※本稿は、和田秀樹『65歳、いまが楽園』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■睡眠時間は理想的な「7~8時間」
私はいわゆる朝型人間なので、毎日6時とか6時半には起きています。どんなに遅くても7時ですね。23時までには寝るようにしているので、睡眠時間としては7~8時間で。だから寝る長さとしては理想的とされるレベルですが、問題が何もないわけではありません。
というのも、持病の糖尿病と飲んでいる利尿剤の影響で夜中に4回くらい目が覚めてしまうからです。以前はそれでも4時半から5時の間に起きられたのですが、いつの頃からか、それだと寝足りなさを感じるようになりました。そこにはやはり年齢が関係しているのでしょうね。
だから、以前より長く寝るようにしているわけです。
それでも目覚めたときにはなんとなくだるい感じが正直残っているのですが、いかんせん眠いわけではないので無理にそれ以上寝ようとしたりはしません。
なので、さっさとベッドを出て顔を洗い、そのあとすぐにデスクへ向かいます。
■たんぱく質は絶対に不足させたくない
そして8時くらいまではメールのチェックをしたり、原稿を書いたり、ゲラのチェックをしたりするのが日課です。
朝食を食べるのは8時前後です。
内容はだいたい決まっていて、前の晩にコンビニで買っておいたおにぎりを1個に、青汁を溶かした牛乳をコップ1杯、それと20g程度のプロテインを混ぜたヨーグルトです。
乳製品だけでなく、プロテインまで摂っていたり、ときにはおにぎりと一緒にサラダチキンみたいなものも買ってきてメニューに加えたりしているのは、たんぱく質を絶対に不足させたくないからです。
■「幸せホルモン」を増やすために不可欠
たんぱく質は、新たな細胞の原料ですから、筋肉はもちろん、内臓や骨、歯、肌などをつくるのに必要な栄養素です。不足すると、内臓の機能がどんどん衰えていくし、筋肉や骨も弱ってしまい、肌もハリも失われるので、一気にヨボヨボになってしまいます。
免疫機能を維持する物質の材料としてもたんぱく質は重要です。
年を取るとどうしても免疫機能は低下していくので、風邪をこじらせたり、肺炎などを起こしやすくなったりしてしまいます。それを阻止するためにも、意識的にたんぱく質を摂る必要があるわけです。
また、たんぱく質は、セロトニンという幸せホルモンを増やすためにも欠かすことはできません。セロトニンも加齢に伴い減っていくので、それが「老人性うつ」の発症に大きく関わっているのではないかと考えられています。脳内のセロトニンが多くなると、何気ないことにも幸せを感じられるようになりますから、増やしておいて損はありません。
つまり、たんぱく質というのは、楽しくて充実した「第2の人生」を送れるかどうかの鍵を握っている栄養素なのです。
■一日に必要な量を摂るのは意外に難しい
一日に必要なたんぱく質の量は、一般的には「体重(kg)×1g」が目安になると言われていますが、年齢とともに吸収や代謝の効率は下がっていくので、60代以上の人は、「体重(kg)×1.2g」くらいは摂るほうが良いと思います。
この算出方法だと、体重が50kgの方ならば、60g。体重が80kgの方ならば、96gになります。この量はあくまでもたんぱく質の量ですので、肉を60g食べればいいという話ではありません。
たとえば、木綿豆腐1丁(約300g)を食べたとしても、摂れるたんぱく質の量は21gですし、和牛サーロイン(脂身なし)を100g食べても摂れるたんぱく質の量は17.1gです。
だからこそ、たんぱく質は、意識的に摂らなければすぐに不足してしまうのです。
■肝臓の「ピークタイム」に合わせて朝食重視
とはいえ、いちいち食品中のたんぱく質の量を調べる必要はありません。豆腐や魚、肉、卵などのたんぱく質を多く含む食品を、一食につき、両手に乗る程度食べることを心がければ大きく不足することはないと思います。
また、たんぱく質は、腸の中でアミノ酸に分解されて肝臓で消化吸収されたあと、体にとって必要なたんぱく質へとつくり変えられますが、それを行う肝臓は朝から14時くらいまでの間が最も活発に動きます。私が朝食で良質なたんぱく質をしっかりと摂ることを習慣づけているのもまさにそれが理由です。
ただし、たんぱく質は体内にためておくことはできませんので、可能であれば3食まんべんなく食べ、適度にたんぱく質を補充することが大切です。
■「肉食」なのに健康なインド人の秘密
3食中、朝食は唯一、好みよりも健康を意識していると言えるかもしれません。
それもあって、実は朝食に食べるヨーグルトにはスパイスもかけています。
具体的には、ターメリックとシナモンとコリアンダーなのですが、これは、インドの人たちの食生活に隠された健康法に倣(なら)っています。
インドの人たちはけっこう肉を食べるので、医療界で常識とされる考え方からすると、心血管障害を患う人がかなり多くなっても不思議ではありません。
でも、実際のデータを見ると、心筋梗塞になる人が明らかに少ないんですね。またアメリカ人と比較すると、インド人は認知症の発症率が低いこともわかっています。
