会社を成長させられる社長にはどんな特徴があるか。LINE執行役員などを務め、個人投資家でもある田端信太郎さんは「企業が不祥事を起こしたり、業績不振に陥っているときに、自ら率先して説明の機会を作れるのが優秀な社長だ。
社長自らが頭を下げるべきタイミングを見極められる会社は、組織としてさらに成長できる」という――。
※本稿は、田端信太郎『株で儲けたきゃ「社長」を見ろ! いちばん大切なのに誰も教えてくれない投資の王道』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「上場企業の社長」は会おうとすれば会える
皆さんは「普通のビジネスパーソンや一般株主が、上場企業の社長になんて会えるわけない」と思い込んではいないだろうか。
確かに、1対1でじっくり話す機会は難しいかもしれないが、株主総会や決算説明会、あるいは何かのイベントやセミナーなど、社長と接点を持つ機会は意外とあることに気づくべきだ。私の経験上、それなりに有名な社長であれば、3カ月も真剣にウォッチしていれば、少なくとも1回は直接その姿を見る機会くらいはあるだろう。
また、最近の東証は、上場企業と株主・投資家との対話を強く強く推進している。社長本人に直接会えるかどうかは別としても、会社を訪問したり社員と会話するようなチャンスは以前よりもはるかに広がっている。
会社訪問して社長に会うことができれば、社長のこと、会社のこともよりよく分かるだろう。「どうせ無理だろう」と最初から諦めずに、やれるだけのことはやってみるといい。
たとえば、IRページには必ず問い合わせ先が載っている。電話で「株主ですが、御社について詳しく知りたいので、オフィスを訪問してお話を伺うことは可能でしょうか?」と依頼するのは、失礼なことでもなんでもない。こうした問い合わせに対する企業側の対応一つをとっても、その会社のスタンスが色濃く表れている。
あるいは、メールで具体的な質問を送ってみてもいい。
もちろん、質問したからといって必ずしも期待通りの返答があるとは限らない。「現段階ではお答えできません」と大人の対応をされることも少なくない。しかし「質問に回答してもらえなかった」ということも、情報の一つになる。
上場企業であれば、完全に無視されることはまずない。気になることや知りたいことがあるならば、まずは何かアクションを起こしてみよう。
■決算説明会の出席者を見れば会社の雰囲気が分かる
上場企業は3カ月ごとに決算発表を行う。この決算説明会に「誰が」「どのように」出席し、説明を行うかを観察すると、企業の内情や経営陣たちの力関係がよく分かる。
上場して間もないベンチャー企業のなかには、決算説明会に毎回社長が一人で登場し、すべての説明を行っていることがある。規模が小さく人材が限られているベンチャーなら仕方がない側面もあるが、毎回社長しか登壇せず、他の役員が姿を見せないという状況が続く企業は、典型的なワンマン経営だと見ることができる。
たとえばメルカリでは、上場当初は山田進太郎CEOが毎回登壇していたが、ある時点から、四半期決算ではCFOが中心となって説明を行うようになった。山田さん自身は年に1~2回のみ登壇するスタイルに変わっていった。

このように、決算説明会に誰が出るかという変化を見ていると、「企業が新しいフェーズに移行しようとしている」「経営陣が意識的に権限委譲を進めている」といった意図を読み取ることができる。
決算説明会ではCEOとCFOが2人で登壇しているようなケースも見かける。ここでは、それぞれの発言時間の配分に注目して見ると面白い。2人で出てきているのに、結局CEOばかりが喋っていて、CFOがほとんど発言の機会を与えられないような状況であれば、その社長(CEO)は良くも悪くも目立ちたがりで、「俺が俺が」と前面に出過ぎるタイプなのだろう。
■業績不振のときこそ、トップが全面に出るべし
一方で、このようにCEOばかりが説明していた企業が、徐々にCFOがメインで説明するようになり、ついにはCFO単独で登壇するようになったとしたら、これは権限移譲が順調に進んだ証拠である。
こうした変化は、企業が健全に成長し、社長一人に依存しない強い体制が構築されつつある良い兆候だ。さらに、決算説明会に4人も5人も役員が出てくる会社もあるが、人数が多すぎるのは良い兆候とは言えない。責任の所在が曖昧になり、明確なリーダーシップが欠如しているように見えるからだ。
超がつくほどの大企業になると、基本的にはCEO本人はほとんど登壇せず、CFOや副社長クラスが説明を担当することが多い。CEO本人は年に一度、本決算時のみ登壇するなど、登場シーンが限定される。
これは私の個人的な印象だが、ソフトバンクの孫正義さんは、決算が悪いときほど自ら前に出てきているように感じる。1兆円規模の損失が出た時でさえ、「大勢に影響なし!」と大胆にスライドを見せながら、「これくらいの損失はさざ波ですよ!」と堂々と言い切る。

