ウエノコウジ、PATCH、楠部真也からなる3ピースバンド、Radio Carolineの結成20周年を記念したアルバム『High Tide』が9月13日にリリース。スタジオライヴやコンピレーション参加曲などに加えて新曲も収録されているので、ファンならずとも興味深いところだし、9月16日・大阪、9月17日・愛知とライヴも決定しているので、その予習には必聴のアイテムではあろう(東京でのライヴは11月4日を予定)。
さて、今週はウエノコウジが在籍していた、今や伝説のロックバンドと言ってもよかろう、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのライヴアルバムを紹介する。

各メンバーの卓越したプレイ

『CASANOVA SAID “LIVE OR DIE”』を聴いて、“あぁ、そうそう、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(以下TMGE)ってこれだったなぁ”と、記憶を呼び起こされたようなところがあった。チバユウスケ(Vo&Gu)のしゃがれ声で歌われるキャッチーなメロディーに乗せられたワードセンス。アベフトシ(Gu)のギターがかき鳴らすシャープな高速カッティング。ボトムをしっかりと抑えつつも独特のうねりを放つウエノコウジ(Ba)のベースライン。そして、クハラカズユキ(Dr)のキレのあるドラムが刻むシャープなビート。
多くの人が抱くTMGEのイメージはそんな感じだろう。たぶん間違ってないと思う。

本作でもそれらは確認できる。アベのギターはTMGEサウンドの主役とも言えるものであって、本作でも随所で聴けるが、個人的にとても彼らしいと感じるのは、前半ではM2「ヤング・ジャガー」の間奏明け、M4「ソウル・ワープ」の1番と2番のブリッジ部分で聴こえてくるカッティングだ。右手をストロークさせるだけでなく、弦をかきむしっているかのような印象を受ける。おそらくコードを抑えている左手の力の入れ具合や、もしかすると右手も、例えばピックの持ち方とか、何か彼独自の工夫があったのかもしれない。
あの高速で弦が擦れる音はアベフトシにしかできない奏法だった。とりわけM4は、DJのスクラッチノイズさながらで、そのカッティングで刻まれる音はギターとはまた別の楽器のニュアンスもあって、本当にすごいギタリストだったことを偲ばせる。

M2「ヤング・ジャガー」はベースもいい。ドラム~ギターに続くチバのシャウトから本格的にイントロが始まるが、そこで響くベースラインもまたウエノならではと言っていい。派手な動きながらも突飛な印象はなく、まさに楽曲の土台と言える低音部を堅持しながら、終始、楽曲を引っ張っていく。艶めかしいと表現してもいいかもしれない。
メロディー的要素も兼ね備えているという点ではベースらしいベースと言えるのだろう。

手数が多いというか、忙しない印象のあるギター、ベースに対して、リズムはどうかと言うと、クハラのドラムもこれまた忙しい。しかしながら、ドラムがバンドの要であることを決して忘れることなく…と言ったらいいか、彼が司るリズムは正確無比。その上、スネアに限らず、シンバルもタムもバスドラムも、音がキビキビしている。抜けがいいという言い方もできるだろうし、音ひとつひとつがダラッとしていないと言えば想像してもらえるだろうか。前半ではM5「コブラ」、後半ではM16「ピストル・ディスコ」がいい。
M5は楽曲全体がグイグイと迫っているのは間違いなくドラムの推進力によるところだろうし、M16は跳ねた印象のドラミングがちょっと面白く、決して直線的なだけでなく、クハラならではのニュアンスも感じられる。

チバの歌に関しては──その歌詞の持つ意味(?)のようなものについてはのちほど述べるとして、彼のハスキーな歌声とメロディーの相性は圧倒的だと思う。これもまたどれもこれも、それこそ本作に限らず、TMGEのどの音源でも確認できるところだが、本作はライヴ盤だけあって、スタジオ盤に比較して圧力や勢いといったものがより生々しく感じられる。個人的にはM3「ダスト・バニー・ライド・オン」に注目した。メロディー…というほどには歌の旋律に抑揚はなく、言葉を連呼している感じに近いパンクナンバーだけれども、それだけにチバの声がジャストフィットしているような気がする。また、全体的にシャウトが多いのもライヴアルバムならでは…で、その肉声が何か他の楽器の一部(例えが適切かどうかはともかく、サンバにおけるホイッスルとか)のように感じられて、楽曲全体を底上げしているかのようにも思ったところだ。


