2拠点生活を決意するも、コロナ禍が向かい風となってしまった小口大介さん。しかし自然豊かな場所に身を置きたいという想いは募るばかり。

そんな中で小口さんが巡り合ったのが、長野県・八ヶ岳の家だった。

 


僕がやりたいのはアウトドアでの体験を“共有すること”

長野県八ヶ岳にセカンドハウスを建てた男の野望は、アウトドア体...の画像はこちら >>

当初は生まれ故郷である北海道の物件を探すつもりだった。しかしながら昨年来のコロナ禍により風向きが変わる。他都府県との往来自粛要請などが断続的に続き、小口さんの考える2拠点生活が物理的に難しくなってしまったのだ。

「とはいえ、自然の中に身を置きたいという気持ちは高まるばかり。ならば北海道はいったん諦めて、首都圏に近い場所で探そうと思い直したんです」。

同じく中央自動車道からアクセスの良い山梨県富士吉田市や、北杜市の物件なども検討。

そんななかで巡り合ったのがこの家だったのである。

長野県八ヶ岳にセカンドハウスを建てた男の野望は、アウトドア体験の“共有”
「開墾鍬」を使って地ならしをする小口さん。土の掘り出しや木の根も切断できる鍬だ。「自分で使うと道具の意味がわかります」。

「この家で僕がやりたいことはとても単純。チェーンソーで木を伐採して小道を作る。斜面を切り崩して焚き火スペースを作る。そういった作業を、家族や友人たちと一緒にやる。

アウトドアでの体験を“共有すること”が大事なんじゃないかな、と思っているんです。

特に子供たちには貴重な体験だなと」。

長野県八ヶ岳にセカンドハウスを建てた男の野望は、アウトドア体験の“共有”
「都会者たちが頑張ってますね(笑)」と小口さん。大人も子供も、アウトドアでの作業は時間を忘れて夢中になってしまうものだ。

その言葉のとおり、この日も会社員時代からの友人たちが集まった。めいめい協力しながら、敷地内の“焚き火場”の整備を進めている。その光景が実にいい。

木を切る人、丸太を運ぶ人、土台に敷き詰める人。誰もが自然の中で、楽しみながら作業を続けている。

「僕も含め土木作業は全員まったくの素人。でも何とかなるものです。こうやって気持ち良く身体を動かしたあとの夜の宴が、すごく盛り上がるんですよね(笑)。

そして翌朝は、ストーブをつけて部屋が暖まるまで本当に寒い! でもこれがいいんです。些細なことですが、健康的な生き方だなあと実感できるんですよ」。


気心“知れない”人たちと出会う

自然の中に身を置くこと。

そこでの経験を共有すること。このセカンドハウスは、小口さんが期する目的を実現して十全に機能している。

加えて思わぬ副産物ももたらしてくれたという。それは新しい人たちとの、新しい出会いである。

「実はこの家は、月額制の多拠点生活サービスの拠点に登録されているんです。会員の方は好きなときにこの家にやってきて、思い思いに過ごしていく。

それが自分にとって大きな刺激になっていますね」。

長野県八ヶ岳にセカンドハウスを建てた男の野望は、アウトドア体験の“共有”
6部屋のうち1つがオーナールームで、5部屋がゲストルームとなる。この家にマッチする山小屋風のベッドがそれぞれの部屋に設置。

つまり小口さんは間違いなくオーナーであるのだが、宿泊施設の管理人でもあるというわけだ。もちろん会員はそれぞれの部屋に宿泊し、小口さんにはオーナールームがある。

とはいえリビングやダイニングは共有スペース。会員と管理人、あるいは会員同士の間には、自然な交流が生まれるのだ。

長野県八ヶ岳にセカンドハウスを建てた男の野望は、アウトドア体験の“共有”
明るい陽射しが降り注ぐダイニングテーブル。この場所もまた小口さんと来客たちとの大事なコミュニケーションスペースだ。

「社会人として培ってきた人脈は何ものにも代えがたい貴重な財産です。

そのおかげでフリーランスとして生きていられるわけですから。でも一方で、この年になると“気心知れた人たち”とばかり会うようになってしまうんです。

40代後半の僕が、20代のまったく新しい考えを持つ若い人たちと出会い、語り合う機会はなかなか得られません」。

家族、友人、そして新しく会う人たちと時間を共有する森の家。そこから生まれる新しいコミュニケーションは、それぞれの人生にとって豊かな時間を作り出し、多くの示唆を与えてくれることだろう。

 

HOUSE DATA
竣工:1988年
構造・規模:木造亜鉛メッキ銅板葺き・地上2階
敷地面積:1348㎡(約407坪)
建築面積:127.7㎡(約38坪)
設計:川上村、シンカイ
間取り:日当たり抜群で風通しの良い斜面に立つ、2階建ての6LDK。1階にはキッチン、ダイニング、リビングおよび客室が2部屋。2階に客室4部屋となる。地下部分と軒下に収納スペースがある。

 

清水将之、山本雄生、川崎一徳=写真 加瀬友重=文