タスク管理が苦手な人は、なぜ苦手なのか。特性のある人の就労を支援し、自身も発達障害と付き合うキズキの林田絵美氏は「そもそも『何を管理すべきか』『誰に相談したらよいのか』などが明確になっていないことが多い。
そんな人こそ生成AIの力を借りるといい」という――。
※本稿は、林田絵美『自分に合った「働く」が見つかる 発達障害の人のための自分攻略法』(彩図社)の一部を再編集したものです。
■タスク管理に活用できる「強い味方」
タスク管理について考える際に、“思考を一緒に整理してくれるパートナー”としてとても役立つのがChatGPTです。
ChatGPTは、OpenAI社が開発した“会話型のAI”です。人間の言葉を理解し、自然な文章で返してくれるのが特徴で、まるで人とチャットしているかのように使えるツールです。質問を1回投げたら終わり、というものではなく、会話の中で状況を深掘りしながら、一緒に考えてくれるAIです。
いまではビジネス・教育・日常生活など、さまざまな場面で使われています。そんなChatGPTを「タスク管理のパートナー」としてどう使うかを紹介していきます。
なお、ChatGPTは無料版・有料版がありますが、ここでは無料版でも十分行える例を紹介しています。
■例1:ChatGPTでタスクを洗い出してみる
ChatGPTに慣れておらず何から質問していいかわからない方は、とりあえず「いま困っていること」をざっくり話すところから始めてみましょう。
▼ChatGPTへの質問①
上司から「社内会議の日程調整」を指示されました。必要なタスクを洗い出してください。

▽ChatGPTからの回答①
社内会議の日程調整を行う際に必要なタスクを洗い出します。以下のステップで進めると効率的です。
1.会議の目的と内容の確認

・まず、会議の目的や内容を確認し、参加者や必要な資料を把握します
2.会議の参加者リストの作成

・上司から指示された参加者をリストアップします

必要に応じて、参加者の部署や役職も確認します
3.参加者の空き時間調整

会議に必要な参加者の空き時間を確認します。これには、以下の方法が考えられます:

・チームの共有カレンダーを確認

・メールやチャットツールで参加者に空き時間を確認

・もし、日程調整ツール(例:Googleカレンダー、Doodle、Outlookの予定表機能)を使用する場合、リンクを送る
4.会議の日時候補を複数提示

・参加者の空き時間に基づいて、会議候補日程を数パターン作成します
5.会議場所やツールの決定

・会議が対面の場合、会議室の空き状況を確認し、予約を行います

・オンライン会議の場合、使用するツール(Zoom、Teams、Google Meetなど)を決定し、リンクを作成します
6.会議の日程確定

・参加者から確認を得て、最終的な日時を確定します

・参加者全員に日程確定の通知を送ります
7.会議のアジェンダ作成

・会議の内容に合わせたアジェンダを作成します。必要に応じて、上司や関係者に確認を取ります
8.会議のリマインダー通知

・会議の前日や数時間前に、参加者にリマインダー通知を送ります(カレンダーの通知機能を活用することが一般的です)
9.会議の資料準備

・必要な資料やプレゼンテーション資料があれば、事前に準備して共有します

・これらのタスクを順番に実行し、スムーズに日程調整を進めることができます

■例2:前提条件を追加し、ChatGPTでタスクを洗い出してみる
ChatGPTは前提情報を与えると、あなたのいまの状況によりあった回答をしてくれます。質問①・回答①と比べてみてください。
▼ChatGPTへの質問②
会議に関する詳細は以下です。

この詳細情報を前提としてもう一度、社内会議の日程調整に必要なタスクを洗い出してください。
・私と上司の所属は経理部です

・会議の出席者は私、上司、システム部の担当者2名です

・会議では、経理部で使用しているシステムで生じた不具合について部内で調査しても解決せず、システム部に画面を見せながら相談します

・不具合が発生した作業を担当しているのは私なので、私から詳細の説明をする予定です

・会議はオンライン(Zoom)で実施します

・私は上司から、なるべくはやく会議を設定してほしいと言われています

・私は上司の空いている予定はカレンダーから確認できます

▽ChatGPTからの回答②
会議の詳細をもとに、社内会議の日程調整に必要なタスクを再整理しました。今回はオンライン会議(Zoom)で、参加者が限られていることと、なるべく早く設定する必要がある点を考慮しています。
1.会議の目的と詳細確認

