※本稿は、和田秀樹『60歳からこそ人生の本番 永遠の若さを手に入れる恋活入門』(二見書房)の一部を再編集したものです。
■歳をとると性欲がなくなる3つの理由
男性の性欲がなくなる理由には、大きく3つあります。
1 ホルモンバランスの変化
2 ストレス
3 持病と、服用している薬の影響
これを1つずつ解説していきましょう。
1 ホルモンバランスの変化
性的な欲求とは、肌と肌を触れあわせたい欲求、手を握りたい、ハグしたい/されたいといった、肉体的・精神的な欲望です。
精子も卵子も若く、子づくりできる年齢であれば、生殖行為としての目的が大きく占めますが、動物と違って人間は、生殖のみを目的にセックスをおこなうわけではありません。
歳をとったら、むしろ肉体的・精神的な快楽を得る目的以上に、スキンシップや愛情表現の比重が大きくなってくるものです。
こうしたボディタッチによって、愛情に関わるホルモン、オキシトシンの働きが高まります。一緒に食事をしたり、一緒になにかの活動をしたりすることでも、分泌が促進されることがわかっています。
男性は、20代をピークにテストステロンの分泌が徐々に低下していきます。気がつかないうちに性的な欲求が低下しているのです。
■テストステロン値が低い女性は更年期障害が出やすい
一方、女性の性的な欲求は、脳から分泌されるドーパミンや卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲン、そして男性ホルモンのテストステロンなどのホルモンが関わっています。
女性ホルモンの分泌量は30代になると減り、相対的に男性ホルモンのテストステロンが優位に働くようになります。テストステロンは「元気ホルモン」とも呼ばれ、性的な欲求をもたらすホルモンであり、活力、人・モノ・コトへの意欲、好奇心も高めます。
このテストステロン値が低い女性は、消極的で性欲も弱く、更年期障害が出やすい傾向があるともいわれています。
歳をとって更年期を過ぎると元気な女性が増えるのも、テストステロンが優位になるからです。女性は、女性ホルモンの分泌量が減ることで、30代以降からむしろ性欲が増加するという人もおり、なかには、更年期に入ってからどんどん性欲が強くなって、50代半ばにピークに達する人もいます。
男性にとっては、こうして元気になった女性から恋活を通じてパワーをチャージできれば、うつにならずに元気を取り戻すことも不可能ではありません。
■コルチゾールの過剰分泌は心因性EDの発症につながる
2 ストレスが原因の場合
ストレスを感じると、私たちの体からは、その防衛反応としてコルチゾールという物質が生成されます。
コルチゾールの役割は、血管収縮作用や糖の利用の調節、血圧の正常化、肝臓での糖の新生促進、筋肉でのタンパク質代謝の促進、脂肪組織での脂肪分解の促進、抗炎症作用、免疫抑制作用などです。
しかし、コルチゾールが過剰に分泌されると、うつ病や不眠症などの精神疾患、生活習慣病などのストレス関連疾患の一因にもなりえます。
またコルチゾールは、セロトニンの分泌を抑制する作用もあります。セロトニンは、幸せホルモンであり、食欲を抑制する神経伝達物質でもありますから、食欲の歯止めがきかなくなる可能性もあります。
性欲がなくなる現象の関連でコルチゾールの話をすると、コルチゾールは血管を収縮する作用があるので、男性は陰茎の血流にも影響を及ぼします。つまり心因性(機能性)EDの発症につながるわけです。
テストステロンとコルチゾールには相関関係があります。コルチゾールの上昇には、男性ホルモンのテストステロンを減らす作用があり、性欲の減退を引き起こすことがわかっています。
また、陰茎の血流不全が起こるのがED(勃起不全)です。動脈の内腔が狭くなるため、陰茎に送るための血液量が低下して、勃起不全につながるのです。
通常は、性的な興奮や刺激を受けると、脳の中枢神経に興奮が伝達され、陰茎に血液が供給されて勃起が起こります。
■ED患者約1000万人のうち、受診しているのは1割程度
しかし、動脈硬化になると、血管内皮機能が障害を受け、血液を供給するための弛緩・拡張がなされなくなります。
動脈硬化を放置すると、勃起不全だけでなく、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患を招きます。また、高血圧などの合併症を起こしている場合もあります。
ED患者とそうではない患者を比べた場合、高血圧を合併している頻度は、ED患者のほうが多いというデータがあります。また、高血圧が重症化すると、ED症状も悪化することが証明されています。
現在、国内の軽症を除くED患者は約1000万人と推定され、そのうち受診しているのは1割程度といわれています。血管、神経、内分泌、陰茎などに問題のある「器質性ED」と、ストレスなどによる「心因性ED」があります。
