住んでいるマンションに不具合が出た場合、住民や管理組合にできることは何か。一級建築士の須藤桂一さんは「管理会社に調査を任せるのは最悪だ。
しっかりした管理組合は普段から住民同士の関係性を築き、外部の専門家との繋がりももっている」という――。
■調査をデベロッパー任せにしてはいけない
どんなに注意を払ってマンション選びをしても、入居後にトラブルに見舞われることがある。最近も、東京都世田谷区の高級マンション「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」で深刻な欠陥、違法建築が発覚、訴訟に発展しニュースとなった。
そこで、マンションに不具合があった場合、大切な財産を守るため、管理組合や区分所有者がどうすべきなのか、ベストの対処法をマンション管理のプロに聞いた。
あなたのマンションで、もし外壁の崩落、漏水といった重大な不具合が発生した場合、管理組合はどんな対応をしているだろうか? 「管理会社にまず相談し、マンションを作ったゼネコン、デベロッパーに調査してもらう」のが普通だろう。
ところが、マンションの管理見直し、大規模修繕工事の設計監理について、コンサルティングの経験が豊富な一級建築士の須藤桂一さんは開口一番、「欠陥や違法建築の調査を、ゼネコンやデベロッパーに任せ切りにするのは最悪です」と切り捨てる。
「犯罪捜査を犯人にさせるようなもの。欠陥や違法建築があったとしても、簡単に認めるわけがありません。下手をすれば、証拠も隠滅してしまうでしょう。
管理会社も本来、“管理組合の味方”であるべきですが、とりわけ、マンションを作ったゼネコン、デベロッパーの系列管理会社には要注意。
マンション分譲後も、系列管理会社が管理を担うケースが圧倒的に多いのですが、系列管理会社が、欠陥や違法建築の隠蔽に加担しても不思議ではありません。親会社に逆らうはずがないからです。
私は、系列管理会社が管理組合に対して利益相反行為を行った場合、ほかの管理会社に速やかに契約変更するようお勧めしています」(須藤さん)
■外部の専門家にセカンドオピニオンを
では、建物や設備などの不審点に気づいた場合、管理組合はどう対応すべきだろうか?
須藤さんは、次のようにアドバイスする。
「多少のコストや手間がかかったとしても、独自に探した外部の専門家に調査してもらい、証拠を保全しましょう。欠陥工事は、管理組合に巨額の損害をもたらすことがあるので、長い目で見れば、そのほうが得策です。ただし、“セカンドオピニオン”を取るのが目的。調査結果を比較するため、後でデベロッパーにも調査をさせましょう」
大規模な施工不良による共用部の改修で、工費が5000万円かかったとしよう。区分所有者は持ち分が2%なら、100万円もの損害を被ったことになる。責任の所在を、明らかにしておく必要があるのだ。
■無関心な住民は業者にとって“いいカモ”
一方で、須藤さんは、管理組合や区分所有者にも、次のように苦言を呈する。
「大切な財産を守りたかったら、まず自分でもマンションに関心を持ち、現状を知ること。専門知識がなくてもいいので、基礎知識くらいは備えておきましょう。欠陥や違法建築を見つけ、デベロッパーと的確な交渉ができるかどうかは、管理組合や区分所有者の“リテラシー”によって、大きく左右されるのです」
現役世代のビジネスパーソンの場合、「仕事や家事・育児が多忙」などと“言い訳”をして、マンションの管理を人任せにするケースも実際には少なくない。「輪番制」で管理組合役員になっても、理事会に出席しない“幽霊役員”もいる。

