※本稿は、平井宏治『国民搾取』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■外国人受け入れを拡大する日本の大問題
2024年6月、イタリアのプーリアで開催された先進7カ国首脳会議(G7)では、中東問題やウクライナ問題と並んで、移民問題が取り上げられた。アフリカや中東から欧州へ押し寄せる移民および難民、メキシコ国境からアメリカに流入する不法移民の急増は解決の難しい問題として恒久化しつつある。日本政府は移民に対してどのような態度を取っているだろうか。
岸田文雄首相(当時)は2024年5月の参院法務委員会で「いわゆる移民政策を取る考えはない」と発言した。ここで言う移民政策とは、「政府として、国民の人口に比して一定程度規模の外国人やその家族について期限を設けることなく受け入れることで国家を維持する政策」を指し、岸田首相は、そうした政策は採らない、としたのだ。
ただし、安価な人件費で働く労働者を求める経済界の要請は根強くあり、外国人の受け入れを拡大し続けているのが実態だ。岸田首相は「技能実習に代わる新制度『育成就労』を設けて外国人を期限付きで受け入れる方針である」と説明し、育成就労をはじめとする「外国人労働者受け入れ拡大などの政策と移民政策は別物だ」と強調した。
外国人労働者受け入れ拡大政策は1993年に始まった。日本に在留する外国人が技能実習という在留資格で報酬を伴う実習を行うことができるようにした「技能実習制度」の創設である。この制度が2027年に「育成就労制度」に取って代わられる予定だ。
■横浜市の人口とほぼ同数の外国人
日本国内に今、外国人が何人いるかご存知だろうか。法務省の公表データによれば(グラフ1参照)、2024年年末時点における中長期在留者数は349万4954人、特別永住者数は27万4023人である。これらを合わせた在留外国人数は376万8977人となる。神奈川県横浜市の2024年年末時点の人口が377万1005人だから、横浜市の人口とほぼ同数の外国人が日本国内にいることになる。
2023年4月に、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が、長期の人口動向を見通す将来推計人口を公表している。
少子化が進み、2070年のわが国の総人口は現在の約7割となる8700万人まで減少し、外国人受け入れ促進政策の結果、外国人の人口割合が5倍になって総人口の約1割を占めるようになる、と推計した。
■日本へ移住を希望する中国人が急増
いま日本でビザ取得の手続きを担う各地の行政書士事務所に中国人から相談が殺到しているという。日本への移住を希望する中国人が急増しているからだ。
特に増えているのが「経営・管理ビザ」の取得を求める中国人である。日本で事業を行う外国人経営者向けの在留資格だ。とはいえ、明確な事業計画はなく、移住自体を目的として同ビザの取得を希望するケースも目立っている。
経営・管理ビザは、2015年4月の改正入管難民法施行まで「投資・経営ビザ」という名称だった。日本の金融機関の口座開設や法人登記などが必要であり、海外に住む外国人にはハードルが高いビザだった。
それが改正入管難民法により、準備期間として4カ月間の在留資格が新たに設けられた。法人の定款を作成し、資本金の証明があれば、口座開設や登記などは入国後に行えばよくなったのである。
通常、書類の体裁が整っていれば審査は通る。経営・管理以外の資格で移住する外国人も急増しており、人員が限られるなか、厳格に審査する余裕はなく、審査を行う出入国在留管理局の体制は十分とは言えない状況だ。
これらの批判を受け2025年6月、出入国在留管理庁は、経営・管理ビザの取得について、500万円以上の金額要件を引き上げる検討に入ったが、具体的な金額要件はこれから決まる。
■社会保険料の滞納問題
永住資格を持つ外国人の、社会保険料の滞納も近年クローズアップされつつある問題となっている。2024年12月、日本保守党の竹上裕子衆院議員は、「外国人の国民健康保険料等の支払状況の実態調査及び外国人の医療保険制度を別立てにすることに関する質問主意書」を提出した。
滞納問題は国民健康保険ばかりではない。竹上議員はまた、2025年4月、「在留外国人の国民年金保険料の納付率がわずか43.4%であることに関する質問主意書」を提出した。
日本年金機構が2024年12月の社会保障審議会において、2023年度の国民年金の全体納付率が83.1%だったのに対し、外国人の納付率が43.4%だったと明らかにしたことを受けての質問である。
2025年5月19日、日本維新の会の柳ヶ瀬裕文参議院議員は参議院予算委員会で、外国人の国民健康保険の納付率が日本人に比べて低いことに関し、全国の外国人による国民健康保険未納額が年間計4000億円にのぼるとの試算を示し、政府を追及。厚生労働省は、「システム改修が必要になるが、全国的な実態調査の実施に向けて調整を進める」と述べるに留まった。
要件見直しなどについては「社会連帯と相互扶助の理念に基づき国籍を問わず等しく保障を及ぼすべきだという、わが国の保険制度の基本的な考え方にのっとったものであり、慎重な検討が必要だ」と回答した。
■国民健康保険を払わない外国人に寛容な日本
外国人による国民健康保険未納額は、自治体が一般会計から穴埋めしている。国民の納めた税金が、外国人未納保険料の穴埋めに使われ、外国人の国民健康保険ただ乗りをゆるし、自治体財政を圧迫している。
竹上議員の質問主意書は、滞納している外国人が生活保護を受けることの是非にも触れている。政府の答弁は、次のようなものだった。
「日本年金機構から『低い水準にとどまっていると考えている』との発言があり、政府としても同様に考えている」
「日本語による意思疎通が困難で制度についての理解が十分でなく、保険料を納付する義務が認識されていない」
「日本年金機構に対し必要な指導を行っていく」
外国人の年金制度を日本人とは別立てにすべきであるという竹上議員の指摘については、「年金制度は社会連帯と相互扶助の理念に基づき、国籍のいかんを問わず等しく保障を及ぼすべき」「新たな年金制度を創設すべきとは考えていない」と回答した。
永住資格を持つ外国人が生活に困窮した場合、日本人と同様に生活保護法の適用対象となるかが争われた訴訟の上告審で、2014年、最高裁第二小法廷は、同法が適用対象と定めた「国民」に永住外国人は含まれないと初めて判決した。
このように、実質的な移民政策を進める政府は、国民健康保険などを払わない外国人に対してきわめて寛容である。
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平井 宏治(ひらい・こうじ)
経済安全保障アナリスト
1958年神奈川県生まれ。
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(経済安全保障アナリスト 平井 宏治)