ミュージシャンの訃報が相次ぎ、何とも気持ちが暗くなるばかり…と先日書いたばかりだが、元Laputaのaki(Vo)が8月29日に急病のため死去したことと9月1日に発表された。享年52というのはどう考えて早過ぎる。
Laputa解散後はソロで活動を展開し、その活動もそろそろ20周年を迎えようとしていた矢先。Laputaの復活もなかった話ではなかろうに、本当に残念でならない。今週は、aki追悼の意味を込めて、Laputaのアルバムを紹介する。

ビジュアル系が 新局面を迎えた1990年代後半

今週はいつも以上に独断で書くことを予めご了承いただきたい。Laputaのメンバーは誰一人、自らをいわゆるビジュアル系と名言したことはなかったと思うが、この『麝~ジャコウ~香』をリリースした頃のLaputaは“正しきビジュアル系”だったと筆者は考えている。異論は承知だが、完全に個人的な見方なので、そこんところよろしくお願いしたい。


まず、本作が発表された1998年前後のシーンの状況を振り返ってみたい。1997年9月、その界隈のトップに君臨していたX JAPANが解散を発表した。1996年にバンド活動の休止を発表していたLUNA SEAが、各メンバーのソロ活動を本格化させたのも同年である。そのX JAPAN、LUNA SEAに続くかたちでブレイクしたのがGLAYで、「口唇」「HOWEVER」とシングルヒットを連発し、1997年10月に発売したベストアルバム『REVIEW-BEST OF GLAY』は当時の歴代最高売上を記録。1998年にはスタジアムツアーを成功させている。L'Arc~en~Cielは自身をビジュアル系と括られることを否定していると聞くので、同時期にブレイクしたバンドとしてあくまでも便宜上ここで説明させてもらうと、1997年にはいろいろあったものの、その年末の東京ドーム公演で復活。
翌1998年にはシングル「winter fall」「DIVE TO BLUE」「HONEY」「花葬」「浸食 ~lose control~」「snow drop」「forbidden lover」を全て大ヒットさせた上、アルバム『HEART』はミリオンヒットを記録している。GLAYは1997年に、L'Arc~en~Cielは1998年に『NHK紅白歌合戦』にも出場しており、完全にその界隈を飛び出して、国民的人気を獲得したとも言えるだろう。

名古屋ビジュアル系シーンから登場してきたバンド、黒夢はその頃、ストリート系パンクに音楽性を変えており、1997年から1998年にかけて年間200本超えのライヴを敢行している。デビュー当時の面影はほぼなくなっていたと言っていい。のちにビジュアル四天王と呼ばれたLa'cryma Christi、SHAZNA、FANATIC◇CRISIS、MALICE MIZERは、全て1997年にメジャーデビューを果たしている。PENICILLINの「ロマンス」がヒットしたのは1998年。
PIERROTのメジャーデビューも1998年である。そして、1999年にはLUNA SEAが『LUNA SEA 10TH ANNIVERSARY GIG [NEVER SOLD OUT] CAPACITY ∞』で10万人を動員。それに続くかたちで、GLAYが『GLAY EXPO '99 SURVIVAL』で1公演で20万人を動員し、L'Arc~en~Cielは2日間で25万人動員の『1999 GRAND CROSS TOUR』を成功させている。また、同年にはDIR EN GREY、Janne Da Arcなどがメジャーデビューしている。

つまり、1998年前後というのは、その界隈が新たな局面を迎えた時期なのである。X JAPANという巨星がシーンを去り、LUNA SEAが一旦活動を止めたのち、GLAY、L'Arc~en~Cielが台頭。
いわゆるビジュアル系バンドがビッグビジネス化、ビッグエンターテインメント化し、黒夢などはその対極とも言えるスタンスを取る一方で、新たなバンドがシーンに登場してきた時期である。まさに百花繚乱の時代なのであった。

ハードかつ妖艶なギターアプローチ

Laputaは、黒夢のローディーを務めていたこともあるaki(Vo)がTomoi(Dr)らと1993年に結成。翌年にJunji(Ba)と、元Silver-RoseのKouichi(Gu)が加入し、以後、何度かのメンバーチェンジがあったものの、それまでギターを担当していたJunjiがベースへとコンバートすることで、メジャーデビュー時のメンバーとなった。Silver-Roseというバンド名に馴染みのない人も多いだろうが、当時のインディーズを知る人にとっては懐かしくも忘れられぬ名前だろう。1990年代半ば、名古屋のインディーズシーンを盛り上げた存在で、黒夢と並んで“名古屋2大巨頭”と目されていたのがSilver-Rosである。
それら2バンドとの関係を考えると、Laputaは名古屋ビジュアル系の直系と言ってよかろう。