・会議の目的:経理部で使用しているシステムの不具合について、システム部と協議

・出席者:私、上司、システム部の担当者2名

・会議の進行

○私が不具合の詳細説明

○システム部担当者が技術的なサポートや解決案を提示

・会議の形式:オンライン(Zoom)
2.上司の空き時間の確認

・上司のカレンダーを確認し、空いている日時を把握する
3.システム部担当者の空き時間調査

・システム部の担当者2名の空いている日時を個別に確認

○可能であれば、システム部担当者2名と同時に確認できるツール(Googleカレンダー、Outlookの共有機能など)を使って調整
4.参加者全員の都合を合わせる

・上司の空いている日時に合わせ、システム部の担当者の空いている時間を合わせる

・もし調整が難しい場合、いくつかの候補日時を挙げて、再度調整する
5.Zoomミーティングの設定

・Zoomのミーティングリンクを作成

○日時が確定したら、Zoomミーティングのリンクを生成

○事前に会議資料や不具合の説明に必要な情報を整理し、参加者に事前共有(資料や画面キャプチャ等)
6.会議の詳細情報の通知

・確定した日時とZoomリンクを参加者(上司、システム部担当者2名)に通知

○メールやカレンダーの招待を使用して送信

・参加者に会議の目的、議題について簡単な説明を添えて、事前準備を促す
7.会議のリマインダー送信

・会議前日に、参加者にリマインダーを送信

○「会議の日時」「Zoomリンク」「必要な資料」などを再度確認
8.会議後のフォローアップ

・会議終了後、議事録や決定事項を参加者に共有

・必要に応じて、次回の会議設定や追加対応が必要か確認

■まずは思いつくままに質問してみる
このように、会議日程の調整に関わるタスクを整理しました。なるべく早く会議を設定するためには、上司の空き時間を確認した後、システム部担当者2名のスケジュールを調整することが重要です。
また、オンライン会議なので、事前にZoomリンクや資料を準備しておくとスムーズに進行できます。
ChatGPTはこのように、最初にざっくり話しかけてから、必要な情報をあとから補足していくという使い方ができるので「前提条件がまとまってからじゃないと聞けない」とは思わずに、まずはすぐに考えつく範囲で質問を進めてみましょう。
■このまま使える「タスク管理に役立つ質問例」
タスク管理に役立つChatGPTへの質問をいくつか紹介します。
■上司からの指示を具体的なタスクに落とし込みたいとき
▼ChatGPTへの質問例
私は総務の社員です。上司から以下を指示されています。今日は6月1日で、私の労働時間は1日8時間です。いつまでに何をやればいいか、具体的なタスクと期日の一覧を作ってください。
<上司からの指示>

・「6月8日10時の会議の資料について、内容を確認したうえで、当日までに出席者の人数分印刷しておいて」

・「他部署のAさんから上司宛に届いているメール、今日中に見る時間がないから、急ぎかどうか見ておいて」

■タスクの優先順位を判断できないとき
▼ChatGPTへの質問例
私は人事労務の社員です。このタスクを進めるにあたって、優先順位を「緊急度」と「重要性」の観点から一緒に考えてください。
<タスクの一覧>

・社外への郵送物を投函する(期日:今日)

・明後日の会議資料のレビューを上司にしてもらう(期日:今日)

・2週間後の会議の日程調整をする(期日:未確認で急ぎ度がわからない)

・他部署の田中さんからきていたチャットに返信する(期日:急ぎといわれているが、本当に急ぐべきか上司に確認していない)

■先延ばしにしてしまっているタスクに着手したいとき
▼ChatGPTへの質問例
私は経理の社員です。昨日行ったデータ入力の作業で、ミスをしていたことがさっき発覚しました。本当はすぐに上司に報告しなければいけないのですが、報告できずに1時間が経過しています。
進めるのを手伝ってください。
■想定外に発生した状況に対応する方法を知りたいとき
▼ChatGPTへの質問例
私は社内のITヘルプデスクで働いています。もともと経理部から依頼のあった、会計のシステムトラブルの対応を今日中に終わらせる予定でした。経理部からもシステムトラブルの対応は、なるべく急いでほしいと言われて設定した期日でした。

ただし先ほど総務部から、本社のインターネットの通信環境に問題がありそうだから今すぐ対応してくれと言われました。上司は会議中で1時間連絡が取れません。上司に連絡が取れるまでの1時間、まず私にできそうなことを考えてください。
■ChatGPTから提案されたタスク案に違和感や懸念を感じたとき
▼ChatGPTへの質問例
(ChatGPTから提案されたタスクの案に続けて)

このタスク案だと今日の作業の分量が多すぎて、今日中に終わらせられないと思います。もう少し今日の作業量を絞ったタスク案を作成してください。
■ChatGPTから提案されたタスク案が正しいか判断がつかないとき
▼ChatGPTへの質問例
(ChatGPTから提案されたタスクの案に続けて)

このタスク案で進めてよいかどうか、上司に確認したいと思います。上司に確認するメール文を書いてください。
■ChatGPTにすべてを任せるのは要注意
ChatGPTの回答は、万能な正解ではありません。
中には間違っていることや、自分の状況に合わないこともあります。ChatGPTに事前に与えた情報の精度によっても、回答の正確性は変わります。
違うなと思ったら「こういう点で違うのではないか」という問いかけを追加してみましょう。ChatGPTはその疑問点を反映した提案をさらに追加してくれます。
もし、ChatGPTの提案どおりに進めてよいか、自分で判断できない場合があれば、上司にも確認してみればいいでしょう。
ChatGPTはすべてを任せられる相手ではありませんが、一緒に考えてくれる相手ではあります。うまく活用して仕事に役立てましょう。
※ご紹介したChatGPTの例は、「まずはChatGPTを気軽に活用し始める」ことを重視しています。より詳しい前提情報を提供すればするほど、精度は上がります。ChatGPTが備えている機能はたくさんあるので、使い方をマスターしたい方はぜひChatGPTの専門書を読んでみてください。

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林田 絵美(はやしだ・えみ)

キズキ取締役

「何度でもやり直せる社会をつくる」をビジョンとするキズキの取締役・公認会計士。2015年PwC Japan有限責任監査法人に入社、社会人2年目に発達障害(ADHD・ASD)の診断を受ける。
2018年、キズキに入社。うつや発達障害による離職からの再就職を支援する新規事業「キズキビジネスカレッジ」を立ち上げ。現在はCFOとしてコーポレート全般を統括。キズキ林田絵美Xアカウント

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(キズキ取締役 林田 絵美)
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