インドの人たちの食生活で特徴的なのはみなさんもご存知のようにカレーなので、カレーに使われているこれらのスパイスに血管を若返らせたり、脳の健康を維持させたりする効果があるのではないかと言われているのです。
もちろん単なる仮説なのかもしれませんし、仮に事実だとしても日本人である私がスパイスを摂ったからといって、インド人と同じような効果が得られるとは限りません。
ただ、スパイスは体に害を与えるものではないので、体にいい影響を与える可能性があるのなら摂っておいて損はないかなと思っているわけです。
これは何もスパイスに限ったことではありません。それを摂ることが苦痛ではなく、また摂ったからといって害はないとわかっているなら、体にいいとされるものはそれなりに摂っておこうかなというのが私のスタンスなんです。
■昼の楽しみは週4回は食べるラーメン
朝食を食べたあとは、家でそのまま仕事をしたり、クリニックに行ったり、あるいはそのほかの仕事をしたり、日によって過ごし方は変わります。
そして昼食は、週のうち4回はラーメンです。おいしいラーメンを食べるというのは、私の大きな楽しみの一つなのです。
近所の店で食べることもあるし、日によっては車を運転して遠くの店に行くこともあります。仕事や旅行で地方に行ったときも、ラーメンは必ず食べますね。事前にネットなどで調べて行くこともありますが、たまたま見かけた店に入ったりもします。
もちろん、「うーん、ここはちょっと……」ということもありますが、思いがけずおいしいラーメンに出合うととてもうれしいですよね。
■ラーメンこそが「最高の健康食」な理由
ラーメンは大好きですが、大盛りを頼むことはありません。
どれだけおいしいラーメンでも、たくさん食べれば味に飽きてしまうからです。だから私は、ラーメンを大盛りにするより、ギョーザやチャーシュー丼のような「別の味」を一緒に楽しむほうを選びます。
つまり、これは「健康のために節制している」といった話ではなく、「いかにおいしく、気持ちよく食べられるか」を優先するためのスタイルなのです。
とはいえ、結果的にはそれが健康にもつながっているのではないかと思います。
そういう意味で、私はラーメン自体を「健康食」としてかなり評価しています。
最近のラーメンは本当に手が込んでいて、スープ一つとっても、鶏ガラや豚骨、煮干し、昆布、椎茸、野菜類など、10種類以上の素材が使われていることも珍しくありません。それだけで、実に多彩な栄養が摂れるわけです。
さらに、チャーシューや煮卵、メンマ、ネギ、海苔、もやし、ほうれん草など、いろんな食材をトッピングすることができます。私のように、「いろんなものを食べたい」タイプにとって、ラーメンはまさに理想の一品なんです。
■主食・主菜・副菜の役割を果たす「完全食」
「そばやうどんのほうがヘルシーなんじゃないか」と思われる方もいるかもしれません。
たしかに、カロリーだけで見れば、ラーメンはそばやうどんより高めかもしれません。でも、こと「栄養バランス」という視点で見れば、ラーメンはむしろ圧勝だと私は思います。
たとえば、そば一杯だと基本的に炭水化物が中心です。もちろん、そば粉にはポリフェノールや食物繊維が含まれていて健康的な面もありますが、具材がシンプルな場合、たんぱく質やビタミン・ミネラルはそれほど摂れません。
その点でラーメンは、スープや具材のバリエーションを工夫すれば、一杯で主食・主菜・副菜の役割を果たしてくれる、まさに「完全食」にもなり得るのです。
何より、大好きなラーメンを食べたあとは気持ちが十分に満たされます。こういう満足感というのは、実は健康にとっても非常に大切な要素であると私は思います。
■「コンビニ弁当なんて体に悪い」?
忙しいときなどは、コンビニ弁当で昼食を済ますこともよくあります。
コンビニ弁当もラーメン同様、体に良くないと思っている人が多いようですが、私の考えは違います。
その理由もまさにラーメンと同じです。
コンビニ弁当の中身をよく見てみればわかると思いますが……実にさまざまな食材が入っています。
たとえば、幕の内弁当ならば、鮭などの焼魚に卵焼き、野菜などの煮物にお漬物……など、実に多種多彩です。食材の数で言えば、20~30種類くらいは入っているでしょう。同じように家で作ろうとするのは、かなり大変なことです。
そう考えるとコンビニ弁当は、金銭面だけではなく、栄養面においても非常にコスパが高いと言って良いのではないでしょうか。
食品添加物が気になるという方もいるかもしれませんが、毎日大量に摂取するような極端なことをしなければ、特に大きな問題にはならないでしょう。また、近年は、どのコンビニも「添加物削減」を掲げていて、商品によっては添加物ゼロを謳(うた)うものも増えています。
仮に何らかの害が出るとしても、それは10~20年後の話なので、シニア世代の方の場合はさほど気にする必要はないと思います。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)