人とうまく話すにはどうすればいいのか。コミュニケーショントレーナーの司拓也さんは「『目を見て話すのが苦手』と悩みを抱えている人は多い。
そんな悩みに『眉間を見ればいい』というアドバイスが定番になっているが、逆効果だ」という――。
※本稿は、司拓也『信頼される人の話し方 軽く見られる人の話し方』(KADOKAWA)の一部を抜粋・再編集したものです。
■話すときに「相手の眉間」を見るのはダメ
人前で頭が真っ白になる。人と話すときの不安感や違和感が消えない。話が上滑りしてしまう。これらの悩みの根源は、多くの人が信じている「アイコンタクトの常識」にあります。
「眉間を見て話せばいい。相手から見て目が合っているように見える」という呪い。本やネットでよく見かけるこのアドバイスこそが悲劇の始まりです。
私たちは幼い頃から「目を見て話せ、しかしジロジロ見るな」という矛盾した命令(ダブルバインド)を刷り込まれてきました。結果、思考停止に陥り、安易な解決策として「眉間を見る」ことに飛びついてしまうのです。
たしかに相手から見ると目が合っているように見えるかもしれません。
しかし私は次の理由であえてこの説に反対します。
■目が合わないと感情が伝わらない
悲劇1 あなたは「感情のない人形」だと思われる
眉間を見ているあなたの瞳孔は、相手にピントが合っていません。相手からは、焦点の合わない「死んだ目」に見え、情熱も謝罪も心に響きません。「何を考えているか分からない不気味な人」という印象を与えてしまいます。
悲劇2 あなたは相手の「本音」を永遠に知ることができない
感情が最も表れる「目」。興味があるときの輝きや、嘘をつくときの微細な動きなど、言葉以上に雄弁なサインを見逃してしまいます。相手の心の扉が開く瞬間を、自ら閉ざしているのです。
悲劇3 あなたはますます「自信を失う」
相手の感情を読み取れないため、あなたの話は独りよがりになります。当然、相手の反応は薄くなり、あなたは「自分は話が下手だ」「嫌われているんだ」と誤解し、自信喪失の悪循環に陥るのです。
■逃げの姿勢が信頼を無くす
今すぐ試してください。目の前にいる人(もしいなければ、いると想像して)の眉間をじっと見つめながら、「こんにちは」と挨拶してみてください。
どうですか? あなたの視界に映っているのは、豊かな表情を持つ「人間」ですか? 違いますよね。
感情も魂も感じられない、顔なし『のっぺらぼう』が見えませんか?
私たちは、のっぺらぼう相手に、心からの言葉を届けられるほど強くはありません。得体の知れない存在を前に、不安になるなという方が無理な話です。
「相手から見たら目が合っているように見える」というのは、所詮、あなたの“逃げ”でしかありません。その逃げの姿勢、不安は、空気のように相手に伝播します。あなたの信頼を静かに蝕んでいくのです。
■「左目の黒目の光」を見ればいい
では、一体どこを見ればいいのか。
相手の「左目」。その黒目の中に映る「光」を見てください。
試していただいた方からは、「先生、生まれて初めて、人の目を見て話せました……!」「あれほど過剰だった自意識が消えて、自然に話せるようになりました」「相手との間にあった壁が、一瞬で溶ける感覚でした」と声をいただきます。中には涙ぐみながら報告してくださる方もいらっしゃいます。
なぜ「左目」なのか?
私の仮説ですが、視覚情報は反対側の脳で処理されるため、相手の左目を見ることで、感情や感覚を司る「右脳」に直接アクセスできるからではないかと考えています。いわば、潜在意識のホットラインを開通させ、無言の信頼関係(ラポール)を築くスイッチとなるのです。