孫さんがガハハと豪快に笑いながら「これからの20年、30年を考えれば、このくらいの損失は大したことではありません」と語れば、株主としても「まあ、孫さんがそう言うなら大丈夫なのか……」と不思議な安心感すら抱いてしまう。こういう社長の態度は、ダメージ・コントロールという意味で非常に有効だと思う。
経営者として、逃げない姿勢を印象付けられるし、不安を解消するどころか「この人ならもっとすごい未来を見せてくれそうだ」と更なる期待さえ抱かせてしまう。
■リコール問題で矢面に立った豊田章男氏
逆に、業績が絶好調で、誰がどう見ても素晴らしい決算のときは、社長がわざわざ表に出てアピールする必要はほとんどない。
担当役員が淡々と数字を説明するだけでも、投資家たちは勝手に満足してくれる。ところが、孫さんとは真逆に、業績が絶好調のときに限って「さあ、みなさん、私を褒めてください!」と言わんばかりに前に出てくるタイプの社長もいるから呆れてしまう。
超がつくほどの大企業ともなると、決算説明会にも社長が立つ機会は少ない。だからこそ、その社長がどんな場面で姿を見せるのかに注目することで、経営者としての覚悟や人間性を知る大きなヒントをつかむことができる。
似たような話で、大きな炎上事件や騒動が発覚したときに、どのタイミングで社長が出てくるかというのも注目のポイントだ。わずかなタイミングの違いによって、世間の印象は大きく変わる。私がトヨタの豊田章男さんを最初に「この人は本当にすごい経営者だ!」と思ったのは、2010年にアメリカで大規模なリコール問題が発生したときのことだ。
この時、当時の社長である豊田章男さんは、自らアメリカ議会の公聴会に出席し、事態の説明を行ったのだ。

■「社長が頭を下げるべき場面」が分かっている企業は強い
一般的にこのような場合、トヨタほどの規模の大企業にもなると、社長をいわば「天皇陛下」のように守り、可能な限り表に出さないようにすることが多い。できるだけ部下や広報担当に担当させて、本当にどうしようもなくなったタイミングで社長が出てくる。
しかし、豊田さんはかなり早い段階から、自ら率先して説明の場に立ったのだ。その姿に改めてトヨタという会社の強さと豊田章男という経営者の底知れなさを感じた。対照的なのが、テレビで毎日のように取り上げられるような不祥事が発覚しているにもかかわらず、なかなか社長が表に出て謝罪や説明を行うような場が設けられないケースだ。まさに大企業の悪い典型である。
私は長年、メディアや広報の現場にいたので、こうした対応を見ていると「なぜこんな基本的なことができないんだろう」と本当に不思議に感じる。会社の規模が大きくなればなるほど、たとえ社長本人に直接の責任がなくても、組織を代表してトップが頭を下げるべき場面が必ず訪れる。
その時に「率先して出てくるか」「ギリギリまで隠れているか」によって、世間の印象はまったく変わってくるのだ。どちらのほうが良いかなんて、言うまでもない。
ただし、全てのトラブルに社長がいち早く登場すれば良いわけではない。たとえば法人営業における顧客との個別のトラブル程度の場面の場合、逆に社長が早く出過ぎるのも問題だ。
社長が出ていくと、まだお互いがきちんと納得していないのに無理やり話をまとめなくてはいけなくなり、遺恨が残ったり、変に貸しを作ったりと、長期的に見るとより面倒な事態に発展したりする可能性もあるからだ。
そこまで大きくない問題は、現場の担当責任者が全力で解決し、社長に負担をかけないようにするべきである。そして、それができる社員が評価され出世していくような会社になれば、組織としてもより強くなれる。

----------

田端 信太郎(たばた・しんたろう)

オンラインサロン「田端大学」塾長

1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。2005年、ライブドア入社、livedoorニュースを統括。2010年からコンデナスト・デジタルでVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年NHN Japan(現LINE)執行役員に就任。その後、上級執行役員として法人ビジネスを担当し、2018年2月末に同社を退社。その後株式会社ZOZO、コミュニケーションデザイン室長に就任。
2019年12月退任を発表。著書に『これからの会社員の教科書』『これからのお金の教科書』(SBクリエイティブ)、『ブランド人になれ!』(幻冬舎)他。

----------

(オンラインサロン「田端大学」塾長 田端 信太郎)
編集部おすすめ