メンタル不調を感じたらどうすればいいのか。精神科医・高橋倫宗さんと、臨床心理士・鬼頭智美さんは「きちんと栄養をとることが重要だ。
実は食べ物だけではなく、飲み物でも“うつ病になりにくい”と科学的に証明されているものがある」という――。
※本稿は、高橋倫宗、鬼頭智美著『うつのケツロン』(ライフサイエンス出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■心の健康のために欠かせない“栄養素”
Q1 うつ病予防に良い食べ物を教えてください。
A 野菜を中心にした栄養バランスの良い食事がうつ病予防に大切です。とくに一汁三菜の和定食スタイルがお勧めです。
野菜がメンタルヘルスに良い影響を与えることは、様々な研究から認められています。
研究では「野菜不足になるととくにうつ病になりやすい」ことも証明されています。これは、野菜に含まれている葉酸・ビタミンD・鉄・亜鉛などの欠乏がうつ病を引き起こすことを示しており、野菜を継続的に食べることでうつ病のリスクが低下すると言えるでしょう。
これらの栄養素は、脳の働きを維持するために重要な役割を果たしています。1日に必要な野菜の量は350g以上と言われていますが、1日3食であれば、1食につき生野菜ならば両手に乗る程度、ゆで野菜ならば片手に乗る程度を目安にしてください。
野菜に含まれる食物繊維は腸内環境を整える働きもあります。
脳と腸は「脳腸相関」と呼ばれるように密接なつながりがあり、腸内環境が良くなると脳の活動も安定します。
食物繊維の働きで毎日規則的な便通が生じ、これが脳にも良い影響を与え、最終的にメンタルヘルスを良い状態に保ちます。
食物繊維が多く含まれる食べ物には野菜以外に、穀類、豆類、きのこ、海藻などがあります。納豆や漬物などの発酵食品にも腸内環境を整える働きがあるので積極的に摂るとよいでしょう。
■「和定食スタイル」が理想的
うつ病予防に良い食べ物を色々と紹介しましたが、何も無理に食生活を変える必要はありません。
なぜなら、私たちはこれらが豊富に含まれる日本食を日頃から食べているからです。日本食は理想的なうつ病予防の食事と言えるでしょう。
また、日本食と洋食(肉や卵などの動物食とパンが中心)を比べた研究によると、「日本食中心のほうがうつ病の症状が軽減される」ことが証明されています。
実際に献立を立てる時は、一汁三菜(主食のお米+主菜+副菜+汁物)という伝統的な和定食のスタイルが良いでしょう。ラーメン1品だけ、丼物1品だけで済ませるという食生活は良くありません。
過去に、セロトニンの材料となるトリプトファンを含む食べ物(バナナや豆類など)を多く摂ることが、うつ病予防に推奨されたことがありました。しかし、最近の研究では、これは間違いであり、トリプトファンは意識して摂らなくても普段の食生活で十分に摂取できることが分かってきています。
ここまでうつ病予防に良い食べ物について見てきました。
これとは反対にうつ病予防に良くない食べ物はあるのでしょうか。これについて解説したいと思います。
■脳の血管にダメージを与える食生活
Q2 うつ病に悪い食べ物を教えてください。
A 炭水化物に偏った食生活でカロリーの摂り過ぎにならないようにしましょう。
これを食べたらうつ病に悪いという特別な食べ物はありません。
しかし、炭水化物に偏った食生活によるカロリーの摂り過ぎには気をつけましょう。肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病の原因となるだけでなく、血液の中の過剰な糖分や脂質は、脳の神経や血管に少しずつダメージを与え続けます。
これがうつ病のリスクを上げると考えられています。
うつ病の症状で食欲は低下しますが、これは急性期に見られるものです。発病前の慢性的なストレスを受けている状態では、ストレスホルモンの分泌で空腹感が増して過食になります。
また、うつ病の回復期や安定期は抗うつ薬の効果で食欲は維持されるので、食欲はありながらも食生活に気を配ることができません。
ですから、その場の空腹を満たすために、おにぎりやカップラーメンなどの単食で食事を済ましたり、スイーツやスナック菓子のストレス食い、といったことが増えてしまったりすることがあります。
すると、炭水化物に偏った食生活になり、カロリー過多になってしまいがちです。
うつ病は食欲が低下してカロリー不足が起こるイメージですが、必ずしもそうとは限らないのです。実際の調査でも、「うつ病の人は血液中の脂質が高い傾向である」ことが証明されています。
また、冒頭に説明したように、腸内環境の悪化はメンタルヘルスに悪い影響があります。食物繊維がほとんど含まれていない食品(肉や卵などの動物性食品、ラーメンやパスタなどの麺類など)に偏った食生活をしていると、腸内環境の悪化を招くことがあります。
うつ病に悪い食べ物について見てきました。次はうつ病予防に良い飲み物について解説したいと思います。
■セロトニン生成に欠かせない“飲み物”
Q3 うつ病予防に良い飲み物を教えてください。
A 毎日コップ2杯以上の水を飲みましょう。緑茶やコーヒーを飲む習慣もうつ病予防に効果があります。
最近では日常生活での水分補給の大切さが知られるようになりました。
実は脱水症状は夏の暑い時期だけに起こるものではありません。
睡眠中や入浴中にも注意が必要です。
そうした背景を受け、厚生労働省では、「熱中症、脳梗塞、心筋梗塞の予防のために、こまめな水分補給」を推奨しています。健康維持のためにも、朝と入浴後にコップ1杯ずつ、1日合計2杯以上の飲用水を飲む習慣を持つようにしましょう。
水は脳の働きにも重要な役割を果たしており、セロトニン生成にも関わっています。ですから、1日コップ2杯以上の水を飲むことはうつ病予防にも有効です。
調査では、「1日にほとんど水を飲まない人、1~2杯の水を飲む人、3杯以上の水を飲む人を比較したところ、1日の水分摂取が多いほどうつ病のリスクが下がる」と報告(※)されています。