「ずっと左目を見続けるのは不自然では?」その通りです。実践してほしいのは「ガン見」ではありません。大切なのは、視線が迷子になった時に「戻る場所」を決めておくこと。私はこれを「視線の故郷(ふるさと)」と呼んでいます。
言葉を選ぶときにふと視線を外しても構いません。しかし、必ず「故郷」である相手の左目の黒目の中の光に帰ってくるのです。たったこれだけで、あなたの中に一本ブレない芯が通り、どっしりとした安心感が生まれます。
この「視線の故郷」という名のコンパスが、あなたに本当の自信と、相手の心を動かす繋がりをもたらしてくれるでしょう。
■鎖骨を上げるだけでよく響く声になる
もう1つ大事な所作があります。人は不安なとき、疲れているとき、自信がないときに、必ずと言っていいほど鎖骨が下がり、胸が閉じて首がすぼまっています。
私は信頼される人に見られたかったら「鎖骨を10センチ真上に引き上げるイメージ」で話して下さいと指導しています。
「姿勢がその人の印象を決める」と言われても、多くの人はどこをどう直せばいいのか分からないものです。
「猫背を直して背筋を伸ばしましょう」とアドバイスを受けた経験がある人は多いでしょう。
ですが、ここで一つ注意が必要です。この状態でいくら背筋だけを正そうとしても、根本的な改善にはなりません。普段から鎖骨が落ちている人が、無理やり背筋を伸ばそうとすると、背中を反らせることになります。その結果、腰に負担がかかり、長続きせずにまた元の猫背に戻ってしまうのです。
一つ試してほしいことがあります。まず普段通りに鎖骨を落としたまま「あー」と10秒ほど声を出してみてください。次に、鎖骨を今の位置から垂直に10センチほど高い位置に軽く引き上げて胸を開き、同じように声を出してみましょう。後者の方が楽に大きな声が出せるはずです。
喉がリラックスし、響きのある声になります。鎖骨を上げて胸を開くことで、身体が共鳴箱のように機能します。
■呼吸が自信を生み、信頼につながる
なぜ鎖骨を上げるだけで変化が生まれるのか。
それは、胸が開き肺にスペースができ、深い呼吸ができるからです。さらに、胸を開いて鎖骨を上げることで内臓の圧迫による不快感が軽減され、自然と気分も明るくなります。
身体全体に心地よさが広がるのを実感できるでしょう。声がよく響き、体もリラックス。安心感や自信も生まれやすくなります。
こうした変化は自信だけでなく、相手に与える印象にも影響します。自然と堂々とした雰囲気が伝わり、信頼感が生まれるのです。
つまり、信頼される話し方の第一歩は鎖骨から始まります。声や姿勢、安心感まで変わるのです。
■聞き手の印象を変える「話す前の1秒ルール」
最後に話し出す前のコツをお教えします。プレゼンやスピーチなど、人前で話す場面になると、緊張のあまりつい早口になったり、「早く終わらせたい」と焦る気持ちが出てしまったりすることがあります。
結果、多くの人がやってしまうのが「いきなり話し出してしまう」話し方です。

たとえば、壇上に上がった瞬間、マイクの前に立った瞬間、「えー、それでは、よろしくお願いします」と間髪容れずに言葉を発してしまう。一見スムーズに見えるかもしれませんが、実は“軽く見られる”話し方の典型です。
人は「余裕のある人」に安心感を抱き、「安心できる人」を信頼します。間を取らずにすぐに話し出す人は、「焦っている」「自信がなさそう」「余裕がない」といった印象を与えてしまい、この人大丈夫かな? と不信感を与えます。
壇上に上がってから、無言で客席を見渡す。マイクの前で、深呼吸してから目線を上げる。
このたった1秒の「沈黙」があるだけで、聞き手の印象はまったく変わります。この“何も話さない1秒間”が、話し手の存在感を強く印象づけるのです。
プロの演説家やプレゼンター、俳優やアナウンサーの多くが、話し始める前に“間”を取っています。これは「緊張している」からではなく、「聞き手の心をつかむ間」であり、「自分のペースをつくる間」なのです。
■沈黙が「この人デキる」と思わせる
この間には、3つの効果があります。
1「場の空気を変える集中効果」
話し手が一瞬言葉を発しないことで、場の空気が“静”になります。聴衆の注意が集まり「これから何が始まる?」と集中力が高まるのです。
2「呼吸&声整え効果」
話す前に息を整えることで、腹式の落ち着いた声が出せるようになります。
3「主導権を取り戻し効果」
場の空気に飲まれるのではなく、「今から自分が話す、この場をリードする」と、無意識に脳と身体を一致させる効果があります。
私は多くのクライアントに、この“1秒の間”を最初に練習してもらいます。最初は気まずい沈黙に感じるかもしれませんが、慣れてくるとこの1秒が“味方”になってくれることを実感します。「間を取らないと気持ち悪い」と言い出す方もいるほどです。
「話し方を変える」と聞くと、言葉選びや声の出し方ばかりに目が行きがちです。しかし、実はその前の「沈黙」のあり方が、話し手の印象を決定づけているのです。
挨拶やプレゼンの冒頭で、1秒だけ沈黙を取ってみる。ほんのわずかですが、この1秒が“あなたへの信頼”を静かに高めてくれるはずです。

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司 拓也(つかさ・たくや)

コミュニケーショントレーナー、「ボイス・オブ・フロンティア」代表

コミュニケーショントレーナー。声と話し方の学校「ボイス・オブ・フロンティア」代表。2万人以上のコミュニケーションの悩みを解決。「信頼される人になるには何が必要か?相手から軽んじられない人になるには?」を徹底的に研究。話し方、声の出し方、心の状態、印象の整え方を学び、「信頼とは、言葉・声・表情・メンタルが一致している状態である」と定義づけた。この“シンクロニシティ・プレゼンス(言葉・声・心が自然に一致し、信頼感を引き出す在り方)”をどうすればつくれるかを体系化し、同じような悩みを抱える人に伝える中で、グループレッスン、個人コンサル、企業研修で高い成果をあげる。著書16冊、累計20万部超。お問い合わせ tsukasamail1@gmail.com 著者Webサイト https://tsukasataku.com/

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(コミュニケーショントレーナー、「ボイス・オブ・フロンティア」代表 司 拓也)
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