1995年頃からインディーズで人気を獲得した彼らは、1996年にシングル「硝子の肖像」、アルバム『蜉~かげろう~蝣』でメジャーデビュー。百花繚乱の時代を彩り、時代の一役を担ったバンドのひとつとなった。そのアグレッシブでありつつもセンシティブなギターサウンドや、歌詞や出で立ちで表現されたダークの世界観は、一時期、他にはないものであったように思う。隙間が空いた…というとかなり語弊があるけれども、先達がスタジアム級バンドへと成長、あるいはストリート系へと変貌していく時、当時、結成時から培ってきたLaputaならではの要素は案外その界隈にはなくなっていたように思う。冒頭で“正しきビジュアル系”と言ったのはそこである。
筆者の体感では、その1998年頃のLaputaがビジュアル系の代表であったように思う。

今回紹介する『麝~ジャコウ~香』は、インディーズから築き上げてきたLaputaのサウンド、世界観の集大成であったと考える。本作は彼らにとって初のチャートTOP10入りを果たし、売上枚数もバンド史上最高となっている作品でもあったようで、それを鑑みても、Laputaの最高傑作と言っていいかもしれない。サウンド面から言うと、何と言ってもギターサウンドがいい。時にハードに、時に妖艶に、縦横無人に繰り広げられる。M1「麝香」からしてひと筋縄ではいかない。全体的にはHR/HMの流れを組むインダストリアル系のナンバーでありつつも、メロディアスな間奏ではオリエンタルかつサイケな匂いも漂わせており、オープニングから本作、そしてバンドが持つ多彩な表現力を鼓舞しているかのようである。

続く、パンキッシュなM2「ケミカルリアクション」ではドライなカッティングを披露。M3「ロゼ」でもそのシャープなギターは引き継がれるが、そこに──あれはギターシンセだろうか、イントロなどではその対極にあるかのようなポップな音色も聴かせる(ギターではなく鍵盤かもしれない)。そうかと思えば、M3のBメロでは妖しい雰囲気のアルペジオを重ねているのだから、ホントいろいろやっている。

先行シングルだったキャッチーなM4「揺れながら…」、ダークかつヘヴィなM5「裂かれて二枚」と、ここまででも十分過ぎるほどにバラエティに富んでいるが、一転、M6「カナリヤ」でクリアトーンを聴かせるところが何とも心憎い。特にアウトロがなかなかいい。昨今ブームとなっているシティポップ的…とは完全に言い過ぎだろうが、HR/HM由来だけでないアプローチは今も新鮮だし、Kouichiのセンスの良さ、ひいてはLaputaというバンドの志しの高さも感じるところである。

M7「ミートアゲイン」もシングル曲。Aメロは妖艶で、Bメロはパンキッシュ、サビではビート感は残しつつ、メロディアスに展開と、1曲の中にバンドの持つ要素を盛り込んでいて、意欲的な楽曲だったことがうかがえる。その甲斐あってか(?)、同曲は彼らのシングルでは最高売上となったようだ。主旋律も凛としていて、普通にいい曲だと思う。

M8「白昼夢」はアルペジオから始まり、ギターが開放的でメロディアスになっていくところからもそうだし、キャッチーでありながらサウンドはダイナミックに展開するサビも、個人的にはまさに“正しきビジュアル系”の印象が強い。今となっても充分シングルでイケたのではないかと思うくらいだが、それはこのバンドのアベレージの高さを物語っているのだろう。

ダンサブルなM9「ナイフ」、パンキッシュなM10「クラッシュボウイ」と続き、M10のアウトロでM1のイントロで聴こえてきたガムラン風の音が再び聴こえてくる。円環構造を持ったアルバムであることが示されるのだが、後半ではM9が相当に興味深い。イントロから打ち込みが聴こえてきて、どこかヒップホップ的というか、ミクスチャーな色合いを見せているのもさることながら、スパニッシュなアコギを重ねたり、間奏ではTomoiがラテンっぽいドラミングを見せたりしている。Bメロでのギターのアンサンブルと併せて、彼らの他の楽曲にはないアプローチだと思う。しかも、要所要所で従来のギターサウンドやキャッチーなメロディーも堅持しているところも面白い。[後期のサウンドは「デジタル・ビートの大胆な導入がバンド自体の変容と並行している」と評価されているように、エレクトロニック・ダンス・ミュージックに影響されたデジロックのような音楽性へと変わった。初期から中期にかけてはKouichiがメインの作曲を手がけていたが、後期からはJunjiの作曲が増えている]というのがWikipediaのLaputaに対する見立てだが、M9はその端境期の楽曲なのかもしれない([]はWikipediaからの引用)。バンドが新たなアプローチを求めていた証左と捉えることもできる。ちなみに、M9はJunjiの作曲である。

akiが創造した世界観と独特の歌声

サウンド以上に、筆者が“正しきビジュアル系”をLaputaに感じるのは、akiの声と歌詞である。歌詞に関してはほぼ全編がそうなのだが、個人的に“特にこれは…!”と思ったものを以下に紹介する。

