※本稿は、山田正彦『歪められる食の安全』(角川新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
■昔ながらの「にがり」も添加物
そもそも食品添加物とは何か。食品衛生法では次のように定義されている。
添加物とは、食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用する物をいう。(第4条第2項)
堅苦しくてわかりづらいので、身近な食品で考えてみよう。
例として豆腐を挙げる。豆腐は次のような工程で作られる。まず大豆を水にひと晩さらし、砕いた上で煮る。布を敷いてこす。この過程で絞られた液体が豆乳で、布上に残ったものがおからだ。豆乳に「にがり」と呼ばれる凝固剤を混ぜて、固めたものが豆腐となる。
にがりの混ぜ方や固め方、その際の温度などはメーカーによって異なるが、とにかく凝固剤を抜きにして豆腐は作れない。この凝固剤が食品添加物だ。現時点で塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、グルコノデルタラクトンの5種類が豆腐用凝固剤の食品添加物として許可されている。
先ほど述べたにがりが含まれていないが、にがりの主成分は塩化マグネシウムであり、一つめの添加物にあたる。
昔ながらの製法であるにがりで作られると、大豆のうま味や甘さが引き出された豆腐ができあがる。ただ、にがりは凝固するまでの反応時間が早く、技術的にもむずかしい。そのため、使い勝手のいい他の凝固剤が使われるケースが少なくない。
■日本には海外で禁止されている添加物も
食品添加物に対する規制は、明治時代から始まっていた。明治維新以降の開国とともに次々と輸入された外国産着色料の使用が禁止されたのが最初の取り締まりだったとされている。
法律によって初めて規制されたのは戦後まもない1947年。食品および添加物の基準や表示、検査などの原則を定めた「食品衛生法」で、合成された化学物質、つまり化学的合成品の食品への使用を原則禁止とした。その例外が食品添加物であり、所管する厚生省によって安全・安心が確認され使用が許可されたのは、当初はわずか60種類だった。
しかし、時代や技術の変化とともに食品添加物の定義も変わっていった。いったん許可されながら使用が禁止された食品添加物がある一方で、新たに許可されたものの方が圧倒的に多い。
現在、日本で食品添加物として登録されているものは1518品目にのぼる。4つに分類され、そのうち消費者にとって重要なのは指定添加物と既存添加物なので、実際には前者の476品目、後者の357品目を合計した833品目が比較する数だ。
安全性試験を通過したもののみが許可を得ているが、この評価は絶対ではない。日本では許可されながら、海外では禁止されているものもある。
■「安全」が国によって違う
例えば、食用赤色2号は食品衛生法制定の翌1948年に食品添加物として指定された。一方アメリカでは、76年に発がん性が疑われる試験結果が得られたとして使用禁止措置がとられ、現在も適用されたままだ。
日本では同じ年に食品安全委員会によって検討されたが、ヒトの健康を損なうおそれがない、という結論となり、現在も着色に限定で使用が認められている。国連食糧農業機関(FAO)とWHOの合同食品添加物専門家会議も「発がん性は認められない」と最終的な評価を下している。
こうした食品添加物の表示はもちろん法律にのっとって義務付けられている。具体的には、食品衛生法の施行規則と、食品表示法の食品表示基準だ。
■食品表示に書かれたものが全てではない
食品添加物が表示されるのは、製品パッケージ裏面の義務表示欄で、重要なのが「/」記号だ。その食品で使われた原材料に続いて「/」が置かれ、続いて使用料の多い順に食品添加物が記されていく(写真1)。このように、原材料と食品添加物は明確に区別されている。
指定添加物と既存添加物の合計だけでも833品目あり、すべての物質名とその役割、安全性などを把握するのはほぼ不可能だろう。そのなかで少なくとも食品添加物の用途名と物質名が併記されていれば、購入するかどうかの目安になる。
しかし実際には、物質名の表示が免除されている食品添加物も多い。加工助剤やキャリーオーバー、栄養強化剤といった名称で呼ばれている添加物だ。ここでは詳細には立ち入らないので、関心のある方は日本消費者連盟が発行しているブックレット、原英二著「どうなっているの?食品表示」などを読んでほしい。
表示という点でいえば「一括名」と呼ばれる表示方法によっても表示が免除される。
消費者庁は、一括名を次のように定義し、その理由を次のようにしている。
「複数の組合せで効果を発揮することが多く、個々の成分まで全てを表示する必要性が低いと考えられる添加物や、食品中にも常在する成分であるため、一括名で表示しても表示の目的を達成できるため」
■消費者から選択権を奪う「一括表示」
一括名での表記が認められているのは、冒頭でも記した豆腐用凝固剤に加えて、かんすい、イーストフード、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、香料、酸味料、調味料、軟化剤、乳化剤、pH調整剤、膨張剤と実に14種類におよぶ。