※筆者註:毎日の水分摂取量に応じた、自己申告によるうつ病、自殺念慮、自殺計画、自殺未遂の有病率。

Health 2024; 46: e2024019. Lee JW, et al. Association of plain water intake with self-reported depression and suicidality among Korean adolescents.
■コーヒーは1日2杯が効果的
Q1ではうつ病予防に和食が良いことを紹介しましたが、和食に添えられる緑茶にも同様の効果があります。カフェイン、カテキン、テアニンという成分がうつ病を抑える働きがあると考えられています。
調査では、「週に4杯以上の緑茶を飲むことで効果をもたらす」ことが分かっています。(※)
※筆者註:古賀賀恵、他「緑茶,コーヒーを飲む習慣と大うつ病との関連」(New Diet Therapy 2013; 29: 31-38)
また、コーヒーにもうつ病の予防効果があり、コーヒーを飲む習慣のある人ほどうつ病になりにくいことが調査で分かっています。
とくに「1日400ml(カップ2杯)のコーヒーを摂ると最も効果がある」と言われ、コーヒーに含まれるカフェインがうつ病に効果があると考えられています。


ただし、いくら緑茶やコーヒーが良いといっても、カフェインには覚醒作用や利尿作用があるので、夜間に飲むと睡眠に支障が出ることがあります。夜遅い時間帯の摂取は控えましょう。

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高橋 倫宗(たかはし・のりむね)

精神科医

東京慈恵会医科大学卒業。医学博士・精神科専門医・高橋医院院長。個人や企業に心理カウンセリングやメンタルヘルス対策を提供するミーデン株式会社顧問。

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鬼頭 智美(きとう・ともみ)

臨床心理士

昭和女子大学大学院卒業。臨床心理士・公認心理師。個人や企業に心理カウンセリングやメンタルヘルス対策を提供する、ミーデン株式会社統括心理士。

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(精神科医 高橋 倫宗、臨床心理士 鬼頭 智美)
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