※本稿は、マーク・ザオ・サンダーズ著、池村千秋訳『世界のエリートが実践している超生産的時間術 「タイムボクシング」で時間あたりの成果を倍増させる』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■時間の使い方を、毎時間ごとに最適化する
タイムボクシングは、ほかの似たような呼び名をもつタイムマネジメントの方法論と混同されることが多い。タイムブロッキング、スケジューリング、デイリー・プランニング、シングル・タスキング、カレンダー・マネジメント、タイムテーブリングといった方法論としっかり区別されていないケースがしばしばある。
しかし、タイムボクシングをテーマにする内容である以上、定義がまちまちだったり、揺れ動いていたり、ほかの方法論との違いが不明確だったりすることをよしとするわけにはいかない。このように定義が併存している状況は好ましくないし、これらのひとつひとつの定義も有益なものとは言えない。本記事では、タイムボクシングを以下のような方法論および思考様式と定義したい。
・1日の活動が始まって集中を妨げられる前に、その日にすべきことを決める。
・ひとつひとつの課題に取り組む時間をスケジュール表に指定する。
・その課題をいつ始めて、いつ終わりにするかも明記する。
・その際、ひとつの時間帯にはひとつの活動だけをおこなうものとする。
・そして、個々の課題では、完璧を目指すのではなく、許容できるレベルに到達することを目指す
この定義には、タイムボクシングのとくに重要な要素が含まれている。
また、この定義では、タイムボックスの設定は、それに適した条件が整っているときに限っておこなうべきだという重要な考え方も強調されている。
■ToDoリストに時間の概念を追加する
定義とは少し意味合いが違うかもしれないが、タイムボクシングは、「やるべきことリスト」とスケジュール表を一体化させるアプローチと位置づけることもできる。「やるべきことリスト」は、なにをすべきかを教えてくれる。
一方、スケジュール表は、それをいつ実行すべきかを教えてくれる。この2つを組み合わせれば、どちらか片方だけの場合とは比べ物にならないくらい、実際の行動につながりやすい。
また、タイムボクシングとタイムブロッキングをしっかり区別することも重要だ。タイムブロッキングとは、あるものごとをおこなうための時間をあらかじめ確保することを言う。
それに対し、タイムボクシングは、タイムブロッキングをおこなったうえで、その課題を所定の時間に――タイムボックスの枠内で――実行すると誓うことと言えるだろう。タイムブロッキングは、ある課題に集中するための手立てであり、タイムボクシングは、それに加えて具体的な結果を出すことを目指す方法論なのである。
■タイムボクシングは何がすごいのか
まず、タイムボクシングは論理的なアプローチと言える。人生でとくに重要な要素を筋道立てて見極め、それらの要素の優先順位を判断し、それぞれに適切な度合いの関心を注ぐ。
それを通じて、一定のルールに基づき、自分の活動と時間の使い方を、毎日、そして毎時間ごとに最適化する。すでに実践している人たちに言わせれば、これを実践しない人がいることが理解できないくらいだ。
タイムボクシングは自然な方法論でもある。それは、私たちがすでに実践していることの延長線上にあるのだ。私たちが仕事をしている時間の半分くらい、そして余暇の時間の一部は、いつ始まり、いつ終わるかがあらかじめ決められている活動で占められている。
仕事では、会議や通勤、同僚との共同作業など、余暇では、運転免許の講習、映画館での映画鑑賞、マッサージ、レストランでの食事などがそれに該当する。たとえば、1日の仕事時間のおよそ4時間と余暇時間の2時間、つまり合計6時間がすでに、前もって決まっている予定で埋まっていても不思議ではない。タイムボクシングは、そうした時間を増やしていくだけだ。その意味で、きわめて自然なアプローチに感じられる。
■目新しい手法ではないからこそ価値がある
タイムボクシングを導入する場合は、残りの時間――眠っている時間を除けば、1日におよそ10時間くらいだろう――に目を向け、その時間の一部をもっとうまく活用しようと努めることになる。ゼロから出発するのではなく、タイムボクシングの対象とする時間を6時間から8時間、10時間、12時間と増やしていくと考えれば、それほど絶望的な難題には感じられないだろう。
あなたはこれまでの人生ですでにタイムボクシングを実践しているので、既存のシステムとプロセスを活用することができる。
■タイムボクシングは大きく分けて2種類
タイムボクシングは実際の行動につながる方法論でもある。スケジュール表に新しい項目を記入し、その活動に費やす時間を決める。これだけでいい。最も有効な方法論をひとつ選び、その方法論にだけ集中し、その世界にどっぷり身を置く。そうやって、できるだけ実践を通じて学んでいく。それを通じて、このアプローチを習得し、血肉化することが狙いだ。