EDの診断は、問診やホルモンバランスをみる血液検査と、うつ傾向の有無をみる心理テストがおこなわれます。検査に数万円、薬代として1錠数千円ほどです(医療機関によって異なります)。
ED治療薬は、1998年に登場したバイアグラ以降、シアリス、レビトラが発売され、現在は3種類ありますが、いずれも血管を拡張して血流を増やす作用があり、大脳が興奮した際に、勃起を促し、持続させるように働きます。
重症化する前に、動脈硬化を治療し、合併症の予防やED治療につとめましょう。
■高齢者の「低血圧や低血糖」は害が大きい
3 持病と、服用している薬の影響
血圧が高い男性は、動脈硬化が起こりやすく、陰茎のなかにある海綿体の動脈は、とても細くデリケートなので、ダメージを受けやすくなります。
ほとんどの降圧剤は血管を拡げることで血圧を下げますが、心拍・交感神経を抑えて血圧を下げるβ遮断薬など一部の薬が神経やホルモンに影響し、間接的にEDを引き起こすことがあります。
糖尿病の男性も、高血糖が長期的に続いて血管や神経がダメージを受けると、性的な興奮が陰茎に伝わりづらくなり、性欲低下につながることがあります。逆に、低血糖も性欲低下につながります(私はそのほうが多いとみています)。
脂質異常症の男性も、動脈硬化が起きることで、陰茎の血流が悪くなる場合があります。
ここからいえるのは、医者から出された薬をむやみに飲めばいいというものではない、ということです。
歳をとると血管の壁が分厚くなるので、血圧や血糖値を一定より下げてしまうと、頭がぼうっとしてしまうことが多くあります。
たとえば、薬の副作用による意識障害です。その代表的なものが「せん妄」といい、入院患者にいたっては、2割から3割の人が、せん妄を起こします。
せん妄のときは意識が朦朧としているので、高齢者が事故を起こす原因の1つは、こうした薬害といっていいかもしれません。車の運転をするなら、薬は多くても4種類までにしないと危険です。
入院したとたんにせん妄状態になって、わけのわからないことをいい出すというのは、よくあることなのです。家族が「うちの妻が(母が)ボケた!」とあわてますが、良い医者なら「これはせん妄なので、薬を少し減らしましょうか」と、しっかり対処してくれます。
日常生活の活動レベルを落とさないためにも、恋活をするためにも、クスリは最小限にとどめておくことが重要です。
■欲求と快楽は、脳内で密接に結びつく
また、抗うつ薬には、不安や不眠、慢性的な痛みを解消し、性欲の回復につながる働きがある一方、性欲に関わるドーパミンという物質を減少させ、性欲の低下やEDなどの副作用を引き起こすことがあります。
とくに、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に分類されるジェイゾロフト(一般名セルトラリン)やパキシル(一般名パロキセチン)という薬では、7~8割の方に性機能障害の副作用が現れます。
主治医に、性欲低下に影響の少ない薬をお願いしたいところですが、それを伝えるのは恥ずかしいということもあるでしょう。
それでも勇気を出して「今は恋活中なので、意欲が低下しない薬、せん妄を起こさない薬をお願いします!」と相談してみてはどうでしょう。「は?」という反応がもしあっても、世の中の幸齢者の間で恋活はもはやあたりまえの活動であることを知らない“遅れた医師”ととらえ、寛容な気持ちで許しましょう(笑)。
恋活をすると、ドーパミンが分泌されます。ワクワクドキドキしたいという欲求と、気持ちいい・楽しいという快楽は、脳内で密接に結びついています。
ワクワクドキドキして気持ちがよくなると、報酬が得られます。その主な役割を果たしているのが脳内快楽物質ドーパミンなのです。
ドーパミンは、脳の神経細胞の末端が分泌する神経伝達物質で、脳内で快楽をもたらす物質です。恋活はドーパミン(報酬)を得る活動であり、とくにセックスでオーガズムに達すると、脳内でドーパミンが大量に分泌されます。
やる気と快感を生む脳内のごほうび物質、ドーパミンを分泌する神経細胞が集まるのは、脳内の脳幹という場所で、私たちの生命を維持するうえで、重要な役割を果たしています。
ドーパミンは運動機能を調節することにも関わっているので、十分なドーパミンがつくられなくなると、体の動きや機能の調節がうまく進まなくなり、手足の震えや筋肉のこわばりなどを伴うパーキンソン病との関連も指摘されています。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。
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(精神科医 和田 秀樹)