2023年の県内経済は、新型コロナウイルスからの回復が鮮明となり、景気は拡大基調に転じた。県内の専門家5氏による景気予測では、24年も景気は好調に推移する見通しだ。
ただ、資源高の継続による消費マインドの下押しや中小企業の業績の悪化、人手不足による供給制約で、観光の拡大基調が阻害される懸念もある。長らく続いたデフレの「出口」が見え始める中、一層の生産性向上や賃金引き上げによる、経済成長、景気改善を実現できるか、正念場の年になる(政経部・川野百合子)企業収益の分配重要 小島亮太氏(日本銀行那覇支店長)日銀那覇支店長の小島亮太氏 昨年の沖縄経済の景気はコロナ禍からの回復を経て、秋には拡大基調となった。主要産業である観光では、新型コロナが感染症法上の5類に分類されて以降、国内観光客の流入増を主因に、拡大基調にある。コロナ禍で抑制されていた個人消費も、外出機会が増える中で増加した。 今年も、こうした景気の拡大基調は続くとみている。観光は、国内客の流入がコロナ禍前の水準に回復する中、コロナ禍前の5割前後にとどまっている海外客の流入増が期待される。
 個人消費は、雇用・所得環境が改善するもとで緩やかな増加が見込まれる。設備投資も、コロナ禍で延期された投資の再開や人手不足に伴う省力化投資が増えるとみている。 建設投資では、住宅投資が底堅く推移し、公共投資も防衛関連を中心に高水準が続くだろう。景気の拡大基調が続く中で、賃金と物価の好循環が実現することが期待される。 ただし、12月の短観(企業短期経済観測調査)でみた県内企業の業況感が2016年9月以来の高水準となる中で、こうした見通しは例年以上に不確実性が大きい。 先行きの観光客の流入は内外の政治経済情勢次第の面があるが、引き続き質の高い観光需要を喚起していくことが求められる。
物価高の継続は家計の実質所得の下押し圧力となるため、企業収益の増加が賃上げなどの形で家計への分配につながることが重要だ。 このほか、足もとの当地の倒産件数は全国対比で限定的であるものの、コロナ関連融資の本格的な返済が進む中で、経営が悪化した企業への目配りも大切だ。 中長期的には、沖縄経済の持続的な成長に向けた取り組みが必要だ。さまざまな観光関連の開発が予定されているが、景気が良い時にこそ、沖縄の持続的な成長に向けた明確なビジョンを関係者間で共有のうえ、交通インフラをはじめとして各種インフラ整備を推進することが期待される。構造的な賃上げ必要 村上勝彦氏(沖縄総合事務局財務部長)沖縄総合事務局財務部長の村上勝彦氏 経済活動正常化の動きが続いた2023年の県内経済は、物価高や人手不足による供給制約などの下振れ要因があったものの、個人消費や観光がけん引したほか、各種政策効果もあり、回復傾向にあった。観光が基幹産業である沖縄において、コロナ禍からの人流回復は、プラスの影響が大きく、全国の中でも沖縄の回復の動きは強かった。
現在は、コロナによる直接的な経済活動への影響は、ほぼ解消したとみている。 24年は、景気を押し上げてきたコロナ禍明け後の需要は一巡し、県内経済の回復は、緩やかなペースで続くであろう。総合経済対策による下支え効果も見込まれる一方で、物価高による消費マインドや賃上げの動向、人手不足の影響等に左右される面もある。 個人消費は、需要が一巡するほか、物価高の影響により節約志向が強まることも考えられ、回復は緩やかなペースになるであろう。 観光は、増加基調で推移するであろう。特に、インバウンド(訪日客)は航空路線の増便等に応じて、段階的に増加するとみる。
なお、オーバーツーリズムの問題が深刻化する可能性もあり、留意しなければならない。 雇用情勢は企業の人手不足感は強く改善状況が続くとみるが、特に建設や物流は「2024年問題」に対応することが急務となっている。人材確保や生産性の向上により、人手不足に対応することが求められる。 設備投資は、当局調査によると、23年度は増加の見込みとなっており、「生産(販売)能力の拡大」がコロナ禍を経て重要視されている。24年度も県内経済回復を背景に増加基調で推移するであろう。 景気回復の継続には、一層のインバウンド需要回復のほか、構造的な賃上げと消費と投資の循環も必要である。
これを実現するための「人への投資」や「生産性の向上」等、供給力強化に向けた取り組み、さらにはイノベーションをけん引するスタートアップ創出・育成等にも期待したい。景気回復 動き強まる 武田智夫氏(りゅうぎん総合研究所常務)りゅうぎん総合研究所の武田智夫常務 【全般】2023年は、年間を通して新型コロナウイルス感染症の行動制限がなく、感染症の法的な位置付けが5類に移行した。春闘ではおよそ30年ぶりの高水準の賃上げが実施された。外出機会など人流が大幅に回復し、新型コロナの水際対策も大幅に緩和され外国人観光客も戻り始めたことから、消費関連や観光関連は動きが活発化した。建設はマンションやホテルなどの民間投資が活発となり回復の動きがみられた。県内経済は回復の動きが強まり、秋以降は緩やかに拡大する動きがみられた。
