自分の中に隠れている専門性を見つけるにはどうすればいいのだろうか。スクール「朝キャリ」でアウトプット指導の実績をもつ池田千恵さんは「まずは書いてみることを通じて自分の“好き”や“強み”を探していくのがよい」という――。

※本稿は、池田千恵『朝15分からできる! 週末アウトプット』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■ブログを書いたらパン教室を開くことに
SNSなどでは記事や投稿の一つひとつの反響がわかる指標がつき、可視化されるようになりました。匿名でも自ら発信することで周囲の反応を見ることもできます。有名であろうとなかろうと、発する言葉が相手に伝わり、相手の琴線に触れたとき、想いは加速度的に拡散していきます。
自分の想いとは裏腹にとんでもない方向に火の粉がふりかかったらどうしよう……など反応が怖いという気持ちもわからなくもないですが、逆に言うと反応してもらえるということは、自分の試みを無料でマーケティングして、データとして収集できることでもあるわけです。
でもやっぱり怖い。そんな方は、まずは「好き」から始めてみましょう。「好き」は最強です。好きだったら動けるし、自分の想いも自然と口から出てきますよね。「もうこれ、本当に大好きなんです!」と、「推し」を語るように話すことができるといいですよね。
私は会社員のとき、会社の許可を得てパラレルワークでパンとお酒の先生をしていました。でも最初から「先生になろう!」と思ったわけではなく、パン教室に通ったり、ワインの資格を取ったりして知識が増えるのが単純に楽しくて、ブログでアウトプットしていただけです。
すると、SNS経由で「パン教室をやってみませんか?」と声がかかり、たまたま先生をすることになりました。
好きなことをしているときは、人にどう思われるかとか、パンを教える資格があるのかとか、そもそもそういう視点でやっていないのです。純粋に「これを作ったからおいしくて楽しい!」といったエネルギーのまま、ワクワクしていました。
■見る側からアクションを起こす側へ
アウトプットする段階のときも、「これを書いて、なんて思われるかな」とか「このパンの切り方がおかしいって思われるかな」、「この膨らみ方で写真を出すなんておかしいって思われるのかな」のような考えはそもそも持っていないのです。つまり、自分の「好き」は、誰にもジャッジすることができないものなんです。
あなたの「好き」を否定する人はただのモラハラ野郎です。否定する人がおかしいんです。ですから、まずは純粋に「好き」を書き出してみるところからスタートしましょう。嬉々として、嬉しそうに、「この楽しさを伝えたいなー!」という気持ちが自分なりの「だし」として滲み出ていたから、私のブログが多くの方に読まれ、パン教室の先生というアウトプットにつながったのだと思います。
もちろん、続けていくためにはアウトプットのコツがあり、それは後述しますが、始めることをちゅうちょする必要はありません。自分自身をさらけ出そうと思うと恥ずかしいけど、自分が大好きなもののよさを知ってほしいな、と思った気持ちを伝えればいいと思うと気が楽になりますよね? そこに熱が乗ってきますので、最初は特にこの感覚を意識しましょう。
SNSなど不特定多数の人が見ているところで自分の考えや想いをアウトプットすることは、やはり最初は怖いですよね。
見る専用にしている方も多いと思います。でも見る専用から一歩進んで「好き」のアクションを起こすと、自分にもいい影響として返ってきます。
■不安を煽るアルゴリズムを変えてみる
