体に不調が起きたら、どうするべきか。医師の平松類さんは「肩や腰、膝などに痛みが出ても年齢のせいにして放置する人は多い。
しかし治療対象の病気やケガが隠れていることがある。一度は整形外科を受診したほうがいい」という――。
※本稿は、平松類『それってホントに老化のせい?』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■背中が丸まっている高齢者の多くに起きていること
40歳以降の人が、ある日突然、肩周りに激痛を覚えて、その後しばらく腕が上がらなくなってしまう。四十肩、五十肩などと言いますが、まさにそのあたりの年齢で出やすい症状です。
肩に痛みが発生すると「年だから仕方ない」と、病院に行かない人がたくさんいます。これ、ちょっと危険なので、肩が痛い時には、必ず整形外科を受診して検査してもらってほしいのです。
というのも、単純に年齢のせいで組織などが硬くなり痛みが出ているケースと、「腱板断裂」という状態の可能性があるからです。前者は四十肩や五十肩という診断になりますが、後者は上腕骨と肩甲骨とをつなぐ腱が切れている状態で、場合によっては手術が必要になります。
症状の特徴としては、腕を上げることはできても、力が入りにくかったり、痛みを伴ったり、肩を上げ下げする途中で、「ゴリッ」「ジョリ」という音がしたりします。放置すると、日常生活で困るほどの痛みが出たり、可動域が狭くなってしまうことがあります。
同じような例でいうと、背骨が折れていても気づかない人がかなりいます。
まさかと思うかもしれませんが本当です。圧迫骨折と言いますが、最初は痛いけれど、少し経つと痛みが和らいでくるのです。
そのために、「年による腰痛」だから仕方ないと、病院にも行かない人がいて、結局は、骨が折れたままの状態で、周囲の組織が固まってしまう。背中が丸まっている高齢者の多くが、骨折の放置が原因なのです。
■「年齢のせいと勝手に考えて放置」は危険
肩や腰、膝もそうですが、ある程度の年齢になると「痛みが出ても仕方ない」とみなさん、思われるのです。それで痛みだけ和らげようと、接骨院に行ったりマッサージを受けて治療をする。けれどもその前に「本当にその痛み、年齢のせいですか?」と言いたいです。
年齢のせいではなくて治療対象の病気やケガなのに、気づかずに年齢のせいと勝手に考えて放置する人が多いのはとても気になります。
とくに女性の場合は骨の密度が重要で、骨密度をチェックしておくことは、健康、そしてずっと人に頼らず生きていけるような体作りに必要です。
骨の密度が低下し、スカスカになってきた状態を「骨粗しょう症」と言います。
とくに女性の場合は、閉経後にはホルモンの関係で、骨を形成するのが難しくなってきますから、骨粗しょう症のリスクが高いのです。
自治体によって差はありますが、40歳以上になると骨粗しょう症の検査を無料で受けられるチャンスがあると思います。
ぜひ一度、チェックをしてみてください。
■一日一回、「楽しない選択」をすること
骨を丈夫にするには「カルシウム」をたくさん摂らなければ、と思いがちですが、カルシウムだけでは骨はつくられません。カルシウム以外にも、カルシウムの吸収を助けるビタミンDなどさまざまな栄養素が必要になります。
乳製品、大豆、小魚、海草、色の濃い野菜、サンマやイワシなどの青魚、きのこ類はとくに重要ですが、特別に何かを食べるというより、いろいろな食材を食べることを意識すると良いでしょう。
「毎日これを食べなければいけない」というやり方は長続きしませんから、「1週間で20種類の食材を食べよう」くらいの、ゆるりとした感じで構いません。
あと、骨粗しょう症では「運動をしないと、骨が育たない」とも言われます。確かにそうなのですが、そもそも運動が好きで毎日続けられていれば、骨粗しょう症にはならないわけです。
運動が苦手、嫌いな人が対象ですから、無理に運動してくださいとは言いません。
一日一回、「楽しない選択」をすること、「一日一ふんばり」をおすすめしています。
「エスカレーターを使わずに」といっても、外出先ですべてのエスカレーターをスルーするのは相当つらいものです。だから、一日のなかで、一回だけエスカレーターを使わず階段を選ぶ。
家から駅までの道のりで、電信柱10本分だけ小走りしてみる。
コンビニや銀行に行く時に、車を使わず自転車や徒歩で行ってみる。それだけのことでも、運動をほとんどしてこなかった人にとっては貴重な時間になります。
■「筋肉痛が遅れてやってくるのは年のせい」は間違い
「筋肉痛は運動直後に出るのが正解、時間が経ってから痛みが出るのは年のせいだ」と思っているとしたら、それは誤解です。
そもそも運動後の筋肉痛には2種類あって、一つは筋肉の周辺に乳酸などの疲労物質がたまり、痛みを誘発するものです。この痛みは、運動直後から表出し、長くは続きません。
もう一つの痛みは、運動によって筋肉の繊維がダメージを受け断裂を起こし、これを回復させようとする過程で「痛みの物質」が分泌されることで発生するものです。この時、ダメージの大きさによって、痛みが出るまでの時間に差が生じます。
大きな負荷で強いダメージが筋肉に与えられると、強い痛みが短時間起こります。しかし、緩めの負荷を長時間与えた場合には、痛みが出るまでに時間がかかるのです。
つまり、極限まで筋肉をいじめるような鍛え方をした場合には、筋肉痛は速攻で出ますが、階段を駆け上がったとか、ちょっとした運動では、数日経って筋肉痛が現れて当然なのです。
学生の頃の部活では、力の限り運動をしていたでしょうから、筋肉痛はすぐに出たはずです。しかし、中年期以降に突然ハードな鍛え方をしたら、筋肉痛どころかケガをしてしまうかもしれません。
ですから、ゆっくり筋肉痛が出てくるような運動をしているほうが正しいのです。
また、ハードな運動でなくても、その部位の筋肉を定期的に使っていると筋肉痛になりにくくなります。定期的にゴルフをしているとか、フラダンスを習っているような人は、筋肉がたくさん壊れるようなこともなく、修復時の痛みは少なくなるのです。
筋肉痛が遅れてやってくるのは年のせいではなく、今の自分にちょうど良い運動ができた証拠ですから、決して悪いことではありません。

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平松 類(ひらまつ・るい)

眼科医 医学博士

愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。「あさイチ」、「ジョブチューン」、「バイキング」、「林修の今でしょ! 講座」、「主治医が見つかる診療所」、「生島ヒロシのおはよう一直線」、「読売新聞」、「日本経済新聞」、「毎日新聞」、「週刊文春」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「女性セブン」などでコメント・出演・執筆等を行う。Yahoo!ニュースの眼科医としては唯一の公式コメンテーター。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」は30万人以上の登録者数で、最新情報を発信中。著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』(時事通信出版局)、『自分でできる!人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。

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(眼科医 医学博士 平松 類)
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