メンバー同士による 奇跡的なアンサンブル

強いてTMGEのサウンドの特徴を挙げればそういうことになろうが、それらが合わさってこそのTMGEである。それぞれのテクニック、スキルは卓越しているし、パーソナリティも申し分ない。だからこそ、メンバーはTMGE解散前からTMGE以外での活動も行なってきたのだろう。とりわけリズム隊のふたりはずっと引く手数多の様子で、さまざまなバンドのサポートを務めてきた。だが、それらが合わさって、初めてTMGEが成立するのだ。当たり前のことを恥ずかしげもなく堂々と述べてしまったけれど、TMGEに限らず、伝説的なバンドのすごさはそういうところにある。
個別のプレイのすごいが、それが合わさってさらにすごいことになる(ホントバカみたいな言い方ですみません)。『CASANOVA SAID~』で強く感じたのはそこである。

本作から少し離れるが、筆者がTMGEのアンサンブル、その比類のなさを確信したのは、この『CASANOVA SAID~』の約2年3カ月後に発表された7thアルバム『SABRINA HEAVEN』(2003年)の「ブラック・ラブ・ホール」においてである。正確に言えば、その演奏をライヴで体験した時のことだ(つまり、だいぶ遅い)。同曲のイントロではチバが弾くギターを含めて4つの音が同時に、比較的長めの間隔を空けて、4度鳴らされる。フレーズと言うほど複雑なものではなく、誤解を恐れずに言うなら、コードさえ抑えられれば素人でもできそうな演奏である。少なくともレコーディングにおいてクリックを聴きながらやれば、プロならズレることもないものであろう。ただ、逆に言えば、リズムのガイドがなければ、4人が4人、同タイミングで音を鳴らすのは困難と思われる。そういう独特の間がある演奏ではあると思う。

自分が観たライヴでは、クリックはもちろん、クハラがカウントするでもなく、アイコンタクトだけで──いや、下手するとアイコンタクトすらなかったかもしれないままに、4人が鳴らす音をジャストに合わすのである。音符の長さもほとんどズレなかったと思う。呼吸が合っている…なんてもんじゃなく、4人の体内時計がピタリ合っている。どこか空恐ろしさを感じるほどのバンドアンサンブルを目の当たりにした。イントロのド頭での短い演奏ではあるものの、独特の間が醸し出す緊張感が半端なく、見ているこちら側もヒリヒリとした空気を感じたものだ。余談ではあるが、その後、TMGEの解散が発表された時、“あそこまで4人の息が合ってしまうと、確かにこのバンドではもうやることがなくなってしまうと感じたのかもなー”と思ったことも我がことながらよく覚えている。

さて、そんな──言わば、コンマ何秒単位までもメンバーの体内時計が合っているようなTMGEのバンドアンサンブル。無論、『CASANOVA SAID~』の収録曲はすべてそれで構成されている。個人的な推しはM12「アウト・ブルーズ」だ。本作では7分47秒と最も長く演奏されている楽曲。ちなみに、1998年にリリースされたシングルでのタイムは4分14秒だったので、それより3分半も長い。ライヴではスタジオ音源とアレンジが異なることでタイムが延びたり縮んだりすることは他のアーティストでもたまにあるけれど、このM12は、例えばミドルにテンポを下げてバラードにするとか、そういった変化はない。3分半も延びているのは、間奏以降の違いである。スタジオ音源もそれなりに間奏は長い「アウト・ブルーズ」だが、M12はさらに長くしている。明らかに意図的だろう。ベースが辛うじてコードを循環させているようにも思うので、そうではないかもしれないが、M12での間奏はおそらくアドリブだろう。チバのシャウトやスキャットは完全にフリーキーだし、ギターもたぶんそうだと思う。ドラムもテンポこそ崩れてはないものの、手数が相当多いし、同じフィルが繰り返されているようには聴こえない。ベースにしても後半では高音に昇っていくような箇所も聴こえてくる。要するに各メンバーが自らのテンションの赴くままに演奏しているように思える。思えるのだが、決して散漫ではないのである。それどころか、決めるところではピシャリと決めている。特に最もテンションが高まっている6分18秒から6分48秒頃までの演奏を経て、再び歌が始まる演奏はタイミングといいグループといい本当に素晴らしい。メンバー間の呼吸が奇跡的な合い方をしていると思うし、これこそがTMGEの真骨頂であろう。

彼ららしい無加工のライヴ音源

『CASANOVA SAID~』で気付いたことをもう少しだけ続けると、本作はメジャーではバンド初のライヴアルバムなのだが、2000年5月から開催された『WORLD CASANOVA SNAKE TOUR』の千秋楽を収録したものだ。『WORLD CASANOVA~』はそのタイトル通り、5th『カサノバ・スネイク』のレコ発ツアーである。本作には『カサノバ~』から15曲中14曲が収録されている。この辺もまたTMGEらしい。先週の当コラムで、かつてライヴアルバムというのは、そのアーティストのベスト盤的な側面があったと書いたが、『CASANOVA SAID~』はその真逆というか、まさにレコ発ツアーのパッケージで、ベスト盤的な機能はない。これには、TMGEが本作以前にライヴ映像を収めたDVDやVHSがリリースしていたことも関係していたかもしれないし、本作と同時にベストアルバム『TMGE 106』がリリースされたということも無関係ではなかったかもしれない。しかしながら、レコ発ツアーなのだから、そのレコードの曲をやるのは当たり前だし、それはツアーファイナルだからといって変わらない──この収録曲には、そんな彼らのこだわり(というか、彼らにとってはこだわりでも何でもなく、当然の所作だろうが)も垣間見れる。

