輪島で、足元の暮らしすべてが本当に復興するには確かに時間がかかる。苦悩も葛藤もあるが、現地に行くと、そればかりではない。

変わらない美しい山、海の恵みを生かし、新たなものを生み出す人。地元を元気にしようと走り回る人。その強さと笑顔に、かえってこっちが力をもらう。

こうじでご当地ビール、「空の上は晴れている」 <谷川醸造>

 「ほんのり甘く、深い。米こうじ由来の香りがふあっと香る感じです」。谷川醸造4代目の谷川貴昭さん・千穂さん夫妻は、今年、これまで輪島になかったご当地のクラフトビールを商品アイテムに加えた。被災後も絶えず作り続ける自慢のこうじがベース。全壊した醤油(しょうゆ)工場の再建に力を注ぐなかでの、新たな挑戦だ。

 ビールづくりに協力したのは、富山県南砺市の「NAT.BREW」(ナットブリュー)。震災後、共通の知人を通じて醸造家と知り合った。輪島には日本酒の蔵、ワイナリーはあるが、地のビールはない。谷川醸造にはもともと保有していた酒販免許もあり、震災前からいつかビールを商品化できたらとも考えていたが、想定外のタイミングで実現することに。

「住む人は減っていくのかもしれないが、来ていただける人を考えていく時に、一緒に飲めたら。そして、人同士をつなげるものがつくれたら、と」。

▽輪島へのエール

 谷川醸造の米こうじをベースに、一緒に輪島をめぐった醸造家が自ら調達した輪島産米も加えた第1弾の商品名は「雲の上はいつも晴れ」。たとえ今は土砂降りでも必ず晴れる時がくる。頑張る輪島全体への力強いエールだ。第2弾は少し味わいを変えたこうじビール、その次は地の果物を使ったフルーツビールもつくろうと考えている。

 谷川醸造は被災後に醤油の生産停止に追い込まれ、他社の委託生産の協力を得て、生揚(きあ)げ醤油に独自の味付けをした甘口の主力ブランド「サクラ醤油」の出荷を続けている。木おけで仕込む本醸造の醤油づくり再開は、これからだ。倒壊した蔵が解体され、今年3月、ようやく更地になった。新しい蔵を建設しながら仮建屋で本醸造の仕込みを始める予定だが、救出された木おけがすべて使えるかは、まだ分からない。

▽ご縁から生まれたグッズたち

 それでも「どんな形でも一歩進む、いろんな形で前へ」。下を向いているのは、らしくない。

昨年は青いシートに覆われていた社屋の一部は扉が新調され、イベントスペースを併設した店ができた。醤油、みそ、こうじを使った調味料とともに、地元のイラストレーターとコラボレーションしたTシャツや手ぬぐいなどのオリジナルグッズも並ぶ。「ご縁を大切にしていった中で、新たにできたもの」たちが迎えてくれる空間は、わくわく感もいっぱいだ。

「能登ベイク」のパンで地元の光に <ラポール デュ パン>

 クロワッサンやハード系のフランスパンが県外のファンにも人気のブーランジュリー「ラポール デュ パン」。鹿島芳朗さん・美江さん夫妻と両親で切り盛りする店が、震災発生後の空白を経て再びパンを焼き始めてから、1年半近くがたつ。「震災前よりも、良いパンを焼きたいっていう気持ちや、地元への思いが強くなって」と芳朗さん。

 新しくできた商品の一つ、「ヴィーガンケーキ」に使ったのは、輪島の酒蔵・白藤酒造店の酒かす。白藤酒造店は今夏、震災後初めて仕込んだお酒を出荷した。「ずっと長く続いてきた酒造りが止まり、再び始められた、その一発目で出たもの。長い歴史の中での貴重なタイミングの酒かすをいただいた」。それに、粒の大きさと宝石のような鮮やかな赤色から全国の和菓子メーカーにも引き合いの強い小豆・能登大納言を加えた、「能登ベイク(Bake)の今しかできない味」だ。

▽自分の役割は

 輪島の復興は順調だとはいえない。

大地震に傷つき、ようやく前を向きかけた約1年前。集中豪雨により人命の被害が再び出て、芳朗さんも懸命に捜索にあたった。「町全体がダメ押しを受けた感じで、精神的にも体力的にもとても厳しかった」。筆舌に尽くしがたい状況下で、「育てていただいた輪島に何ができるのだろうと考えた。少しでも良いパンを皆さんに食べていただくことが自分の役割ではないかと」。

 背中を押してくれているのが、多くの新たな出会いだ。長野、群馬、和歌山など全国の同業者から届いたバターや寄付金、そして自慢のパンも。自らも大阪や東京のイベントに出店して活動の幅を広げ、「一生分の人と知り合ったのではないかというぐらいの出会いがあり、元気をもらいました」

▽「今までにない能登」をつくる

 再生に向けた計画がようやく立ち、街は次のフェーズに移る。足元の人口は減り、歯を食いしばる時かもしれない。そこでパンを焼くことで、「火をともしていきたい。小さな火種でも飛び火すれば大きくなる。遠くからも輝く光が見えれば、願わずして離れた人も元気になり、新たに引き寄せられる人もきっと増える」

 大阪出身の美江さんが大好きなのは、能登の比類ない自然の開放感。

「大きな夕日が水平線に落ちる。こんなん本当にぜいたくやなって思います」。家族で一緒に火をともしていく。そうすれば、これから「今までにない能登が必ずできていく」はずだ。

復興へ「もえるにくまん」、収益は地域貢献に <紡ぎ組>

 「これからも皆で燃えていこう」。復興への熱い思いを込めた「もえるにくまん」をつくっているのは、輪島市の郊外・深見地区の廃校を拠点に活動するNPO(非営利法人)の「紡ぎ組」。地元の能登豚、タマネギ、タケノコが入った餡が、国産小麦のふっくらとした皮で包まれた肉まんは、約50年前、輪島朝市のあった中心商店街で人気だった肉まんの味を再現したものだ。美味しさと懐かしさが地元の人を喜ばせただけでなく、輪島市のふるさと納税返礼品にも採用されるようになった。

 地元の女性の力も借りてつくられている新たな名物は、販売収益が輪島の人の暮らしを支えるNPOの活動にも生かされている。震災後、市街地の学校の校庭には仮設住宅が建ち、家が損壊して仮設住宅に住む子供は大きな声を出して騒げなくなった。「拠点としている廃校の校庭は、目の前が水平線が見えるほどの大きな海、後ろはすぐに山。子どもたちが思い切り遊べる場所にしよう、と」(副理事長の坂井美香さん)。

 開放感あふれる校庭を、キャンプサイトとして開放。桜の季節は着ぐるみがやってくるお花見、夏は水鉄砲遊びをしてかき氷が食べられるお祭り、秋はラジコンのサーキット場を使ったイベントも。「皆、走り回って、本当に楽しんでます。売り上げは全然上がらないこともあるけど、子どもやお母さんの笑顔が見れたらいいのかな」。

 今年4月には、「のと里山里海染め研究所」を新たにスタート。千枚田なら土、海なら海藻、里山の野菜や花々。輪島にある地域ごとのたくさんの色の素材を生かした染めものを、地域の女性を担い手につくる。「桜の枝を煮出すと見事な花びらの色がでるし、肉まんをつくるタマネギの皮なら、目の覚めるような黄色に染め上がる。どう染まっても失敗はなく、『輪島の色』というのがいい」。ハンカチなど土産物として商品化し、ゆくゆくは新たな生業につなげたい。

 山あいの廃校から始まった肉まんづくりは、あたたかな熱を帯びながら燃え続けている。

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