「カラダのメンテナン酒」とは……
今年になって、ヤケに目にするようになった“微アルコール”。アルコール度数を1度以下に抑えた新ジャンルで、“微アル”との略称ですでに広く浸透し始めている。
微アルのビールは、通常のビールと同じ醸造過程で作られたあとにアルコール分を取り除く、あるいは、途中でアルコール度数が上昇しないよう発酵をストップする、という製法で作られるため、ビールの醍醐味である旨味やコクが損なわれないと評判だ。
しかも、ビール好きで知られる医師・大川章裕さんによると、抜群の健康効果をもたらす可能性もあるのだという。要するに、「アルコールの弊害を(ほとんど)気にしなくていいぶん、ビールの持つ健康効果だけを享受することができる」というワケだ。
より詳しい話を聞くため大川医師を訪ねた。


“老い”の原因、体のサビをストップ!
大川医師が、微アルのビールで期待する健康効果として真っ先に挙げるのが「抗酸化作用」だ。
リンゴが酸化によって茶色く変色して腐るように、人間の体も加齢とともに酸化していく。酸化が進めば、体調不良を引き起こしやすくなり、肌にシミが増えハリがなくなるなど、老けっぷりが表面化する。これに抗うのが抗酸化作用だ。
「ビールを飲んだときに、苦味を感じますよね。その正体は、ホップというアサ科のツル性植物です。このホップには、抗酸化作用の強いポリフェノールが含まれています」。
ポリフェノールというと、赤ワインを思い浮かべる人も多いだろう。しかし大川医師は、ビールに軍配を挙げる。
「確かにポリフェノールの含有量は、赤ワインのほうがビールよりも1.5~2倍多いという結果が出ています。しかし、これを”体内での吸収性”という観点から見てみると、ビールの方が抗酸化活性の上昇が認められたのです」。
ビールには、赤ワインとは体内での吸収性の異なる抗酸化成分が含まれている可能性があることが示唆されたそうだ。そしてこの抗酸化成分とは、ホップに含まれるイソフムロンというポリフェノールの一種であることが分かったのだという。
「イソフムロンのほかにもホップにはキサントフモールというポリフェノールが含まれています。この成分にも抗酸化作用や抗がん作用、骨分解抑制作用(骨粗しょう症予防)などがあるんです」。
話題のGABAが入眠をサポート!
抗酸化作用に加えて、大川医師が注目するのが安眠効果。その秘密は、ホップに含まれるGABAにあるそうだ。
GABAはアミノ酸の一種で、ストレスを軽減させたり、リラックス効果があることで、近年熱視線を浴びている。GABA入りのチョコレートなどが人気だが、なんと、ホップに含まれていたとは。
「GABAには、脳を落ち着かせるα波を増やし、副交感神経を優位に導く働きがあります。そして、さまざまな論文で、このGABAが入眠をスムーズにすることが明らかになっているのです。
過度なアルコール摂取は眠りを浅くしますが、微アルだったらよほど飲みすぎない限り、過度なアルコール摂取の心配がない。
多様な栄養成分は酒の中でもピカイチ!
微アルのビールの主原料はビールと同様、ホップのほかに麦芽とビール酵母だが、これらにも特筆すべき成分が含まれているという。
まず、麦芽にはB1、B2、B6などのビタミンやミネラル類が多く含まれる。
「特に、麦芽にビタミンB群が揃っている点は注目したいところです。ビタミンB群はそれぞれが単独で動くというより、お互いに助け合ってエネルギーの供給や老廃物の代謝に働きます。ひとつだけを大量に摂ったのでは、ほかのB群の欠乏を引き起こす可能性があります。その点、麦芽はバランスよくビタミンを取れるのです」。
それぞれのビタミンには、主に以下の働きがある。
ビタミンB1:糖質の分解を助け、疲労回復、食欲増進、神経系の鎮静作用あり。
ビタミンB2:タンパク質や脂質の代謝を促し、健康な皮膚や髪の毛を作る。
ビタミンB6:免疫機能を高め、自律神経を正常に。
「ビール酵母には、腸内の乳酸菌増殖をサポートしたり、余分なカロリーの吸収を抑える働きがあります」。
このようにビール主原料には、元気に健康に過ごすための栄養成分が多数含まれていることがお分かりいただけただろう。もちろん、微量のアルコールとともにカロリーなども含まれているので、飲みすぎには注意が必要である。
◇
飲む機会が増えるこれからの季節。ついつい飲みすぎちゃう左党の諸兄も、健康効果抜群で、アルコール過多による醜態を晒す心配の少ない微アルのビールを取り入れてみるのもいいかもしれない。
「カラダのメンテナン酒」とは……
気持ちイイ酔いに身を委ねる。やはり酒は人生を豊かにしてくれる……なんて思いつつ、頭の片隅にいつもチラつく「健康」の2文字。心もカラダも潤す、正しい“メンテナン酒”論。
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高橋京子=取材・文