※本稿は、菊原智明『決定版 「稼げる営業」と「ダメ営業」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■相手から引き出せる情報が何倍も変わる質問
稼げる営業は質問でチャンスを広げ、
ダメ営業は詰まらせる。
営業活動においてヒアリングは極めて重要です。初対面や接客時にお客様に質問をして「どれだけ聞き取れるか」が重要になってきます。
ただし質問にも「良い質問」と「悪い質問」があるのです。
ある起業したての人にお会いした時のことです。
その男性はお会いして突然こう質問してきました。
男性「菊原さんのミッションと今後の展望をお聞かせください」
私「ミッ、ミッションですか? それは……」
何かカッコいいことでも言おうと思ったのですが、とっさに出てきません。
しばらく考えてから「人に役立つことをしたいです」と答えるのが精一杯でした。男性はお礼を言い、去って行きました。「人の役に立つことをしたい」だなんて具体性がなく彼の役に立ちません。
もしこの時「菊原さんは朝起きてからどんなことをしますか?」と、もう少し具体的な質問だったらどうでしょうか。このように具体的に聞かれれば、何倍も役立つことを言えます。
私は長年朝活をしており、朝のうちに9割以上の仕事をこなしています。朝の効率的な過ごし方や習慣についてお話しできたでしょう。
質問によって、相手から引き出せる情報が何倍も変わってくるのです。
■お客様が答えやすい質問でチャンスが広がる
これは営業でも同様です。抽象的な質問では抽象的な答えしか返ってきません。
という私自身も、お客様が答えにくい質問ばかりしていました。
私「ご購入の時期はいつ頃お考えでしょうか?」
お客様「まだハッキリしていませんが、ずっと先だと思いますよ」
私「そうですか。では、予算はいくらでしょうか?」
お客様「……それも分かりません」
私はお客様が回答に詰まるような質問ばかりしていたのです。
これでは質問したところで、いい情報は引き出せません。
稼げる営業はお客様が答えやすい質問をします。
営業「今の家賃はいくらですか?」
お客様「6万3千円です」
営業「今の家賃にいくらまででしたら、プラスして支払いできますか?」
お客様「そうですね。5、6千円だったらプラスできます」
営業「そうですか。それでは月々の支払が7万円以内でしたら大丈夫でしょうか?」
お客様「そうですね。そのくらいであれば問題ありません」
こうしてお客様の支払限度額を聞き出し、正確な予算を把握します。
お客様としても「予算は?」と質問されるより、「今の家賃にいくらプラスできますか?」と聞かれた方が答えやすいのです。
また購入時期に関しても「これ以上、建築時期が遅れたら困るという時期はいつでしょうか?」と、具体的な質問をして時期を絞っていきます。
漠然といつですか? と聞いたのでは「まだまだ先ですから」という答えしか返ってきません。
質問する時は、お客様が回答に詰まるような漠然とした質問はやめましょう。
お客様が答えやすい質問をすることでチャンスは何倍も広がります。
お客様が答えやすい具体的な質問をする!
■カッコいい専門用語も、伝わらなければ意味がない
稼げる営業は素人風に話し、
ダメ営業は専門家風に話す。
一緒に働いていた先輩は知識が豊富なため、お客様に専門的な説明をします。
聞いていてほれぼれしました。
私はその先輩にあこがれて説明をマネしたものです。
お客様「鉄骨と木造の家の違いは何でしょうか?」
私「基本的に鉄というのは木と違って弾性力が優れています。弾性力とは力を加えると変形し、除荷すれば元の寸法に戻る性質のことです」
お客様「そうですか……。でも鉄はサビに弱いですよね」
私「はい。鉄は酸化すればサビますが、空気と接しなければサビることはありません。そのために当社はカチオン電着塗装をしております」
お客様「はぁ……(カチオン? 何を言っているんだこの人)」
私自身はプロらしくカッコよく説明できていると思っていました。
しかし、お客様はどうでしょう?
「弾性力」ですとか「カチオン電着塗装」などと説明されても、まず理解できる人なんていません。こんな説明ではお客様にはまったく伝わらないのです。
■この人の話は難しくて分かりづらいと思われている
そんなある日のこと、新入社員がお客様に説明しているところを見かけました。
新人は知識がないため、危なっかしい説明をしています。
お客様「あなたの建物で他社より優れている部分はどこですか?」
新人「そうですねぇ。鉄でできていて頑丈なところです」
お客様「鉄はサビませんか?」
新人「しっかり塗装をしているから大丈夫です」
お客様「そうですか。
「鉄でできている」や「しっかり塗装をしている」などの説明はまるで素人そのものです。こんな説明で大丈夫なのかと思いましたが、お客様は納得しているようでした。
実際彼はよく次回のアポイントをとっていました。そしてあっという間に私の成績を上回ってしまったのです。その結果を目の当たりにして「どうして知識の少ない新人の方が売れるんだ?」と不思議に思ったものでした。
知識がある人が売れなくて、知識があまりない人が売ってしまう。これは、それほどおかしいことではないのです。
知識が多い私の説明の方が、一見専門的でカッコよく感じるかもしれません。
しかしお客様は「この営業の話は内容が難しくて分かりづらいなぁ」と思っています。
■豊富な知識を誰でも分かるようにかみ砕いて伝える
今まで数多くのトップ営業にお会いしましたが、その人たちは総じて分かりやすく話をします。以前お会いした証券会社の営業は、投資信託について「絶対に損をしたくないのでしたら商品Aです。ちょっと損しても儲けたいのでしたら商品Bです」と簡潔に説明していました。
このように全くの素人でも分かるような内容で話をしてくれます。
稼げる営業は、毎日商品知識やお客様に役立つ情報を得るために勉強しています。
商品について詳しく知っていますが、それを誰でも分かるようにかみ砕いて伝えます。
知識を学んだら、それを分かりやすく伝える工夫も忘れないでください。
誰でも理解できる言葉に翻訳して伝える!