 24年は、引き続き緩やかに拡大する動きとなり、年後半には拡大の動きが強まるとみられる。 【個人消費】回復の動きが強まり、年後半には緩やかに拡大するとみられる。県民の消費需要に加え観光客の需要も加わり百貨店・スーパーなどで衣料品や身の回り品などの回復の動きが強まるほか、新車販売や中古車販売などの耐久消費財についても半導体等の供給体制が整うことから回復が続くとみられる。 【建設】回復の動きが強まり、年後半には緩やかに拡大するとみられる。マンション、ホテルなどの民間投資に加え、貸家などの住宅投資も活発になるとみられる。 【観光】緩やかに拡大し、年後半は拡大の動きが強まるとみられる。国内観光客は19年を上回る水準での推移が継続し、外国人観光客も直行便の就航を背景に増加が続くとみられる。 注目材料として海外情勢のほか、賃上げ、物価動向、金融政策などが挙げられる。人材確保や「賃上げ促進税制」などを背景に2年連続で賃上げが見込まれ、消費者物価は2%台での安定推移に移行する可能性が高く、これらの動きを受けて金融政策は見直しの可能性が出てくると思われる。経済活性化 回復続く 垣花秀毅氏(おきぎん経済研究所社長)おきぎん経済研究所社長の垣花秀毅氏 【全般】世界経済は、新型コロナウイルスの影響から脱却し、ヒトとモノの流れが急速に活発化して需要が増加したことから、ウクライナや中東で地政学リスクが顕在化する中でも、アメリカを中心に物価や賃金の上昇を伴い強含みに推移している。 日本経済は、デフレマインドが根強く残り、金融面でも緩和政策が続き欧米との金利差が拡大している。一方、価格転嫁が受け入れられる素地が広がっており、反転の兆しが見える。設備投資マインドも回復しており、需要面では活発化しているため、賃金上昇を伴う好循環につなげることが期待される。 県経済は、人手不足や物価高の影響があるが、観光関連など経済活動の活発化により、全体として回復が続くものと予想される。 【個人消費】スーパーや百貨店の売上高は、引き続き底堅い消費マインドの下で堅調に推移する見通し。耐久消費財についてもインバウンド(訪日客)の増減に影響されるが一定の増加が見込まれる。一方で、物価高騰が賃金の上昇を超えて推移した場合には、消費拡大の下押し圧力となり、鈍化する懸念もある。 【建設】公共投資は堅調に推移し、民間投資は観光関連を中心とした経済の活発化で、持ち直しの動きが強まると予想される。住宅投資も貸家・分譲住宅を中心に堅調に推移するとみられる。一方で、慢性的な人手不足や資材価格の高止まりが懸念材料だ。 【観光】国内客は、全国旅行支援の終了後も反動減を招くことなく堅調に推移している。一方、外国客は中国人観光客の回復が遅れており、回復ペースは緩やかだ。2024年の入域観光客は、コロナ前の19年比で国内客は同水準以上の回復、外国客は6~7割程度で全体ではおよそ9割の930万人程度と予想する。人手不足が懸念材料 中村重男氏(海邦総研常務)海邦総研常務の中村重男氏 【全般】2024年の県経済は観光の安定化にけん引され、緩やかに回復の道を歩んでいくだろう。ただし国際情勢の不安定さや人手不足、個人消費の冷え込みなど懸念材料が顕在化している。本格的な経済回復のため、解消に向けた不断の取り組みが求められる。 【個人消費】厳しい環境になると見込む。県内の実質賃金は長らく低迷が続いている。コロナ禍後の消費回復が一服した環境下では、物価水準の高さがより際立つことになる。あらゆる商品・サービスで価格転嫁が進む中、インフレ率を超える賃金引き上げが実現しない限り、財布のひもは一層固くなるだろう。 【建設】住宅建設の環境は大きく転換する一年になるだろう。中長期的には住宅ローンの金利引き上げが見込まれることや住宅ローン控除の借入限度額引き下げなどから、購入マインドの冷え込みが予想される。 人手不足を理由に入札や受注を断念する事例が増えてきた。4月から建設業や運輸業にも残業上限規制が適用され、人繰りはこれまで以上に厳しくなる。「発注者の投資意欲」以上に「意欲に応えられるだけの人材確保や労働環境整備ができているか」が業績を左右する一年になりそうだ。 【観光】改善が見込まれるも、課題が多い一年になるだろう。観光需要は回復傾向にあるものの道半ばの水準。ホテルなどの資本ストックは過剰で競争が激しいのに、労働力は不足しているというアンバランスな状況にある。 タクシーやバスの運転手など観光周辺の産業にも人手不足は及び、抜本的な改善策も乏しい。競合観光地が数多くある中、旅行価格が高騰した沖縄にいかに訪れてもらえるか。沖縄観光の価値の維持・向上に向けた取り組みが、より重要な年になるだろう。
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