マンションに無関心な区分所有者は、「建設・不動産業者の“いいカモ”。食い物にされても、文句は言えないでしょう。後で泣きを見ないため、マンションを買わないほうがいいかも」と、須藤さんは手厳しい。
■管理組合役員になったら一度は見るべき“開かずの間”
とりわけ、管理組合役員は、“経営責任”を負う立場なので、「管理規約を通読してみるなど、マンションについて必要最低限の勉強をするべき」と、須藤さんは強調する。
「例えば、私が顧問をしている管理組合で、新任役員への引き継ぎの際、『マンション内見学会』というオリエンテーションをしている例があります。
管理室に入ったことがない人もいるので、どんな設備なのか、どんな書類があるのかを確認してもらいます。屋上に上がったりもします。とりわけ、水道管やガス管を収容する地下ピットがある場合、潜入してみるべきでしょう。普段は“開かずの間”なので、何らかの瑕疵が隠れていることが多いのです」(同)
■「隣室の住民の名前すら知らない」は危ない
須藤さんによれば、欠陥や違法建築によるマンションの不具合は、竣工から数年以内に起こることも珍しくない。
「例えば、植栽がすぐに枯れてしまったので調べたところ、土の中にガラ(廃棄物)が埋められていて、それが原因だったケースがありました」(同)
もっとも、不具合が専有部(住戸)に現れるケースでは、住民からの報告がなければ、欠陥や違法建築の発見が遅れる公算が大きい。
定期的に住民にアンケートを取って、建物や設備に不具合がないかどうかをチェックするといった方法もある。しかし、須藤さんは、次のような持論を展開する。

「管理組合を風通しがいい、良好なコミュニティにすることが先決。住民同士が交流や連帯を深め、信頼関係を育んでおけば、専有部の不具合といったネガティブ情報も、自然に上がってくるようになるのです」
逆に言えば、「隣室の住民の名前すら知らない」ということはままあるが、そうしたマンションでは、欠陥や違法建築への対応も後手に回りやすいということだ。
■普段からの交流がイザというとき役に立つ
最近では、管理会社が「個人情報保護」をたてに、マンションの「居住者名簿」を管理組合にも出し渋るケースが増えている。しかし、須藤さんは、別の手があると言う。
「住民同士が、自主的に連絡先を交換しておけばいいのです。女性の場合、SNSの大規模なネットワークが、マンション内で構築されていることもあります。
住民がお互いのプロフィールや人となりをよく知っていれば、イザというときにも役立ちます。マンション住民の中には、いろいろなジャンルの専門家がいます。管理組合も住民の得意分野を把握し、問題が起こった際は相談に乗ってもらうといいでしょう。
良好なコミュニティを形成するためには、管理組合も住民同士のコミュニケーションを活発化し、親睦を深める活動に力を入れるべきだと、私は主張しています。
私が顧問をしている管理組合では、年間5万円のコミュニティ活動費の予算を組み、担当理事がお花見、クリスマスや正月の餅つきといった、さまざまなイベントを企画した例がありました。ゴルフなど趣味の住民サークルがある管理組合もあります。
そうした管理組合では、総会などへの組合員の参加率が3分の2以上に達するケースもあります」(同)
■築10年目に建物の“精密検査”を
病気と同じで、マンションの欠陥や違法建築も早期発見・早期対策が望ましいと言える。そのため、「管理組合は、住民からの情報収集を怠らず、不具合の兆候を見逃さないようにしなければなりません」と、須藤さんは警鐘を鳴らす。
「差し当たっては竣工後、10年を経過した建物に義務付けられ、マンションの外壁全面をくまなく調べる『外壁打診調査』を生かしましょう。
壁のタイルが落ちて通行人に当たったりすれば、管理組合に損害賠償責任が生じるので、外壁打診調査は必ず実施しましょう。その際、オプション料金を支払ってでも、“人間ドック”のように、建物全体を詳しく調べておくことをお勧めします。
外壁打診調査は原則、『足場』が必要なので、大規模修繕工事と同時に行うのが普通です。大規模修繕工事の設計監理担当のコンサルタントなどに、併せて依頼するといいでしょう。ただし、10年瑕疵担保制度で、ゼネコンやデベロッパーも築10年目の建物検査を行いますが、『異常なし』と言われても、頭から信じないようにしましょう」(同)
■外部の専門家にできるだけ早く相談
良好なコミュニティが形成され、勉強熱心な役員が運営する、自立した管理組合といえども、マンションの欠陥や違法建築といった重大な問題は手に余るに違いない。そんな場合は専門家、行政機関といった外部の助っ人に協力を求めよう。
マンションの欠陥や違法建築が見つかると、企業価値へのダメージを避けようとして、デベロッパーが秘密裏に問題処理しようとするケースが後を絶たない。管理組合や区分所有者も、「公表すると、マンションも風評被害に遭います」といったデベロッパーの口車に乗って、欠陥や違法建築を隠そうとしがちだ。資産価値の下落を恐れてしまうからだ。

