物語の主人公は、長崎の放送局に勤めるジャーナリスト・辻原保(本木)。時代は1972年、高度経済成長の波に日本全体が沸く中、辻原はあえて時代の流れに逆らい、原爆の被害を語る被爆者の声を集める活動を始める。しかし当時、被爆体験は口にすべきではないとする空気が根強く、周囲の理解も得られず、彼の活動は孤独で過酷なものだった。
そんな中、辻原は九野和平という被爆者と出会う。九野が語る体験は、辻原の心を深く揺さぶり、声を遺すことへの決意を新たにさせる。しかし、その“声”には謎が潜んでいた。物語は、数奇な運命に導かれたふたりの男の出会いを軸に展開していく。
■コメント
<主人公・辻原保役/本木雅弘>
「いわば死者の白骨の上で安穏な経済生活を送りながら、彼らが陥った運命について関心を抱かないとすれば、私はどこかしら人間らしくありません」伊藤さんは冬空にまたたく星を見上げ、魂の声を集める覚悟を決めました。数値化できない肉声に感じ入り、寄り添い、「被爆の実相」に考察を重ねる日々、、読み人知らずの歌や説話が現代にも響くのは、無名であってもその人間の息づかいが心を動かすからです。同じくこれらの肉声を、人類共有の財産として、被爆者体験を結晶化させることが、伊藤さんの密かなる野心でした。