■ストーリーよりも主人公のキャラクターが先
ドラマは、主人公が誕生しなければ始まらない。とくにシリーズものでは、主人公が作品のジャンルを決め、作品が成功するか失敗するかをも左右する。Chapter3で「物語の始まりはコンセプトだ」と話したが、コンセプトでいちばん重要なのは「主人公が何者か」である。
ロマンチックコメディーの女性主人公をつくってみよう。次の例は、新人作家のシノプシスでよく見られる女性主人公の紹介文だ。
「聡明な眼差しと明るい笑顔で、ひと目で恋に落ちる美貌ではないが、自然な美しさにみんながハマってしまう魅力的な人物」
このようにきれいな形容詞だけを羅列していては、ドラマのキャラクターはつくれない。観念的で抽象的な人物では、1シーン書くのもむずかしい。では、視聴者の心を惹きつける主人公をどのように生み出すのか。
まずは次の質問から始めてみよう
・年齢や性別は?
・現代の人物か、はたまた宇宙人か、転生したのか、タイムスリップをしたのか、超能力者か?
・外見の特徴は? 外見に自信があるのか、コンプレックスがあるのか?
・何をしている人か、仕事があるのか、ないのか?
・ひとり暮らしか、家族や同居人はいるのか?
・裕福か、普通なのか、貧乏なのか。どのような経済観念の持ち主か?
・家族関係は? コミュニケーションが円滑な仲の良い家族なのか? 不仲で対立が激しいのか?もしくは互いに無関心なのか?
・主人公は比較的、利己的か、利他的か?
・夢は何か? それは実現可能な夢か? とんでもない夢か?
・どんな希望を持って生きているのか?
・どんなことに長けているのか?
・何に執着しているのか?
・恋人はいるか?最近別れたのか、恋愛の経歴、恋愛と結婚についての考え、どんな理想を持っているか?
・親友は誰か? 友人は多いのか、少ないのか、まったくいないのか?
・自家用車を運転しているのか、公共交通機関を利用しているのか?
・PTSD(外的ストレス性障害)、または身体的・精神的障害があるのか?
・幼いころ愛されていたか、それとも感情を抑圧して生きてきたか?
・今いちばんの悩みは何か?
・絶対にバレてはいけない秘密は何か?
このように具体的な日常の中で主人公の情報を集めよう。キャラクターをつくり上げる過程は、企画の作業でもある。
登場人物のキャラクターを特徴づける方法として、「性格類型検査MBTI」が思い出される。しかし、これをキャラクターに適用するのには大きな危険がある。MBTIは性格を固定させ、キャラクターの潜在能力を消してしまうなど、深刻な問題があるからだ。
重要なのは、作家は創造者として、「自分だけの人間観を持つべき」ということだ。すべての台本は、その台本だけの世界と法則があるべきだ。作家がつくった世界には、当然人間の性格も含まれる。
『ユミの細胞たち』と『7人の脱出』だけを比較してみても、ドラマの中で世界を動かす法則や人間のタイプはまったく異なる。作家はみずから心理学者となり、登場人物の性格をつくり出す人だ(※1)。それが他の作家、他の作品との差別化を生み出すのだ。
物語は主人公のキャラクターについて行く。
主人公をどのようにつくるかによって、ジャンル、プロット、構成、トーン&マナー(作品全体のスタイルに一貫性を持たせること)、リズム&テンポ(※2)、深みが変わってくる。
視聴者の心は、主人公の心と連結している。
主人公のドキドキに視聴者が同調するほど、ストーリーへの没入度が高まり、ストーリーテリングの力が強くなる。
※1/皮肉にもMBTIの創始者キャサリン・クック・ブリックスとイザベル・ブリックス・マイヤーズ親子は、ふたりとも心理学者ではなく小説家だ。彼女らの小説は白人至上主義が含まれていると批判されており、性格類型も非科学的であると評価されているが、韓国では性格診断のバイブルのように扱われている。(ドキュメンタリー「ペルソナ:性格検査の裏に隠された暗い真実(Persona:The Dark Truth Behind Personality Tests)」)
※2/この音楽用語は、ドラマでは、画面や音のパターン、スピードのことを指す。リズム&テンポがいいとは、画面と音の合わせ方が適切で、ドラマが退屈でないことを意味する。ここに問題があるということは、シーンとシーンのつながりや流れが不自然でつまらない、もどかしいという意味になる。