仕事中でミスが絶えない人はどうしたらよいのか。特性のある人の就労支援に携わりながら、自身の発達障害とも向き合うキズキの林田絵美氏は「“注意”に目を向けることで、不注意を減らすことができる」という――。

※本稿は、林田絵美『自分に合った「働く」が見つかる 発達障害の人のための自分攻略法』(彩図社)の一部を再編集したものです。
■注意とは選び取る力である
資料の添付忘れ、スケジュールの入力ミス、指示の読み間違えなど、自分は真剣に取り組んでいたはずだったのに、何かが抜けていたり、何かを間違えていたりする。このような「不注意」、つまりは「ケアレスミス」に悩む方は、読者の皆様にも多いのではないでしょうか。
どうすれば、不注意を減らすことができるのでしょうか?
著者が非常に重要だと考えるのは、「そもそも注意とは何か?」から理解することです。なぜなら、不注意とは「注意の偏り」や「注意の不足」で起こる現象だからです。
私たちは日々、膨大な情報に囲まれています。すべてを等しく処理することは不可能なので、脳は「何に注目し、何を無視するか」を選びながらはたらいています。この“選び取る”はたらきが「注意」です。
私たちが日常生活や仕事で何かに取り組むとき、脳の中ではいろいろな種類の注意が複雑にはたらいて、情報を選び取っています。
例えば、会議資料を作っているときに、チャット通知の音が鳴ったとします。そのとき「反射的にそちらに目を向ける」人もいれば、「無視して作業を続けられる」人もいます。この違いは、注意の向け方やコントロールの仕方に、各人で違いがあるために生じます。

■人間が持つ注意の4タイプ
注意のタイプには、主に次の4つがあります。心理学の分野では、それぞれのはたらきを「持続的注意」「選択的注意」「分割的注意」「転換性注意」と分類します。ここではよりイメージしやすいように、以下のような言葉に置き換えています。
注意の維持(=持続的注意)

注意の取捨選択(=選択的注意)

注意の分割(=分割的注意)

注意の切り替え(=転換性注意)
これら4つの注意の特徴を理解すれば、対策を練ることができるようになります。どれか1つの注意が原因でケアレスミスが生じることもあれば、4つのうち複数が原因となってケアレスミスが生じることもあります。そうしたケアレスミスに対処する術を、ご紹介します。
■注意を向けるポイントを「定型化」する
注意の維持が後半でゆるんできたり、注意の取捨選択がおろそかになると、油断や決めつけといったミスが生じる可能性があります。
確認が必要な場面で「たぶん大丈夫」と思って省略したり、「きっとこうに違いない」と決めつけたりして、本来見るべき事実を見落としてしまう――。そんな、向けるべき対象に注意を向けられない場合に有効なのが、「あえて毎回同じ確認をする」ための仕組みをつくることです。
■【実践例1】作業ミス撲滅のため「チェックリスト」を固定化
例えば筆者は、Gmailの画面の右側にメール送信前のチェックリストを表示するようにしています。
定型業務の大半において、ミスがないか確認する箇所は決まっています。毎回それをゼロから考えていると漏れが生じるので、確認漏れが生じやすくなります。

