思える人がたくさんいました。新卒で入社した会社を退職し、2年ほどライター活動をしていたタイミング。目の前の仕事や収支といった数字に追われ、やや視野が狭くなっていたんです。
内向きの暮らしを送るなかで、外の世界を見た瞬間だったといいますか。今まで出会ったことのないタイプの人たちと出会え、もっと自由にやっていいんだ、もっと好きなように生きていいんだと思える時間を過ごせたんです」。
以降、同年8月には築140年の古民家を改装したゲストハウス「どこにもない家」をオープン。空き家の活用を推進するNPO法人「かけがわランド・バンク」にも参加するなど、ライター以外の仕事を増やしていった。
もっと自由に、もっと楽しく生きるため、歩んでいくベクトルに修正を加えた結果、1年ほどで仕事と生活は劇的に変わった。
12年勤めた会社を辞めて、フリーになったワケ
大学から県外へ。学生時代にはバックパッカーとしてアメリカ、インド、ベトナム、カンボジア、モンゴルを巡った。
就職は東京の企業へ。関東を転々とする転勤も経験した。
単身赴任中、妻に田舎で子育てがしたいと相談した。すると賛同され、背中を押された。
そして12年勤めた会社を退職。
終身雇用が約束された時代ではない。しかし一度所属した組織からの離脱を自ら決めるのは、そう簡単なことではない。
「自分なりの道を歩んでいる人たちは、それなりの覚悟を持っている印象はありますね。
長期的視野を持ちづらく、流されている余裕のない生活ですから、悩んでいますし、苦労しながら自分で選択をしています。
でも僕は長期的視野を持てる方が不自然だと感じているんです。
自然のことを考えたら台風や地震がいつくるのか分からない。先のことは分からないのが当たり前で、だからこそ、今を大切に生きたい。いつ死のうが後悔のない時間を日々送りたい。そういうところに意識が向いています」。
長期的に物事を予測して行動を決めるのは難しい。だから、5年、10年ほどの単位で先を見て、“こうありたい”“こういう方向で進みたい”と歩んでいく方向を明確にすることを意識する。目下のところフォーカスしているのは、掛川に腰を据え、地元をより良い街にしていくことである。
なぜLACを利用するのか?
長濱さんに転機を与えてくれたLAC。その魅力を改めて教えてもらうと、まずはそこに集ってくる人をあげてくれた。
「LACの人たちは、褒め言葉として“変人”“変態”という言葉を使っていますけど、まさしくその通り。みんな型破りなんです。
具体的には、若くて独身で、場所に縛られない仕事をしている人が会員になっている印象ですね。ライターやノマドワーカーといった、オンラインですべての仕事を完結させられる人たちが僕の周りには多い。彼らと触れ合うと元気が出て、よし、僕もやってやろうと、そんな気分になってくるんです」。
これまで利用が多いのは伊豆下田。利用方法は大きく2パターンあり、ひとつは現地で仕事があることによる滞在。もうひとつは行きたい場所があり、その近くにLACの施設があった際の利用だという。
最近は後者の理由から、山梨にあるLAC富士吉田を初利用した。2020年9月にオープンしたLAC8番目の拠点は、住宅街のなかにある4階建てビルの3階にワークスペースがあり、レジデンスは近隣にある複数のゲストハウスと提携。今回はそのひとつ「ホステル1889」に宿泊した。
「感動したのが、いつでもどこでも富士山が“ドン”といることでした。ワークスペースにいても“ドン”。車で走っていても坂の上の向こうに“ドン”。ずっと富士山が近くにいる感じで、街並みも富士山に登る人が利用する古い宿などがあって、情緒に溢れる雰囲気が素敵でした」。
富士山に見守られているような雰囲気のなかで仕事をし、ひと段落つくと知人に会いに施設の外へ。ランチを食べながら近況報告などを楽しんだ。
こうしたひとときは“外は楽しい”と再確認する時間でもある。そもそもがバックパッカー経験者。今後も地元に埋没してしまうのではなく、外への視点を持ちフットワーク軽く動いていたいという。そうして得た刺激を、地元に持ち帰りたいと考えている。
今は、LACを仕掛ける側に⁉︎
さて、掛川での試みについてである。
長濱さんは2019年末から地域のNPOに参加しているが、それは空き家対策を目的とするもの。だから地元の空き家に関する情報に詳しい。また自身がゲストハウスを運営しているという経験もある。
そのため、掛川でLACを展開したいと思うようになった。あとは採算を含めた具体的な事業計画の作成。提案が受け入れられれば、プロジェクトは本格的に始動する。
「働き方の選択肢の少なさは地方の現状ですが、そこは伸び代でもあると感じます。選択肢を広げるために、まずはいろいろな働き方をしている人たちに来てもらう。その人たちと、子供を含めた掛川の人たちが触れ合う。視野を広げられる環境が大切で、LAC掛川はその拠点にしたいと思っています」。
“いろいろな働き方をしている人たち”とは、長濱さんがLACで出会ってきたような人たちだ。彼らと出会い、何より長濱さん自身がマインドチェンジできた。
今度は同様の化学反応を地元に起こし、自分のように楽しく暮らす人を増やし、地元が楽しい場所になっていけばいいと考える。自分の住んでいる場所が楽しくなれば自分も楽しい。そう考える。
「リビングエニウェアコモンズ(LAC)」
あらゆる制約に縛られることなく、好きな場所で、やりたいことをして暮らす生き方を実践するための“コミュニティ”。現在、会津磐梯、伊豆下田、岩手県の遠野など日本全国5カ所に展開する(詳しくはHPを参照)。いずれもWi-Fi環境や電源などを完備したワークスペースと、長期滞在を可能にしたレジデンススペースからなる複合施設だ。2020年中には計10カ所のオープンを目指している。
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「“職遊融合”時代のリアルライフ」とは……
モーレツ社員が礼讃された高度成長期から、ライフワークバランスが重視される2000年代へ。そして今、ワーク(職)とライフ(遊)はより密接となり、「そもそも区別しない」生活が始まった。ワーケーションなどのサービスも充実し、職場の常識も変わり、身の回りに新しい暮らしを実践する仲間も増えてきた。さて、あなたはどう生きる?
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小山内 隆=取材・文