《口の中に含む罪を転がした/後ろめたい味に飽きた/ヘテロドックス》《故意に閉じた幕で気付く 卑しさを/月の光 遠い記憶 乳母の子守歌》《君の微笑み/それは安らぎの繭の下で/あたためて 僕のユートピア》《せせらぐ赤い血のワイン/僕は飲み干すから/君を切り刻むことを/薔薇の花と共に繭の下で…》(M3「ロゼ」)。

《溶けて消えた甘い蜜は 禁断の扉を叩く/垣間見た絶望は夢また夢…/溶ろけそうな甘いキスは 禁断の扉を開き/照らされた欲望をさらけだした》《透きとおる肉体から光がもれて/汚れ無き妖精もかすんで見える/心なしか冷たい意識の中で/むせかえる罪と罰 叶えてあげる》(M4「揺れながら…」)。

《朽ち果てたエデンの空 徘徊しよう/壊したい 壊せない この時間を Ah》《逆説を唱える花 栽培しよう/上がれない 下がれない/この墓場で さあ》《裂かれて今 二つに分かれた/僕が二つに裂かれてしまった》《白い僕と黒い僕がいる/支配してるのは神様の気まぐれ》(M5「裂かれて二枚」)。

《浅い眠り続いていた たどり着きたい あなたのそばまで/花弁撒き散らして その答えを捜してたどり着こう》《あなたは迷い 仮面をまとう 時間の加速についていけない/季節は流れ 仮面は消える 愛し合えない 全て…》《彼方に聞こえた あなたへのメロディー/口ずさんで ほら そこで今/溢れる想いは遠く 遥か遠く》(M7「ミートアゲイン」)。

《破滅思考の男の子は/絶望の石を積み上げる/奇跡を起こす》《快楽主義の男の子は/崖の縁でマイムを踊る》《波岸此岸を彷徨う夢/付いて廻れば ここは涅槃/奇跡とは何?》《寝乱れ髪を掻きむしれば/歓楽すべき ここは涅槃》(M10「クラッシュボウイ」)。

 罪。ヘテロドックス。故意に閉じた幕。安らぎの繭。甘い蜜。禁断の扉。垣間見た絶望。照らされた欲望。汚れ無き妖精。朽ち果てたエデンの空。逆説を唱える花。墓場。白い僕と黒い僕。神様の気まぐれ。浅い眠り。迷い。仮面。破滅思考。絶望の石。波岸此岸。彷徨う夢。涅槃──。このワードセンスは、まごうことなく、いわゆるビジュアル系と言われる界隈にしかなかったものだろう。Laputaの先達にも後輩にも、こうした歌詞を使っていたバンドはいただろうが、これほどに多用していたのはakiだけではなかっただろうか。いや、正確に勘定したわけではないので、はっきりと断言はできないけれども、彼の世界観は相当に統一されていたことは間違いない。そこは注目すべきポイントだろう。

こうした世界観は彼のヴォ」ーカリゼーションとも相性が良かったように思うのは筆者だけではあるまい。この界隈のヴォーカリストは、腹とは言わず、喉とは言わず、鼻腔と言わず、あらゆる声の出る部位を駆使して歌うようなところがある。それもいわゆるビジュアル系らしさのひとつだと思うのだが、akiもまたそのタイプに分類出来る。繊細でもあり、力強くもあり、慈愛に満ちたようでも、悲哀を感じさせるようでも、エキセントリックなようでもある。ひと口には語れないヴォイスパフォーマンス。歌は歌でも、大袈裟に言えば、声を使ったオリジナルの楽器で主旋律を奏でているようなイメージで、それは独自の世界観を構築するには必然だったように思うし、Laputaの楽曲をより濃く、奥深いものにしていたのは間違いない。その意味でもakiは唯一無二、不世出のアーティストであったと言っていいだろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『麝~ジャコウ~香』

1998年発表作品

<収録曲>
1.麝香
2.ケミカルリアクション
3.ロゼ
4.揺れながら…
5.裂かれて二枚
6.カナリヤ
7.ミートアゲイン
8.白昼夢
9.ナイフ
10.クラッシュボウイ