定義より一歩踏み込んだ基本中の基本とも言うべき情報を以下に記す。明日から、いや今日すぐに試してもらうためだ。具体的な方法論の面では、タイムボクシングは2種類の活動によって構成される。
1.計画する(1日の前に)
慌ただしい1日が始まって気が散り、判断力が低下する前に、ある程度の時間(15分もしくは30分)を確保し、最も重要な課題、最も必要性の高い課題がなにかを判断する。
このように1日の計画を立てるための時間を毎日あらかじめ決めて、スケジュール表に記しておく。できれば、デジタル・カレンダーを用いることが望ましい。これを朝の最初の予定にしよう(あるいは、前の日の最後の予定にしてもいい)。これを毎日繰り返し、ぜったいに忘れないようにする。
■最重要課題にかかる所要時間を見積もる
「やるべきことリスト」を見直す。リストをつくっていない人は、つくるようにしよう。「やるべきことリスト」は、タイムボクシングに欠かせない素材だ。リストの質が高ければ高いほど、タイムボクシングがうまくいく。
「やるべきことリスト」のなかから最も重要で最も緊急性の高い項目をいくつか選ぶ。
そして、それをスケジュール表に記入する。その際、それぞれの課題にどれくらい時間がかかりそうかをできるだけ正確に見積もる。ただし、課題の順位づけは気にしなくていい。ただスケジュールに加えておけばいい。
とりあえずやってみて、素早く失敗して、そこから素早く学ぶ。課題を完了するまでに要する時間を少なく見積もりすぎたり、多く見積もりすぎたりするのは、よくあることだ。
■「朝の自分」が立てた計画は変更しない
2.実行する(1日の間に)
予定の時間に課題を開始する。
気が散る原因になるものを周囲から取り除く。飛び抜けて最も危険なのは、スマートフォンだ。
計画どおりに行動する。途中で考えを変えて計画を変更してはならない。よほどの緊急事態を別にすれば、冷静で頭脳明晰なときに前もって立てた計画は、慌ただしい1日の間に状況に反応して考えたことより優れている。
予定の時間に終わりにする。それまでに課題を完了しよう。「完璧」を追求するあまり、「よい」成果すら挙げられなくなることは、避けなくてはならない。実際には、ほとんどの場合、「よい」のレベルで十分だ。
ひとつのタイムボックスに割り振った課題を完了させるたびに、それをほかの人たちに報告する。そうすることで、課題を完了させなくてはならない、しかも、ほかの人たちに報告できるレベルの合格点の仕上がりにしなくてはならない、という好ましいプレッシャーが生まれる。この点の重要性は、次第に理解できるようになるだろう。
タイムボクシングを導入しても、実際に課題に取り組む際に気が散って脱線してしまうことはある。その点は想定しておこう。そのようなことが起きた場合も、スケジュール表に、つまりタイムボックスに戻り、予定していた課題を再開しよう。そうやって経験を積むうちに、気が散ることが少なくなり、もし気が散ってもすぐに本題に戻れるようになるだろう。
■まずは1日おきから取り入れてみよう
タイムボクシングは、実践しながら実験を重ねるアプローチに打ってつけの題材だ。毎朝、目が覚めるたびに、それまでに学んだことを試し、少し修正を加え、実験し、問いを発し、その方法論を血肉化していくための新しい機会が得られる。そのせっかくの機会を無駄にする手はない。
最初のうちは、たとえば1日おきに実践してみてもいいだろう(毎週の月曜・水曜・金曜とか、火曜と木曜といった具合に)。このようなやり方をすれば、タイムボクシングを実践する人生と、実践しない人生を対比できる。おそらく早々に、すべての曜日にこのアプローチを実践したいという衝動を感じるだろう。
ここまでの記述により、タイムボクシングとはどのようなものか、どのような特徴があるのかを理解できたことだろう。このアプローチは、よくあるような生産性向上のコツの類いとは性格が異なる。というより、優れたタイムマネジメント法のひとつというレベルにもとどまらない。タイムボクシングは、史上最強のタイムマネジメント法であり、私たちが人生を生きるうえで最善の方法と言っても過言ではない。
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マーク・ザオ・サンダーズ
ビジネスコンサルタント
ラーニング・テクノロジー企業filtered.comのCEO兼共同設立者。アルゴリズム、学習、生産性について定期的に執筆しており、その記事はScientific American、Harvard Business Review、MITのSloan Management ReviewやFilteredのブログで公開。これまでにタイムボックスを提唱するビジネス記事を複数執筆しており、2018年に執筆したハーバード・ビジネス・レビューの記事はTikTokで話題に。
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(ビジネスコンサルタント マーク・ザオ・サンダーズ)