「“職遊融合”時代のリアルライフ」とは……
北は岩手県遠野市から南は沖縄県うるま市まで、ユニークなワーケーションサービスを展開するコミュニティが「リビングエニウェアコモンズ(LAC)」だ。
そのリアルユーザーたちの声に耳を傾けると、新しいライフスタイルのヒントが見えてくる。
ローカルフリーランス
宮部誠二郎さん
1987年、ロンドン生まれ鎌倉育ち。ローカルコンテンツを手掛ける「コノマチカラー」を屋号に活躍。地域の企業とパートナーを組んでプロジェクトを展開する一方、ローカルプレイヤーへの投資型小商チャレンジも。最近はチャイの歴史や27のレシピを載せた「チャイブック」を発刊。
おこもり仕事に最適だったLAC能登珠洲
2023年までに全国で100の拠点設立を目指すLACは、各所でオープンに向けた調整が今も行われていて、神奈川県鎌倉市もそのひとつだ。
その鎌倉が地元であり、地域に関わる仕事をしていることが縁でプレオープンの手伝いをした宮部誠二郎さんは、これまで「会津磐梯」「伊豆下田」「美馬」など、いくつかのLAC施設を利用してきた。
最近利用したのは、石川県の能登半島にある「能登珠洲」。国定公園特別地域に指定されている木ノ浦海岸を一望する施設でワーケーションが体験できる。
「海一望のロケーションが最高でしたし、築7年の施設は快適で居心地が良かったですね。全部で8棟ある綺麗なコテージに宿泊でき、部屋から海を見ながら仕事できるんです。キッチンがあるから自炊もできて、中期滞在にはもってこいだと感じました」。
今回、宮部さんは新潟で取材の仕事があり、「せっかくなら新しい拠点を体験したい」と足を伸ばして能登に入った。
「真っ青な海を見ながら入るお風呂時間は格別です」と宮部さんは気に入った様子だった。
地域の人とつながる価値
宮部さんは現在ローカルフリーランス。地域領域で展開する企業と組んでコンテンツをプロデュースしたり、雑誌編集や制作をしている。地域と関わりたい人と地域の移住者や関係人口を増やしたい人とのマッチングサービス「スマウト(SMOUT)」でも、プロデューサーを務めている。
「そのような仕事上、コミュニティにおける主要プレーヤーとのつながりを大切にしています。
LACにはコミュニティがある。それがとても魅力だと宮部さんは言う。もし滞在をレジャーで終わらせず、地域と積極的につながっていきたいのなら、LACを利用してみる価値は大きそうだ。
「LAC美馬では、コミュニティマネージャーさんが『川でワーケーションをしよう』といって、穴吹川で川遊びをしながら仕事をする時間を企画してくれました。日本一と呼ばれる清流を身近に、『美馬』ならではの時間は幸せでしたね」。
このコロナ禍、在宅が続くと息が詰まるときもある。そんなときに“場所を変える”と心身のリフレッシュになり、作業効率向上につながっていく。さらに環境の変化によって刺激を得られるだけでなく、そこで出会う人との時間から新たなアイデアが生まれるもあると、宮部さんは話す。
「地域」に興味を抱いた理由
宮部さんが「地域」に興味を抱いた理由はいくつかある。ひとつは、学生時代に鎌倉で映画祭を企画したこと。
当時は鎌倉が世界遺産登録を目指していたタイミング。映画祭を行えたら街は盛り上がり、これから映像の世界を目指す人たちにも認知されるのではないかと考えた。
その過程で、鎌倉という街をもっとよく知るため、地域のまちづくりワークショップなどに参加。若い人から高齢者まであらゆる年代の人たちと交流して、改めて自分の街を知り、同時に彼らが「自分たちの街をどうしていくのか」について熱く議論を交わす姿に衝撃を受けた。
映画祭は卒業と重なるなどタイミングが合わずに実現できなかったが、この衝撃を伝えるべく鎌倉の街の人を通して街の魅力を伝えるフリーペーパー「KAMAKURA」を創刊した。
以来、宮部さんは地域コミュニティや街づくりに強い関心を抱いていく。大学院で地域ブランディングや地域愛の形成についての研究を行ったのちに、暮らし領域でのサービスを展開する「ライフル」へ入社。8年勤務した昨年退社し、ローカルフリーランスとなった。
単純な“お金儲け”には面白みを抱かない宮部さんは、いろんな地域の人とつながり、暮らしに触れられる生き方が豊かだと感じる。
公私で地域を巡るのはそのため。そして友達だけれど仕事やプロジェクトがあった際にはビジネスパートナーにもなっていくつながりを、全国で増やしていきたいという。
都心の一軒家よりも、各地に拠点を
全国の各地域に仲間を作っていきたい宮部さん。それは鎌倉という明確な本拠地を持つからこその考え方でもある。
「僕はノマド的にさすらうよりも、拠点は鎌倉に置きながら地域へ赴くライフスタイルがいいなと思うタイプ。ちゃんと根を下ろした“自分の場所”があり、そことは別に気兼ねなく行けるスポットが全国にいくつかある。そこにはコミュニティがあり、仲間がいる。そういう暮らしが理想なんですよね」。
理想の暮らしを築くうえで、個人メンバーの場合は月額2万5000円で各施設を利用できるLACは便利。今は1カ月に1~2回の利用が現実的だというが、今後は季節に合わせ、その地域の一番いい時期に短期滞在するといった使い方もしたいと話す。
一方、本拠は生まれ育った鎌倉。学生や会社員の時代は多くの時間を都内で過ごしたものの、都心に高価な本拠を構える発想はない。
「都心の一等地に数千万円の家をひとつ買うより、全国10カ所に拠点を持ったほうが人生楽しそうじゃないですか? 地域の空き家に関するプロジェクトに関わったりすると、本当に素敵な物件でも数十万円で購入できて、固定資産税もそれほどかからない家が多くあるんです。そうなると年に数回行くだけで元が取れる。それに日本は自然災害が多いから、拠点が複数あればリスクヘッジにもなりますよね」。
勝手知ったる地元を持ちながら“準・地元”を日本の東西南北に持つという理想の暮らし。そこには、まさに自由な風が吹いている。
「リビングエニウェアコモンズ(LAC)」
あらゆる制約に縛られることなく、好きな場所で、やりたいことをして暮らす生き方を実践するための“コミュニティ”。現在、会津磐梯、伊豆下田、岩手県の遠野など日本全国5カ所に展開する(詳しくはHPを参照)。いずれもWi-Fi環境や電源などを完備したワークスペースと、長期滞在を可能にしたレジデンススペースからなる複合施設だ。2020年中には計10カ所のオープンを目指している。
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「“職遊融合”時代のリアルライフ」とは……
モーレツ社員が礼讃された高度成長期から、ライフワークバランスが重視される2000年代へ。そして今、ワーク(職)とライフ(遊)はより密接となり、「そもそも区別しない」生活が始まった。ワーケーションなどのサービスも充実し、職場の常識も変わり、身の回りに新しい暮らしを実践する仲間も増えてきた。さて、あなたはどう生きる?
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小山内 隆=取材・文