例えばカフェインを食品添加物として使用した場合には、物質名のカフェインではなく一括名の「苦味料」として表示できる。アメリカやEUでも一括名表示は認められているが、対象は香料などごくわずかな食品添加物に限られている。
「乳化剤」もまた一括名の表記が認められている。そのひとつにポリソルベートという添加物がある。アイスクリームやチョコレート、マヨネーズ、洋菓子、チーズなどに幅広く使用されているもので、指定は08年と比較的新しい。
厚生労働省は02年の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会をへて、アメリカやEUで広く使用が認められ、国際的にも安全性への評価が終了していた食品添加物の指定へ向けた検討を開始すると表明していた。
未承認の食品添加物46品目のなかにポリソルベートも含まれていた。なぜ私がこれを取り上げたのかといえば、かつて発がん促進と染色体異常をもたらす懸念が報告されていたからだ。乳化剤ではなく、ポリソルベートと書かれていれば、買うときに選ぶことができる。しかし現在の一括名による表記では、それがかなわない。
■コンビニのおにぎりにも使われている
もう一つ例を挙げよう。
グリシンは、保存料ほど長時間ではないものの、「日持ち向上剤」としての効果を持つ。日持ちも効果は1~2日程度だが、用途名と物質名を併記しなければいけない保存料と異なり、「pH調整剤」として一括表示できる点もメーカー側にとって使い勝手がいいのだろう。
グリシンの語源は、「甘い」を意味するギリシャ語だ。実際にグリシンそのものに少し甘味があるために、塩味や酸味をやわらげて食品のうま味を引き出す調味料としても利用される。コンビニエンスストアで売られているおにぎりにも使用されている(写真2)。
食品添加物の物質名の表示が免除される例外はまだある。
簡略名と同じ理由で、化学構造や由来などが似ている食品添加物では、具体的な物質名ではなく「類別名」での表示が認められている。
増粘多糖類、加工デンプン、パラオキシ安息香酸、カロテノイド色素、フラボノイド色素、野菜色素、カラメル、未焼成カルシウム、焼成カルシウム、不溶性鉱物性物質などが代表例だ。
■発がん性がある「カラメル」が存在する
プリンなどで、コク出しや香ばしい風味づけとして、さまざまな食品で使用される「カラメル」もその一つだ(写真3)。既存添加物のリストには4品目のカラメルが収載されている。このうち昔ながらの品目がカラメルIだ。
一方で糖類と亜硫酸化合物を加熱するのがカラメルII、糖類とアンモニア化合物を加熱するのがカラメルⅢ、そして糖類と亜硫酸化合物、アンモニア化合物の両方を加えて過熱するのがカラメルIVだ。
そのうち、糖類とアンモニアの化学反応を起こす際の副生成物(4-MEI)に問題点が指摘されている。マウス、およびラットへの動物実験で発がん性があると確認されているのだ。カラメルIIIとカラメルIVが該当する。
カラメルIIIはパンなどのベーカリー製品やソース類、スープ類などに、カラメルIVは清涼飲料やペットフードなどにそれぞれ使用されている。特にカラメルIVは世界中で生産されるカラメル色素の約70%を占めている。
■4種類のカラメル、見分ける術なし
現時点でヒトにおける発がん性を示すデータは報告されていないが、それでも国際がん研究機関(IARC、世界保健機関の外部組織)はこの副生成物を「人間にとって発がん性のおそれがある物質」に分類している。
一方、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、ヒトが摂取するリスクを問う質問に次のように回答している(14年9月、「4-MEIに関するQ&A」)。
「現在の科学に基づくと、FDAは、食品に予想されるレベルで4-MEIによって即時または短期的な健康リスクがもたらされると信じる理由はありません」
現時点ではどちらとも判断がつかないが、それでも買うのか買わないのかは消費者一人ひとりの判断である。にもかかわらず、日本ではカラメル色素は全4品目が「カラメル」として一緒くたにされている。IからIVまでのどれが使われているのかはわからない。
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山田 正彦(やまだ まさひこ)
弁護士・元農林水産大臣
1942年、長崎県生まれ。弁護士。早稲田大学法学部卒業。司法試験に合格後、故郷で牧場を開く。オイルショックにより牧場経営を終え、弁護士に専念。その後、衆議院議員に立候補し、4度目で当選。2010年6月、農林水産大臣に就任。現在は、弁護士の業務に加え、種子法廃止や種苗法改定の問題点を明らかにするため現地調査を実施し、国内外で講演なども行っている。著書に『売り渡される食の安全』(角川新書)、『子どもを壊す食の闇』(河出新書)、『タネはどうなる⁉種子法廃止と種苗法改定を検証』(サイゾー)など多数。
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(弁護士・元農林水産大臣 山田 正彦)