あと、本作は無加工音源というのも実にTMGEらしい。本作がリリースされた2000年頃には音楽の現場ではPro Toolsは当たり前に使われていたようにも思うので、当時、ライヴ音源の加工は普通に行なわれていたように思う。その辺、筆者は現場の人間ではないので、勘違いがあるかもしれないが、もしPro Toolsがポピュラーでなかったにせよ、PAから録った各パートの音をのちにミックスしたり、一部足したりすることはできたはずである。無加工音源とは、そういうことをしなかったということである。聴けば分かるが、無加工がゆえに、音が左右に分かれていたり、動いたり、どれかひとつのパートの音量が大きくなっているところはない。ステレオ録音のパキッとしたサウンドに慣れている人には、その音像はクリアーなものに聴こえないかもしれない。もし汚い音と受け取る人がいても、その人がおかしいわけではなかろう。しかし、無加工だからこそ、その音が一塊となっている印象を極めて強く受ける。時々聴こえてくる観客のシンガロングやレスポンスもサウンドと一体となっている。ライヴの様子を収録しただけではなく、その日その場の空気、熱、テンションといったものをまとめてパッケージしているかのようだ。TMGEのライヴの録音としてはこれがベストな方法だったことは間違いない。

M1「プラズマ・ダイブ」の冒頭では、当時ライヴのオープニングSEだった『ゴッドファーザー 愛のテーマ』を確認できて、それもまた“ああ、そうだったな”と懐かしく思ったのと同時に、そこから改めてTMGEの楽曲を聴き、彼らが映画『ゴッドファーザー』をフェイバリットに上げていたことにも納得したというか、さもありなん…と思った。『ゴッドファーザー』は映画史における名作中の名作で、物語、劇伴、役者の演技、カメラワークといった映画を構成する要素のひとつひとつが画期的で、それらが合わさった作品と言われている。

冒頭で述べた、一線級である各パートが合わさってTMGEとなるところは、映画と音楽では単純比較はできないけれど、妙に符合する。とりわけ映画『ゴッドファーザー』は、色調や陰影など画作りが芸術的で、どのシーンを切り取っても絵画や写真作品のように見えるという評価がある。TMGEにもそういうところがあるように思う。それはチバの歌詞世界と楽曲への乗せ方だ。TMGEの楽曲は、タイトルもそうだし、歌詞にしても、はっきりと意味が分かるようなものではない。本作で言えば、M5「コブラ」やM9「シルク」、M10「アッシュ」はその言葉の意味は分かるが、少なくとも筆者はその歌詞にはっきりとした物語性を見出せない。M1「プラズマ・ダイブ」とか、M11「ベガス・ヒップ・グライダー」とか、M16「ピストル・ディスコ」とか、それまで聞いたことがなかったし、TMGE以降もそれに近いワードセンスはほとんど見聞きしたことはないだろう。だが、はっきりと意味は分からないながら──もしかすると、意味が分からないからこそ、チバがそれをシャウトすると、容赦なくロックを感じられるのではなかろうか。そんな風にも思った。それもTMGEの画期的なところだったのかもしれない。仮にセンスやテンションを可視化して1枚の画にできるようなテクノロジーがあったとして、それでチバ独特のワードセンスやライヴでシャウトする熱を1枚の画に仕上げたら、それは今、映画『ゴッドファーザー』の1シーンを画像化した時のように、否応なしにアートを感じるものになるのではないか。いろんな想いが去来した『CASANOVA SAID~』である。

TEXT:帆苅智之

アルバム『CASANOVA SAID “LIVE OR DIE”』

2000年発表作品

<収録曲>
1.プラズマ・ダイブ
2.ヤング・ジャガー
3.ダスト・バニー・ライド・オン
4.ソウル・ワープ
5.コブラ
6.ラプソディー
7.裸の太陽
8.ベイビー・スターダスト
9.シルク
10.アッシュ
11.ベガス・ヒップ・グライダー
12.アウト・ブルーズ
13.ドロップ
14.ピンヘッド・クランベリー・ダンス
15.アンジー・モーテル
17.GT400
18.デッド・スター・エンド
19.CISCO ~想い出のサンフランシスコ~
20.リボルバー・ジャンキーズ