特にXは治安が悪く、怖いと思う人も多いですが、治安をよくするコツがあります。すべての行動は鏡のように、自分の想いや行動を反映しています。Xは治安が悪いとあなたが思っているのは、治安が悪い投稿をたくさん見続け、反応しているからです。治安が悪く、不安を煽る投稿ばかりを見続けていると、Xのアルゴリズムで「あなたはそれが好きなのね」「では、もっと見せてあげましょう」と判断するため、さらに過激なものが流れるようになってきます。
それを防ぐためには、情報収集のために嫌いな人をフォローすることをやめ、あなた自身が、「好き」だと思える人をフォローし、「いいな」と心から思った投稿に「いいね」をすることです。そのことにより、「好きだな」と思う投稿がおすすめ欄に多く出てくるようになります。
私のXのタイムラインは、動物の癒やし画像、好きなドラマの熱い感想、推しアーティストへの愛を語る尊いポストがずらりと並んでいて、いつも見ていてほっこりします。かわいい動物と推しの尊さを語る人の投稿に「いいね」をしまくっているから、アルゴリズムが「癒やしモード」になっているのです。
ただ眺めるだけだと、炎上しているポスト、話題になっているゴシップなどに引っ張られます。コメントを残さなくてもいいので、自分から湧いてきた「いいね」の気持ちをアウトプットし、自らアルゴリズムを変えていきましょう。
「いいね」ひとつも立派なアウトプットです。しかも1秒で見える世界を変えられます。
■投稿はポジティブにほっこりと
好きなことに「いいね」を押すのに慣れてきたら、次はリポストです。まずは何もコメントしなくていいので、「好き」と思った投稿を拡散してみましょう。
たとえば演劇が好きなら、観にいった舞台の素敵な感想があったらリポストするのもいいですよね。リポストすることによって、あなたが「いいね」と思った感動投稿が、さらに多くの人の目に留まり周囲にも感動が広がると思うと楽しくないですか?
こうしてリポストに慣れてきたら、一言でもいいので感想をリポストしてみましょう。その際も、いい情報を集めるためには、批判ではなく、ポジティブな投稿をすることです。知人は観劇が好きで、ただ観劇の感想をXに書き連ねています。
批判的なことは書かず、正直にポジティブに、劇を観続けたからこそわかる客観的な感想を書くので、その劇に出演している芸能人の名前で検索してきたファンの方がとても喜ぶそうで、数百フォロワーでも何千「いいね」になることもあるそうです。
■「ピア・プレッシャー」を活かすアウトプット法
別に大好きではないけれど、「これができたらいいな」と憧れるような、目指していることがある場合は「ピア・プレッシャー」(仲間からの圧力)をうまく使うアウトプット法がおすすめです。たとえば私は初心者ランナーでしたが、走行記録をアウトプットすることでフルマラソンを完走することができました。
私はもともと逆上がりもできないほどの運動オンチでした。
小中学校でのマラソン大会は仮病で欠席しようとしたし、ランニングする人の気が知れないとまで思っていましたが、親戚の集まりでついうっかりホノルルマラソンに出場すると口走ったのを機に最初は「仕方なく」ランニングを始めました。
アウトプットを習慣化することで結局ホノルルマラソンを7回、大阪マラソンを1回完走することができました。あまりハードな走り込みをせず、ゆるゆるとマイペースで続け、自己ベストは4時間35分です(とはいえ、出産のブランクで、もうとてもその頃のタイムでは走れませんが……)。
その際、アウトプットが大変役立ちました。といっても、大したことは書いていません。「ホノルルマラソンを目指して!」というタイトルで、2キロ走っただけで息が切れて続かないくらいの全くの初心者のときから、自分のぶざまで、格好悪くて、できない姿をブログに淡々とさらしました。
具体的には、次の記録を淡々と記入しました。
・走行距離

