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――シーズン2、3の撮影に入る前に監督へリクエストしたことはありますか?
【イ・ジョンジェ】実は、私はいつも意見を出すほうなんです。作品ごとに「私はこういう風に考えています」「私はこうしたらいいと思いますが、どうお考えですか」と、監督や脚本家と相談を重ねます。ただ最終的には、作り手が望む方向に合わせて演じるのが俳優の役割だと思っています。
『イカゲーム』のシーズン2や3では、具体的なストーリーの提案はしませんでした。シーズン1で確立された世界観がしっかりしていましたし、何よりシーズン1が大きな成功を収めたことで、ファンの皆さんへの感謝を込めて2と3を作る意図があったからです。
監督が本当に描きたい物語を存分に広げてほしいと思い、私は極力口を出さず、監督の表現を理解してその世界観に合わせるよう努力しました。
――ファン・ドンヒョク監督とはどんな話をしましたか?
【イ・ジョンジェ】主に「なぜギフンが再びゲーム会場へ戻るのか」という心理面について話し合いました。
シーズン1でギフンはあの恐ろしい世界を知り、さまざまな人と出会い、情を交わし、そして裏切られました。シーズン2や3では、そんな過去を抱えたキャラクターたちの葛藤も見どころだと思います。
シーズン1のラストで、娘のもとへ向かう飛行機に乗らずに振り返るギフンが、「お前たちを捕まえる」「俺は馬じゃない、人間だ」「人間にこんなことはできない」といったせりふはとても象徴的でした。
視聴者の中には「なぜ飛行機に乗らないのか」「そのお金で新しい人生を始められるのに」と思った方もいたでしょう。でもギフンにとっては、あのお金は人が死ぬことで得たものです。
良心とは他人には見えない、自分だけが知る感情です。守れるときもあれば、守れないときもある。それは私だけがわかることです。ギフンにとってもこの感情がとても大きなものだったのだと思います。到底このお金で幸せに暮らすことができないという良心があるので、逆にそのお金を使って、このゲームを作った人間たちを止める必要があるという考えを持つようになります。その部分を監督とじっくり話し合いました。
――シーズン3の第1話&第2話のダークサイドに堕ちたようなギフンはどのように演じられたのでしょうか?
【イ・ジョンジェ】ギフンも人間ですから、当然“ダークサイド”のような考えを持たないはずがないと思いました。人間は追い詰められるほど、自分の目的を達成しようという本能が強くなるものです。
シーズン2&3では次々と窮地に立たされ、何としてもこの状況を変えなければならない。ゲームを止めて、できるだけ多くの人を救わなければならない。そのプレッシャーが大きかったと思います。
たとえダークサイドに堕ちても、目的を達成することが最優先になる。ギフンの置かれた状況なら、その変化も自然だと思いました。
――『イカゲーム』全3シーズンを演じ切って、ソン・ギフンはどんな男だと思いますか?
【イ・ジョンジェ】ギフン自身も、自分がこんな人間だとは想像していなかったでしょう。それだけシーズン3では大きく変貌を遂げましたし、「こんな運命を背負う男だとは思わなかった」と感じたはずです。
でも彼は、私たちの社会に必ず必要な人物だとも思います。特別に能力が高いわけではないけれど、いつも温かい心を持っている。結局、そういう“正しい心”“温かい心”こそが社会を健康に、明るくしていくのではないかと感じています。
――シーズン3の撮影最終日、ギフンに別れを告げる瞬間はどんな気持ちでしたか?
【イ・ジョンジェ】言葉では表現しきれない、さまざまな記憶や感情が一気に押し寄せました。視聴者の皆さんがこのシリーズを観て、どんな感情を抱いてくれるのか、自分たちが込めた想いを共有してもらえるのかが一番気になりました。早く最終話まで届けたい、ぜひ最後まで見届けていただきたいという思いが大きかったです。
――イ・ジョンジェさんにとって『イカゲーム』とはどんな作品になりましたか?
【イ・ジョンジェ】『イカゲーム』は、韓国のコンテンツを全世界に知ってもらえる大きなきっかけになった作品です。
本作を作ったファン・ドンヒョク監督、出演した俳優たち、多くの技術スタッフを世界に紹介する良い機会になったと思います。
私自身も『スター・ウォーズ:アコライト』というシリーズに出演しました。『イカゲーム』は、韓国やアジア発の作品が世界に広がっていくきっかけになったと思います。
最近は、日本との合作プロジェクトをもっと増やしたいと考えるようになりました。日本のプロダクションとも継続的に会議をしています。日本にある素晴らしいストーリーや漫画をどう発信できるか、日本でリメイクできる韓国作品にはどんなものがあるか、またはまったく新しい物語を韓日で一緒に作ることはできないか、そんなことを話し合っています。
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世界を魅了した『イカゲーム』の完結を経て、イ・ジョンジェが見据えるのは国境を超えた新たな物語作り。日本との合作プロジェクトの実現にも期待したい。