※本稿は、岡田隆『筋トレ効果を最大化するタンパク質戦略 いつ、何で、どう摂るか』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
■「女性向けプロテイン」は女性に向いているのか
いまやプロテインは「トレーニングしている人が飲むもの」という時代ではない。ドラッグストアや通販サイトを見渡せば、「ジュニア用」「女性向け」「ダイエットサポート」「シニア向け」など、ターゲットを明確に打ち出した商品がずらりと並んでいる。
一見すると、“自分に合ったプロテイン”が簡単に見つかりそうに感じるだろう。だが、ここで一度立ち止まって考えてほしい。あなたが本当に摂りたいのは「ラベルの安心感」か? それとも「筋肉の材料としてのタンパク質」か?
まずは、それぞれの目的別プロテインが、どんな成分を含んでいるかをざっくり整理しておこう。
「ジュニア用」であれば、骨の成長をサポートするカルシウム、カルシウムの働きを調整するマグネシウム、骨形成に欠かせないビタミンD、さらには成長に必須の亜鉛などが含まれていることが多い。成長期の栄養強化に向けた工夫だ。「シニア向け」になると、やはり骨密度や健康維持を意識したカルシウムやビタミンDが主力。
「女性向け」には、女性ホルモン様の働きを有するイソフラボンを打ち出すためにソイプロテインを用い、さらに美容を想起させるビタミン、ミネラル、コラーゲンなどの“+α”が配合されていることが多い。そして、ダイエットサポート系でも植物性で低カロリーなソイプロテインが採用されているケースが多い。
これらは、いわばメーカーの「配慮」や「工夫」の結果だ。もちろん悪いことではない。むしろ、食事で摂りづらい栄養素を補えるという点ではありがたい。ただし、大事なのは“その商品が、自分の目的に本当に合っているのか”を見極める目を持つことだ。
■筋トレ目的なら普通のプロテインで十分
たとえば、ジュニア用だからといって、自分の子どもが必ずその内容成分を補わなくてはならないわけではない。シニア向けプロテインだからといって、高齢者にとってそれが唯一最適な選択肢とも限らない。
そして、なんと言っても、これらの「ターゲット別プロテイン」は、特定の栄養素を追加することで“主成分であるタンパク質の割合が下がっている”可能性が高いことを理解すべきだ。
本来、プロテインというのは「タンパク質を効率よく摂るためのサプリメント」だ。それなのに、美容成分や骨ケア成分を加えることで、肝心のタンパク質量が減ってしまっているとしたら、それは本末転倒と言うほかない。たしかに、それらの添加栄養素が“悪いもの”であるわけではない。
しかし、プロテイン摂取の目的はあくまでも筋肉をつける・維持することであり、最優先すべきは“タンパク質の質と量の確保”だ。タンパク質の含有量が低いプロテインでは、筋肉の材料も減るのは当然だし、効果も出にくくなる。
■「なんのために飲むのか」を意識するべき
そこからさらに、「乳糖に弱いからホエイはWPI(ホエイプロテイン・アイソレート。通常のホエイプロテインからさらに不要な成分を取り除き、タンパク質純度を高めたもの)にすべきか?」、あるいはもっと前段である「自分は動物性が身体に合うのか?」「植物性がいいのか?」といった自分の体質やライフスタイルに応じて選べばいい。
筋肉を育てたい人はホエイプロテイン。消化・吸収の速さを活かして、トレーニング前後に補給するのが王道。乳糖不耐症でお腹がゴロゴロする人はWPIを、牛乳アレルギーならWPH(ホエイプロテインに酵素を作用させ、タンパク質をペプチド状態にまで分解したもの)を選べば問題は少なくなる。
「動物性は避けたい」「大豆タンパクが身体に合っている」と感じるなら、ソイプロテインでOK。吸収がゆっくりだから、間食や寝る前の補給にも向いている。ただし、どれを選ぶにせよ、“プロテインはタンパク質を摂るための補助食品である”という原点は、絶対に忘れてはいけない。