だからこそ、チェックポイントをあらかじめリスト化しておけば、“見るべきところ”に自然と注意が向かうようになり、安定した確認が可能になります。
こうした仕組みをつくっておくことで、「前回はちゃんと確認できていたのに、今回はうっかり抜けてしまった……」といった“注意のばらつき”を防ぐことができます。
また、毎回その場で「どこに注意を向ければいいか」を考える必要がなくなるため、思考のキャパシティを節約する効果もあります。チェックリストによって注意の対象を定型化することで、気分やコンディションに左右されにくくなり、ミスを安定的に防げるようになるのです。
■環境を整えて集中の「邪魔」を減らす
注意の維持や取捨選択がうまくはたらかないと、気が散って仕事ができなくなる恐れもあります。周囲の情報量が多すぎて、注意があちこちに引っ張られてしまうわけです。
人は、自分が思っている以上に「環境の影響」を受けています。特に、視界や聴覚から入ってくる刺激は、無意識のうちに注意を奪ってしまうものです。
こうした「なんとなく集中できない」という事態に陥るのを防ぐには、「集中しやすい状態をつくる」ことから始めるのが効果的です。ポイントは、自分の意思の力に頼るのではなく、「気が散りにくい環境を用意すること」です。
■【実践例2】ノイズキャンセリングイヤホンを使う
カフェやオフィスなど、周囲に話し声や物音がある場所では、ノイズキャンセリング機能のあるイヤホンが非常に役立ちます。集中を妨げる雑音を、物理的にシャットアウトするわけですね。
シンプルですが、やるとやらないとでは大違いです。ぜひお試しください。
中には無音の環境よりも、自然音や軽いBGMなどを流すほうが集中しやすいという人もいるでしょう。集中の邪魔を取り除けるのであれば、それらも全く問題ありません。自分に合った音環境を見つけるようにしましょう。
■【実践例3】作業スペースの視界に余計なものを置かない
机の上に書類や本、ガジェット類が散らばっていると、それだけで注意が分散します。「いまやる作業」に関係のないものは、一時的に見えない場所に避けておきましょう。これにより、視覚的なノイズを減らすことができます。
パソコン上でも、似たことが言えます。余計なタブやファイルをいったん閉じることも注意の分散を防ぐ効果があります。
■【実践例4】スマホの通知を「一時的に」完全オフにする
通知音やバナーが出るたびに、注意は一瞬そちらに引き寄せられます。「通知はスルーできる」と思っていても、無意識に集中を妨げていることが多いです。
作業に集中したい時間だけは、通知をすべて切る、もしくは「おやすみモード」にするなど、意図的に遮断することを習慣にしましょう。
■作業の「順番」と「進捗」を見える化する
複数の作業を並行して進めていたら、「何から手をつけるべきか」「いまどこまで進んでいるのか」がわからなくなってしまった――。注意の分割がうまくはたらかないと、そんな事態に陥る可能性があります。
こうした事態は、頭の中だけで情報を整理しているときに起こりがちです。情報が頭の中であふれて、注意が混乱しているわけです。このまま続けていると、作業の抜けや段取りのミスにつながりかねません。
そこでおすすめしたい対策が、「作業の順番や進捗を目に見えるかたちにする」ことです。
人のワーキングメモリ(作業中の記憶)は、容量に限界があります。である以上、必要な情報はできるだけ外に出して管理するようにしましょう。注意の負担を減らすうえで、とても効果的です。
■【実践例5】「いまやっている作業」「このあとやる作業」を付箋で可視化
例えば、デスクの前やノートに付箋を貼って、左から順に「これからやる」「いまやっている」「終わった」に並べていく方法があります。頭の中で考える代わりに、いまの作業がどの段階かを目で見て把握できます。
タスクが切り替わったときの「中断したまま忘れてた」という事故も防げます。
また、TrelloやNotionといったウェブアプリケーションがおすすめです。いずれも、プロジェクトごとにタスクをリスト化し、それぞれの作業の進捗状況を把握するのに便利なツールです。
Trelloの特徴は、カンバン方式のボードを作成する点にあります。図表3のように、「今日やること」「未着手」「進行中」「完了」など、タスクを視覚的に管理することができます。
一方、Notionではプロジェクトごとにデータベースを作成できます。期限や担当者を設定することで、どの作業がどの段階にあるのかを整理しやすくなるでしょう。こうしたツールを活用することで、作業中に別の業務が割り込んだ場合でも、進行状況を簡単に確認し、スムーズに作業へ戻ることができます。
■【実践例6】割り込みタスクには「一時メモ」で対応
作業中に入ってくる急ぎのチャットや電話も、注意の分割を妨げる要因です。こうした割り込みタスクに気を取られた結果、作業の順番や進捗がわからなくなる恐れがあります。
この場合は、紙やメモアプリを活用してみましょう。チャットや電話が入ったら「いま中断した作業の状況(例:「報告書、3ページめで止まってる」)」を書き残しておきます。
これだけで、元の作業に戻ってきたとき、格段にスムーズな進め方ができるようになります。

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林田 絵美(はやしだ・えみ)

キズキ取締役

「何度でもやり直せる社会をつくる」をビジョンとするキズキの取締役・公認会計士。2015年PwC Japan有限責任監査法人に入社、社会人2年目に発達障害(ADHD・ASD)の診断を受ける。2018年、キズキに入社。うつや発達障害による離職からの再就職を支援する新規事業「キズキビジネスカレッジ」を立ち上げ。現在はCFOとしてコーポレート全般を統括。キズキ林田絵美Xアカウント

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(キズキ取締役 林田 絵美)
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