しかし、管理組合や区分所有者は「非がない」はず。「ネガティブ情報の公開もいとわない」と腹をくくって、速やかに外部の助っ人に相談すべきだ。問題解決が先送りされれば、それだけ事態も悪化してしまう。
建物や設備などのハードに関しては建築士、損害賠償などの法務については弁護士、管理組合の運営や管理会社との交渉などについてはマンション管理士といった国家資格を保有する専門家がいる。相談者について守秘義務もある。
欠陥や違法建築であれば、住宅行政を担う自治体、国土交通省などの監督官庁に相談してもいいだろう。デベロッパーの対応が不当で、「納得がいかない」のであれば、報道機関に“リーク”するといった奥の手もある。世論を味方にすれば、デベロッパーを牽制できる効果もある。
■デベロッパーに“忖度”していないか
とはいえ、トラブルに直面しているのに、「頼れる専門家がなかなか見つからない」といった管理組合も少なくないようだ。そこで、須藤さんは次のように勧める。
「いろいろな専門家を、日頃から探す努力をしておきましょう。実際に、専門家に相談してみないと、頼りになるかどうかを見極められないからです。

例えば、外壁打診調査であれば、試しに何人かの建築士に相談してみるといいでしょう。初回なら、無料で現地調査をしてくれるケースもよくあります。“かかりつけ医”を決めるのに、初めはクリニックをハシゴするのと一緒です。最近では、SNSをチェックしてみるのも一つの手。デベロッパーに“忖度”する発言しかしない人は、頼りにならないかもしれません」(同)
自治体の一部には、弁護士やマンション管理士によるマンションの無料相談制度もある。弁護士会の弁護士紹介制度も利用可能だ。
■弁護士への法律相談も早めが肝心
河合弘之弁護士が代表を務めるさくら共同法律事務所によれば、欠陥や違法建築について法的手段に訴える場合も、やはり早急な法律相談が望ましいという。
「不法行為に基づく損害賠償請求を行う場合、損害および加害者を知ったときから3年、または不法行為時から20年が経過すると、原則的に消滅時効が完成してしまうからです。時効の起算点を争ったり、相手方の時効の援用を『信義則に反する』『権利の濫用』として争ったりすることもできますが、ハードルが高くなります。
マンションの欠陥や違法建築についてデベロッパーと争う場合、被害者である区分所有者が『集団訴訟』を起こすなど、一枚岩で対抗することが最も重要になります。そうしないと、デベロッパーが住戸の買い取り攻勢などで管理組合の切り崩しを図り、法的手段に訴えにくくなる恐れがあるからです」(さくら共同法律事務所)
速やかに法律相談をしておけば、区分所有者が団結する重要性を認識でき、結束が強固になるだろう。さらに、デベロッパーの損害賠償などの民事責任だけでなく、刑事責任も追及できるかもしれない。
「一般に、不動産が違法建築であることを売り手が認識しながら、違法建築ではないと買い手に積極的に誤信させ、売買契約を締結した場合、詐欺罪が成立する可能性があります。宅地建物取引業者が、不動産に法令違反があるといった重要な事実について故意に告げず、または不実のことを告げた場合、宅建業法違反で処罰されることもあります」(同)
皆さんのマンションに、もし欠陥や違法建築の疑いがあるなら、本稿を参考に管理組合で協議して、ぜひ早めに手を打ってほしい。

(ジャーナリスト 野澤 正毅)
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