・消費カロリー

・所要時間

・累計走行距離

・月間走行距離

・簡単な感想
■SNSで「しょぼい自分」をさらけだす効果
こういった記録は、ノートや手帳などに書き記しても成長を感じられていいのですが、ブログなど、不特定多数の方が見える形にしたほうが効果的です。ピア・プレッシャーを前向きに活用できるからです。記録を公開することによりランナー同士のゆるい交流も生まれるので、孤独感も減少しました。
余談ですが、このブログを更新していたおかげで、マラソンに全く興味を示さなかった夫が私のブログを見て「こんなにしょぼくてもフルマラソン完走できるんだ」と自信を得て走り始め、朝活ランニングを一緒にするようになり、一緒にホノルルマラソンを完走しました。
つまり「しょぼい自分」でもいいんです。
その「しょぼさ」が相手を勇気づけるんです。また、ブログに記録を書いていたことによってホノルルマラソンを目指す仲間もでき、現地で実際に会うこともできました。
まずは「好き!」をアウトプットすることから始めてほしい理由は、溢れ出る「好き」が満杯になって、それが滲み出る自分だけの「だし」であることが多いからです。でも、自分にはそんなに好きなものはないな、という場合は「絶対嫌」も「だし」になります。
ただし、「絶対嫌」は、SNSやブログで発信すると、同じ「嫌」と思っている意見ばかり集まって心が荒すさみ、タイムラインが荒れるので、「絶対嫌」をアウトプットする場合は、ノートやPCなど、まずは自分だけが見られる場所で始めましょう。
■苦手だからこそ身につく専門性
嫌なことばかり目についてしまう場合も、それがあなたの個性です。「だし」はメガネのようなもので、私たちはどうしてもそう見えてしまう「メガネ」をかけています。嬉しかった、ありがたい、と感じる出来事があったとしても、ほかの人から見たら「自分だったら、そんなの嫌だな」と思うこともありますよね。
ネガティブな視点も別にダメではなくて、そういうメガネをかけて物事を見ているということなんです。ですから、溢れ出る「好き」がないなら、絶対嫌なものや、コンプレックスも、ちょっとアクが強い「だし」として捉えてみましょう。
たとえば私はもともと根暗です。もともと根暗だから、朝活で太陽のエネルギーをチャージして、人工的に明るくしているのです。
つまり、「養殖ポジティブ」です。天然ではなく、もともと暗いからこそ暗くなるときの気持ちがわかるし、朝活で明るくなる方法を研究して体系化できたから、いま仕事ができています。
ほかにも、話すのが上手とか、セミナーの構成がおもしろくてあっという間に終わった! と感想をいただくことが多いですが、元々は話しベタで、人前に立つと赤面して手が震えて何を言っているのかわからなくなることも多々ありました。話しベタだったからこそ読めばいいだけの資料を研究して、いまのアウトプットのスキルにつなげることができました。
苦手、嫌だ、つらい。でも、それがあるからこそ語れる専門性がないかな?という視点で探してみると、その他大勢に埋もれない個性になっていきます。
■自分には当たり前なことが誰かの役に立つ
最後に、「好き」な料理にまつわる投稿で自分を変えたはなまるを。さんの事例を紹介します。
管理栄養士で、レシピをインスタグラムで公開している朝キャリメンバー、はなまるを。さんは、簡単すぎるのでレシピは必要ないな、わざわざ書くのもめんどうだなと思い、ある日「ゆず果汁入り甘酒」について、写真だけを投稿しました。
すると、投稿を見た妹さんから「レシピはどこ? 載ってないから作り方がわからない」と連絡があり、自分にとっての「大したことない」がそうではないことに気づいてハッとしたそうです。「こんなのみんなわかるでしょう?」とあなたが思うずーっと手前でつまずいている人はとても多いのです。
実際、「甘酒にゆず果汁を入れたらおいしい」は簡単で新たな発見ですし、どのくらいの量を入れればおいしいのか詳しく知りたいですよね。発信に気負ってしまい更新頻度が減るよりも、気軽な「名もなきレシピ」を多く発信したほうがいい場合のほうが多いのです。
はなまるを。さんは、妹さんから指摘を受けたとき、最初はムッときたけれど、「待てよ」と感じ、自分の行動を振り返り「これはチャンスだな」と思えたそうで、視点の変化が素晴らしいなと思いました。
こんなふうに、自分が「好き」だから無意識にやっている「当たり前」を見直してみましょう。価値は「あなたが言うまでもない」と思っていること、自然にしていて「みんなできるでしょう」と思っているところにあります。

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池田 千恵(いけだ・ちえ)

朝イチ業務改革コンサルタント

二度の大学受験失敗を機に早起きに目覚め、半年の早朝勉強で慶應義塾大学総合政策学部に入学。外食ベンチャー企業、外資系戦略コンサルティング会社を経て、2009年に『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』(マガジンハウス)を刊行。ベストセラーとなり、「朝活の第一人者」 と呼ばれるようになる。夜型から朝型に変えた実体験と多くの人の早起き習慣化を指導した実績をもとに、2010年より朝専用手帳『朝活手帳』をプロデュース。10年連続で発売する人気手帳となる。「朝1時間」の業務改革による生産性向上、働き方改革 のための手法を企業に指導しているほか、個人に向けてはキャリアに迷ったとき自分の将来を真面目に楽しく語り、学びたい人向けの朝活コミュニティ「朝キャリ」を主宰。2020年4月現在4歳となる男児を育てるワーキングマザー。

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(朝イチ業務改革コンサルタント 池田 千恵)
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