日本ファンタジーの金字塔『ロードス島戦記』に、35年以上の時を経て新たな物語が加わった。完全新作スピンオフ『ロードス島戦記:死霊の女王』が、ウェブトゥーンとして7月31日からLINEマンガとebookjapanで配信され、配信初日にはLINEマンガの総合ランキングで1位となった。
物語の舞台は、本編からはるか昔に起きた「知られざる戦争」。長年描かれることのなかった歴史を、なぜ今、描くのか。原作者・水野良氏に聞いた。

■ 「呪われた島」の緻密な歴史を描いたヒロイック・ファンタジー

 『ロードス島戦記』は、日本のファンタジー文化に大きな影響を与えたライトノベル黎明期の代表作だ。エルフや魔法、冒険者といった要素を広く定着させた同作は、かつて魔神を退けた「六英雄」の伝説が残る「呪われた島」ロードスを舞台に、若き戦士パーンと仲間たちの成長と戦いを描く壮大なファンタジー作品である。

 物語は単なる冒険譚にとどまらない。勢力の均衡を保つために歴史の影から暗躍する「灰色の魔女」との死闘や、強大な力を秘めた「支配の王錫」を求める「黒衣の騎士」と竜を交えた決戦、そして邪神復活を阻止しロードスの戦乱に終止符を打つ若き英雄スパークの活躍など、架空の世界を現実の歴史のように描き出すスケールの大きさが、長年にわたり読者を惹きつけてきた。

 その緻密に構築された年表の中で、これまで詳細が語られてこなかった時代がある。それが、今回の舞台となる「知られざる戦争」だ。

■ はるか昔の「カストゥール王国」崩壊直後を描く

 完全新作物語の舞台となるのは、パーンたちが活躍した本編からはるか昔。古代魔法王国「カストゥール王国」崩壊直後のロードス島だ。

 カストゥール王国が滅亡し、永遠の平和が訪れたかに思えた時代。
マーニーの集落で恋人のセラフィンとともに幸せな日々を送る青年・テインの日常は、突如襲来した数多の“食屍鬼(グール)”によって無残に打ち砕かれる。

 首謀者は、カストゥール最後の太守・サルバーンから死霊魔術を受け継いだネクトレラ。霊体となった彼女は、再びロードスの支配者となるべくセラフィンの肉体に憑依する。一方、瀕死の重傷を負ったテインは、心の中に響く謎の声に導かれるように「狂戦士」として覚醒していく――。

 原作の根幹設定と密接に結びつくこの時代を舞台に選んだ理由について、水野氏は明かす。

「企画段階でオリジナルな作品にしようと決まったので、構想だけあって、作品にはしていないこの時代にしました」

 執筆当時から存在していた構想と、今回のウェブトゥーン化にあたって制作陣から出された提案が混ざり合い、新たな物語が構築された。

「ロードスの歴史については漠然としたアイデアはありましたが、制作側からもどういう作品にしたいかの提案があり、それに合わせてアレンジしています。全体的にロードスの歴史に正規に組み込んでも違和感のない作品になっていると思います。ただ私は原案でしかないので、細部についてはウェブトゥーンならではのオリジナリティが出ていますね」

■ 小説の「内面」から、ウェブトゥーンの「ビジュアルとアクション」へ

 活字で紡がれる小説と、スマートフォンでの縦読みを前提としたウェブトゥーンでは、表現手法も物語の伝わり方も大きく異なる。水野氏は、両者のメディア特性の違いを明確に意識している。

「小説だとキャラクターの内面を重視していますが、ウェブトゥーンではビジュアルやアクションに強みがありますよね」

 メディアの特性を最大限に生かすため、水野氏は原案者として制作チームの熱意を積極的に取り入れる姿勢をとっている。

「制作側とは、何度もミーティングをして、作者としての想いは伝えてあります。
ですが、先方にも今回の作品に対する強いこだわりを感じました。その熱意を受け入れたいので、ロードスの世界観に合うようできるかぎり調整しています」

 ビジュアル面でのダイナミックな挑戦が続く一方で、既存のファンが安心できる要素も担保されているという。

「ビジュアル的にはこれまでにない新しさを感じていますが、既出の主要キャラが登場するとやはりロードスらしさを感じますね」

■ 歴史の「ミッシング・リンク」を埋める

 本作で“空白の歴史”が描かれることは、長年シリーズを追い続けてきたファンにとっても新たな発見をもたらす。

「ロードスの歴史を考察するのが好きというファンの方には、いくつかのミッシング・リンクが埋まるのではないかと思います。そこは作家として、私がいちばんこだわっているところなので期待してください」

 一方で本作は、重厚な王道ファンタジーの世界に初めて触れる若い世代に向けた、新たな入口としての役割も担う。幅広い読者層へのアプローチについて、水野氏は原作者としての率直な思いを述べる。

「ファンがどう受け取るかを考えつつも、作者としては自分が好きなもの(台詞やシチュエーションなど)をできるかぎり多く詰め込もうと欲張っています」

■ 「ぜひ、“お帰り”ください」――新旧読者へのメッセージ

 最後に、ウェブトゥーン版『ロードス島戦記 : 死霊の女王』を手にする読者へ向け、水野氏は次のようなメッセージを寄せた。

「長年のファンの皆様には、また新しい“戦記”をひとつお届けできたことが嬉しいです。ぜひ、“お帰り”ください。そして新規のファンには、ひとりでも多くこの作品に触れていただきたいですね。そしてこの作品が気に入れば、どうか他の作品にも“沼って”ほしいです」

 日本ファンタジーの金字塔が、ウェブトゥーンという新たな表現媒体を得て生み出すダイナミックなアクションと鮮やかなビジュアル表現。35年以上を経て明かされる「知られざる戦争」の行方に注目が集まる。
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