「光」('07)/銀杏BOYZ
イノマーの名を冠するには贅沢すぎる、きれいでどデカい東京ガーデンシアターの大きなステージにたったひとりでアコギを背負って登場。一発で会場の空気を変える、たっぷり気持ちを込めたギターと歌を広い会場に響かせたこの曲で、オープニングを飾ってくれた銀杏BOYZの峯田和伸。会場のどこかで観てるであろうイノマーに届けるように、遠くを見つめて歌う峯田。
「拝啓、少年よ」('18)/Hump Back
生前のイノマーが「オナマシはこんなバンドになりたかった」と憧れを語ってたピーズは、イノマーからの愛とリスペクトに応えるようなスペシャルなセットリストで応えて。どインディーズだった頃から惚れ込んでいた氣志團はイノマーとの思い出を語りながら、「オナニーマシーンのテーマ」のカバーなど、気合い十分の楽しいステージで魅せて、どちらも最高だったのだが。「私たちはイノマーさんとの付き合いがそんなに長くないんですが」と言いながら、「拝啓、少年よ」で始まった、純粋でパワフルで真っ直ぐなステージで観る者の心を打ったHump Backのステージもとにかく素晴らしかった。
「線香花火」('01)/ガガガSP
「国道二号線」~「青春時代」をエネルギッシュに響かせる胸アツ展開で始まり、観客を一気にヒートアップさせたのは、日本最古の青春パンクバンド・ガガガSP。00年代前半、イノマーが監修していた音楽雑誌『STREET ROCK FILE』の影響もあり、青春パンクブームの旗手となっていた彼らだが。「懐かしい」だけで終わらせず、「oiの中の蛙」、「これでいいのだ」といった最新曲のいまのガガガだからこそ歌える曲、鳴らせるサウンドで圧倒し、「ガガガSPは今が一番カッコ良い!」と思わせる圧巻のステージを魅せてくれたのが本当に嬉しかったし、興奮した。
「薬草」('21)/四星球
長野のフェスに出演した後に5時間かけて会場に駆けつけたにもかかわらず、パワフルなステージで湧かせ、凝りに凝った演出で笑わせてくれた四星球。「イノマーさんに向けて書いたけど、結局聴いてもらえなかった。あんだけバンドが好きな人やから、来世でバンドを組んだ時にコピーしてほしい」と披露した「薬草」は、会場中の気持ちをひとつにしてくれたし、「だから、四星球のこと好きなんだよ」と思わせるやさしさと笑いと熱量にあふれてて、彼らを表す“日本一泣けるコミックバンド”の名に相応しいものだった。四星球のステージを見ながら、僕は渋谷Lamamaの「ティッシュタイム」のことを思い出していた。どんなに悩んでてもしんどくても、バカバカしくてテンション上がって、何に悩んでたかすら忘れさせてくれた、全裸で演奏するオナマシのステージ。
「恋のABC」('02)/オナニーマシーン
03年、オナマシとともにスプリットEP『放課後の性春』もリリースした、盟友・サンボマスターが想いのあふれた熱いステージでブチアゲて、空気階段が大きな笑いと独創的な世界観で広い会場を包み、最高潮の期待と盛り上がりを見せる中、いよいよ大トリのオナニーマシーンが登場! 亡きイノマーの意志を継ぐ圧巻のステージで、有終の美を飾る!! …となればカッコ良いのだが、そうはいかないのがオナマシ。ベロベロに酔ったオノチンがどうにかステージに辿り着き、ガンガンとふたりで「あのコがチンポを食べてる」「ドーテー島」を披露すると、そのグダグダっぷりに会場中が呆然(笑)。ゲストヴォーカルに江頭2:50が降臨した「恋のABC」はデタラメすぎるオノチンに、江頭が「誰か救急車を呼んで!」と連呼ながら、なんとか熱唱。ベースに大木温之、ヴォーカルに峯田和伸を迎えたスペシャル編成で披露した「チンチンマンマン」は、20年弾いてきたイントロが弾けないオノチンをやさしすぎるふたりが全力で支える。出演者全員が登場したラストは、暴走するオノチンをみんなが笑顔で見守りながら、「I LOVE オナニー」と「オナニーマシーンのテーマ」を大合唱! オナマシ史上、最もめちゃくちゃなライヴだったが、イノマーが死んでなお迷惑をかけ続けるオナマシを、観客含むみんなが愛と笑いとやさしさで包み込む、最低で最高のライヴだった。
TEXT/フジジュン(おばけえんとつ)
フジジュン プロフィール:1975年、長野県生まれ。『イカ天』の影響でロックに目覚めて、雑誌『宝島』を教科書に育った、ロックとお笑い好きのおもしろライター。オリコン株式会社や『インディーズマガジン』を経て、00年よりライター、編集者、デザイナー、ラジオDJ、漫画原作者など、なんでも屋として活動。12年に(株)FUJIJUN WORKSを立ち上げ、バカ社長(クレイジーSKB公認)に就任。メジャー、インディーズ問わず、邦楽ロックが得意分野。現在は音楽サイトや、雑誌『昭和50年男』等で執筆。