見た目やターゲット表示に惑わされず、タンパク質量は十分か? 自分の目的や体質に合っているか? その視点を持てるかどうかで、成果に差が出る。結局のところ、筋肉を合成するのは、あなたの身体の中の筋細胞。
■「美味しく飲み続けられるか」が重要
販売されているプロテインパウダーの用法を読むと、プロテインの飲み方について、たいてい200㎖の水に対して1回分(30g)の分量を溶かすことを基本としている。ただし、それはあくまで目安にすぎず、正解は一つではないだろう。
さっぱり飲みたければ水を多めに、濃厚な味を好むなら水を少なめにするなど、自分の嗜好や体調、トレーニングのタイミングに合わせて調整すればよい。味の濃淡で嘆く人はぜひ試してほしい。
とくに夏場などは、タンパク質量は足りたとしても、水分量としては足りないかもしれない。一方、水様便(下痢)になってしまうほど水分を多く摂るのも、食べた物の吸収を阻害する可能性や、腸内環境悪化の原因になる可能性もあるだろう。ちなみに、私はやや少なめの水で割って飲むと調子が良い。
また、トレーニング直後に飲む場合は、プロテイン摂取後の食欲にも注目すべきだ。大量の水分は一時的に食欲を低減させる可能性があるし、一方、濃すぎても同様に作用することもある。トレーニング後の食欲を減退させるのは、適切な栄養学的リカバリーを妨げ、筋肉の成長を鈍化させるだけでなく、不健康であるし、何より食の楽しみがなくなり、人生が味気なくなる。
トレーニング後のご飯ほど、おいしく、充実感があるものはそうないだろう。
■水かフルーツジュースで割るのがベスト
「(プロテインは)牛乳で割って飲むイメージ」――その気持ちはわかる。だが、人類の叡智(えいち)によって牛乳から抽出したホエイプロテインを、もう一度、牛乳で割り戻す行為だと認識してほしい。
牛乳由来の製品であるがゆえ、確かに牛乳にマッチする。しかし、これは吸収速度をわざわざ遅くする回り道だ。古代の民が、反芻(はんすう)動物の胃袋でつくった入れ物に入れた乳が凝固し、チーズが誕生したという逸話を再現したいわけではあるまい。
牛乳に含まれる脂質とカゼインは胃内停滞時間を延ばすため、トレーニング直後の迅速なリカバリーを狙うには不向きである。また、いまどきのプロテインは水でも十分おいしい。各メーカーが改良を重ねている。
だが、「人工甘味料が気になる」「よりナチュラルにいきたい」という人もいるだろう。
果糖は肝グリコーゲンを、ブドウ糖は筋グリコーゲンを素早く補給し、同時にインスリンの分泌を促してアミノ酸を筋細胞へ送り込む(インスリンは糖だけでなく、アミノ酸の骨格筋への取り込みを促進させる)。しかもジュース1杯の糖質量など、トレーニーのエネルギー消費を考えれば“太る心配”などいらない。
むしろ、ビタミンやミネラルなどの栄養素を追加チャージできる点で一石二鳥だ。まとめると――迅速に吸収したいなら水、または100%ジュース。風味を優先して牛乳を使うのは“まったり”過ごす就寝前や間食目的にとどめ、トレ後のゴールデンタイムには避けるのが鉄則である。
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岡田 隆(おかだ・たかし)
日本体育大学 体育学部教授
1980年生まれ。都立西高校、日本体育大学卒業、同大学院体育科学研究科修了。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。トレーニング科学、スポーツ医学を専門的に学び、身体作りのスペシャリストとして活動。究極の実践研究としてボディビル競技を続けており、2023年にはWNBF世界選手権プロマスターズ部門で優勝を果たす。指導者としては、2012年から日本オリンピック委員会強化スタッフ(柔道)、柔道全日本男子チーム体力強化部門長を務め、2016年リオデジャネイロオリンピックでは、史上初となる柔道男子全7階級メダル制覇、2021年東京オリンピックでは史上最多5個の金メダル獲得などに貢献。
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(日本体育大学 体育学部教授 岡田 隆)