イクメンの夫は不倫をしないのか。離婚や男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「夫を積極的に育児に参加させて“イクメン”にすることで、夫が不倫をすることを防ごうとする妻がいる。
しかし、それは効果がないことも多く、子どもがかわいいからといって不倫を思いとどまるとは限らない」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。
■モテる夫が「不倫するのでは」と不安に
A子さん(仮名)は、34歳の会社員です。知人の紹介で出会った夫は、「とにかくモテる」と評判の人でした。知人に聞いても、彼女が途切れたことがないそうです。
整った顔立ちでとても優しい夫に夢中になったA子さんは、猛アプローチをかけて、交際、そして結婚にこぎつけました。キャリア志向のA子さんは、結婚後も精力的に仕事をつづけました。
しかし、A子さんにはどうしても消えない不安がありました。「夫はモテるから、いつかきっと不倫するに違いない」という思いがずっと頭の中にあったのです。
夫の不倫が心配なA子さんは、すぐに子どもがほしいと提案して、長女を妊娠、出産しました。
それでもやはり不安は消えません。そこでA子さんは、夫を積極的に育児に参加させることにしたのです。

■“イクメン化”で不倫を防ぎたい
「今の時代は男性も育児をするべき」と夫を強く説得して、平日は早く帰って保育園の送り迎えをしてもらい、休日の子どもの相手なども、ほとんど夫に任せました。
A子さんが仕事で忙しい日は、夫が有休を取って子どもの面倒を見るようにし、なるべく夫が自由な時間を持たないようにしました。そのため、A子さん自身は仕事をセーブしないで済みました。
そして知人や同僚には「イクメンの夫」をアピール。SNSでも顔は出さずに夫や長女との外食や旅行などを載せて、「子煩悩な人ですね」「幸せそうなご夫婦」というコメントをたくさんもらっていました。
夫も楽しそうに子どもの面倒を見てかわいがっていたため、ようやくA子さんも「これなら安心かもしれない」と思うようになっていきました。
ところが、長女が3歳になった頃のある日のこと。
A子さんは、夫のスマホに、女性らしき名前からのLINEの通知が届いているのを発見したのです。
■子連れで不倫相手とデートしていた
嫌な予感がしたA子さんは、探偵に調査を依頼することにしました。
すると、なんと夫は、娘を保育園に送った足で女性と落ち合ってラブホテルに入り、ホテルから出た後で保育園に迎えに行っていたのです。
さらに、仕事のはずの日に、残りのわずかな有休を取ったのか、子どもを連れたまま同じ女性とデートをしていました。
報告書のページをめくると、2人で子どもと手をつないでショッピングモールに行き、まるで本当の家族のように食事をしたり、遊んだりしている写真が何枚も何枚も出てきました。

長女に聞いてみると、「パパのお友達と一緒に出かけたことがある」と言われました。
子どもの世話をさせていたのにこんなにも堂々と不倫をされてしまった……。A子さんはそのことに大きなショックを受けました。
■夫は許せないが1人で子育てはできない
しかし、夫に子どもの世話をさせないわけにはいきません。A子さんには仕事があるからです。家を出て1人で子育てすることもできません。
どうにも身動きが取れないことに気づいたA子さんは、私の事務所に相談にいらっしゃいました。
A子さんは、「夫を絶対に許せません。でも子どもは夫になついているし、育児を夫にかなり分担してもらってきたので、1人で育てる自信がありません」と涙ながらに話しました。
A子さんと夫のLINEを見ると、A子さんからは「早く帰ってきて」「今どこにいるの」といった連絡が多く、とにかく行動を監視したり詮索したりしているという印象です。夫は当たり障りのない返事を繰り返し、不倫相手とのデートの合間も返信が途切れないようにしていました。
■子育てできる環境を優先して出した答え
もちろん慰謝料や養育費を請求することは可能ですが、それで解決する問題ではありません。

A子さんが求めているのは、「育児の人手」であって、相場通りの慰謝料や養育費をもらったとしても、離婚してしまうと育児自体ができなくなるからです。
最初は「夫を許せない。でも……」と思い詰めていたA子さんと、いろいろな手段を模索しました。その結果、最終的には「夫の家の近くに子どもと住んで、行き来できる形を取る」という結論に至りました。
夫婦関係は修復困難でも、子育てを継続できる環境を優先したのです。
A子さんは複雑な気持ちを抱えつつ、仕事をしながら夫とともに育児をしています。
■「不倫防止でイクメン化」は効果がない
A子さんのように、モテる夫と結婚した妻が、不倫防止のために夫に積極的に育児をさせるケースは少なくありません。
「子どもへの愛情を持たせれば不倫しなくなるだろう」という気持ちの面と、「子どもの世話で自由時間がなくなれば、不倫する余裕がなくなるだろう」という物理的な面と、両方から、夫の不倫を防ごうという意図があるようです。
また、知人との会話やSNSで、夫のイクメンぶりをアピールして、家族円満を強調するといったこともよくあります。そうすることによって、夫に女性が近づかなくなるだろうと考えるようです。
しかし現実はその逆です。
まず、不倫をする夫は、子どもがかわいくないから不倫するのではなく、妻との関係がよくないから不倫をしたくなっていることが多いのです。
そして、子煩悩な人は人当たりがよいことも多いので、子どもができてからもモテることには変わりありません。
そうして、何とか時間を作って不倫をするようになるのです。今回の夫のように、保育園の送り迎えの合間や半休を利用して、子どもを連れたままデートに行くケースも実際に複数見たことがあります。
■イクメンと不倫は両立する
妻や子にとっても、不倫相手にとっても、非常に酷な不倫デートですが、夫自身はさほど気にしないようです。このことからも、夫は不倫を「子どもへの裏切り」とはあまり思っていないことがわかります。
つまり、不倫をするかどうかは夫婦関係の問題であり、子どもがかわいいからといって不倫を思いとどまるとは限らないのです。
イクメンとして知られている男性有名人が不倫をしたというニュースを、目にすることがあると思います。
その際、「イクメンで子煩悩そうなあの人が不倫するなんて」という反応をよく見かけますが、イクメンと不倫は両立しうるもので、むしろ不倫を恐れる妻にイクメンにされている場合もあります。
不倫を防ぐために夫に育児を押し付けることは、根本的な解決にはなりません。むしろ、夫婦関係がぎくしゃくしてしまい、夫が「やらされている」「束縛されている」と感じ、不倫の可能性を高める結果にもなりかねません。
不倫防止の鍵は、夫の時間を奪うことではなく、夫婦の信頼関係をどう築くかにあります。もし不倫が不安ならば、夫婦間でコミュニケーションを取ることが大切です。
夫に育児を負担させるのは迂遠な方法といえるでしょう。
「夫をイクメンにすれば安心」という思い込みは危険です。

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堀井 亜生(ほりい・あおい)

弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。

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(弁護士 堀井 亜生)
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