■スマホ屋で体験した店員のプレッシャーに嫌な汗
稼げる営業は臨機応変に対応し、
ダメ営業は型にはまった対応をする。
先日、駅の近くのスマホ屋さんに行った時のことです。
「また新しい機種が出ているな」と思って見ていると一人の店員さんが近づいてきます。
店員「スマホの買い替えをお考えですか?」
私「いえいえ、ちょっと見ているだけです」
店員「今はどんなタイプをお使いですか?」
私「今はこれです」
とポケットからスマホを出して見せると、店員さんはこのように言ってきました。
店員「そちらのタイプですと、そろそろ電池が弱くなってくる頃ではないでしょうか? 電池交換よりも電話本体の買い替えをおすすめします」
私「電車の時間もあるので、すみません」
店員「お客様、こちらも見てください」
店員の手の差す方を見ると最新機種が並んでいるコーナーです。
店員「こちらは従来のタイプよりスピードも早く電池の持ちが格段によくなっています」
私「そうですか、参考になりました」
と帰ろうとする私にさらに説明を続けます。
店員「今なら乗り換えキャンペーンもやっています!」
なんとかその場から去りましたが、店員さんのプレッシャーに嫌な汗が出ました。
あなたもこのような嫌な経験をしたことはないでしょうか?
■相手を無視した型にはまったトークにうんざり
この時は冷やかしですが、たとえ購入しようと思っていたとしても、この店員さんからは買いません。
しかしお客様のことを考えずに伝えても、いい結果につながらないのです。
という私もお客様を無視したトークをしていました。
私「どうですかお客様、このリビングは広く感じませんか?その理由は窓を大きく設置しているからなんですよ」
お客様「へぇ」
私「壁の端から端まで窓が設置できるのは当社だけです!こうしたことができるのは強靭な柱を使用しているからです。こちらをご覧下さい。他社と比較しても全然大きさが違うのが分かります」
お客様「……」
このように次から次へと自分よがりのトークを披露していました。
言いきった私は「よし! マニュアル通り全てのことを伝えられたぞ」と満足します。
しかし、お客様はどうでしょう?
「うちは広いリビングなんて希望していないよ。勝手なことばかり説明する営業はうんざりだ」と思われていたはずです。先ほどのスマホ屋の店員さんや過去の私のようなタイプの人は、まずいい結果にはつながりません。
■まずはお客様に興味を持つことから
一方、稼げる営業はお客様を無視したトークを一切しません。
会話をしながら「この人は雑談を交えた方がいい」と判断します。
そしてその雑談からニーズを聞き取り欲しいものを何気なく聞いていきます。
お客様を型にハメずに臨機応変に対応しているからこそ響くトークができるのです。
先日行った洋服屋さんの店員さんは決まりきったトークなど一切せず、私の服の好みや悩みをよく聞いてくれます。
その上で「それでしたらAタイプかBタイプがいいと思います。どちらもお似合いになると思いますが、後は好みですね」と言ってくれました。気持ちよく購入することができたのです。
型にはまったトークをするのではなく、まずはお客様に興味を持ちましょう。
お客様に興味を持ち、柔軟な対応をする!
----------
菊原 智明(きくはら・ともあき)
営業コンサルタント
営業サポート・コンサルティング代表取締役。関東学園大学経済学部講師。社団法人営業人材教育協会理事。1972年生まれ。群馬県高崎市出身。群馬大学工学部卒業後、トヨタホームに入社し、営業の世界へ。自分に合う営業方法が見つからず7年間、ダメ営業時代を過ごした後、手紙で情報を提供する営業に切り替えたことをきっかけに4年連続トップ営業に。2006年に独立し現職。主な著書に『訪問しなくても売れる!「営業レター」の教科書』(日本経済新聞出版社)、『売れる営業に変わる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『面接ではウソをつけ』(星海社)、『トップ営業マンのルール』『「稼げる営業マン」と「ダメ営業マン」の習慣』『残業なしで成果をあげるトップ営業の鉄則』(明日香出版社)、『営業1年目の教科書』『営業の働き方大全』(大和書房)、『リモート営業で結果を出す人の48のルール』(河出書房新社)、『仕事ではウソをつけ』(光文社)、『使ったその日から売上げが右肩上がり!営業フレーズ言いかえ事典』(大和出版)などがる。
----------
(営業コンサルタント 菊原 智明)