■一人当たりGDP:米国は約1200万円、日本は500万円程度
米国の一人当たりGDPは8万ドル(約1200万円)を超えています。一方、日本は500万円程度です。GDPは給与の原泉で経済的豊かさの源ですから、その差は倍以上。
実際に所得で見ると、日本では年収1000万円を超える世帯をパワーカップルと呼んでおり、全世帯の12.3%ありますが、そのうち夫婦ともに1000万円を超えているのは11万世帯で全世帯数の1%未満です。一方の米国では、働く人一人当たりの平均収入でも1000万円を超えています。この格差は歴然としています。
そうした中、トランプ氏が大統領となってから他国のことなど一切気にせずアメリカファーストをなりふり構わず実行しています。それに対して日本は、このところ円建てでの名目GDPは600兆円を超える水準まで伸びているものの、ドル建てで考えれば、コロナ前の約5兆ドルから、4兆3000億ドル程度まで落ちており、1990年代とそれほど変わらない状況です。
先に説明したように、経済的豊かさの源泉でもある一人当たりのGDPでも、給与でも倍以上の開きが出ています。
そうした中、米国では金利の引き下げが迫っており景気を下支えすると考えられる一方、日本では政局が大きく動き、力強さに欠く経済も少なからず停滞を余儀なくされそうですが、こういう状況でも金利を上げる必要に迫られています。
■金利を下げる米国
9月16日、17日に米国の中央銀行(FRB)のFOMC(連邦公開市場委員会)が開かれます。
多くの市場関係者は、このFOMCで米国では利下げが行われると予想しています。私も高い確率でそうなると考えています。0.25%の利下げが予想されていますが、後で説明するように雇用の数字が予想以上に悪いため、一気に0.5%の可能性もないとは言えません。
トランプ大統領は、FRBのパウエル議長に「クビにする」とまで脅して利下げを迫り、また、利下げに慎重な理事の解任まで持ち出していますが、それとは関係なしに9月のFOMCでは利下げが高い確率で行われると考えられています。なぜか。
ひとつは、米国の雇用がかなり落ちていることです。米国の非農業部門の雇用増減数は世界中のエコノミストたちが注目する数字です。数カ月平均で15万人程度の雇用増があれば米国経済は巡航スピードだと考えられていますが、8月1日に発表になった7月の数字やその際改訂された5月、6月の数字が、大きくそれを割り込むものでした。
そして、9月5日に発表された8月の速報値も2万2000人と、とても巡航スピードと言える数字ではありません。しかも、改訂された6月の数字はマイナスとなり惨憺たる数字でした。失業率も4.3%と少し悪化傾向です。
そうした中、現状の政策金利(1日だけ銀行間で資金を貸し借りする金利)は4.25~4.5%と高く、また、インフレ率はトランプ関税の影響が今のところそれほど表れておらず、2%台後半で推移しています。
このことを考えれば、FRBは高い確率で9月16日からのFOMCで金利を下げると考えられます。それにより、短期の市中金利が下がるとともに、長期金利も下がりやすいと考えられます。
そうすると、長期金利に連動して動く、住宅ローンや自動車ローンの金利も下がります。現状少し停滞している住宅着工や自動車販売にも良い影響が出ると考えられます。
図表1にあるように、全米の住宅価格を表すケース・シラー住宅価格指数は、長期金利が高止まりしていることから、このところ伸び悩んでいます。また、自動車は、関税上昇前の駆け込み需要があり、今年の3月、4月は年率1700万台のペースでしたが、それも少し落ちています。住宅、自動車は米国では巨大産業ですから、その消費が増え、関連する企業の業績が上がれば、景気を下支えし、景気浮揚にプラスに働きます。
米国は先に見たように日本に比べて倍以上の経済的豊かさがありますが、その豊かさを維持するのです。少なくとも維持するように努力する「余地」があるのです。
一方、日本経済は、周回遅れをずっと続けており、景気の力も十分とは言えませんが、そんな中、利上げを迫られているのが現状です。
■金利引き上げに迫られる日銀
一方、日銀の政策決定会合は、米国のFOMCより少し遅れて今月18日、19日に開催されます。
そして、石破茂首相が9月7日に退陣を表明しました。次期自民党総裁の候補の一人と考えられる高市早苗氏は、以前は利上げに反対の立場をとっていました。一方、小泉進次郎氏は、日銀の立場を尊重するスタンスを示しています。
このことを考えると、この両者のどちらか、あるいは、他の人が自民党総裁になるにしても、日銀としては今後の不確実性を減らす意味でも、総裁選前に利上げをする可能性は十分にあると私は考えています。上げるとすると0.25%で、政策金利上限は0.75%となります。
日銀には利上げを行うべき理由がいくつかあります。
ひとつは、日本のインフレ率です。図表2にあるように、現状、代表的なインフレ指数である「生鮮除く総合」で、前年比で3%程度です。「新米なんか逆立ちしても買えない、ウチはこの先も古古古米の備蓄米です」といった嘆きもしばしば聞かれます。7月にインフレを加味した「実質賃金」が7カ月ぶりにプラスになりましたが、これは賞与の影響が大きく、秋以降には再びマイナスになる可能性は低くありません。6月までは6カ月連続で実質賃金はマイナスでした。
これでは、GDPの半分以上を支える家計の支出が伸びるはずがありません。インバウンドによって支えられてきた百貨店の売り上げもついに今年に入って前年比割れとなっています。
実質賃金をプラスにするには、名目賃金を上げるか、インフレを抑えるかのどちらかですが、日本では春闘などで春に賃上げが行われることが多いため、期中での賃上げは望み薄です。そうなれば、インフレを抑制するしかありません。
しかし、現状、日本の政策金利は0.5%で、これではインフレを抑えることはできません。来春にはさらに多くの商品の値上げが確実視されています。またガソリンの補助金やガソリン減税に関しては現在議論中ですが、一方ではその財源を他の税に求める動きも出ており、それでは家計は一向に豊かになりません。朝日新聞が8月24日付で報じた「ガソリン減税の代わりに新税、政府検討 車の利用者から徴収する案」といった記事に対してはネットで1万件以上の主に大反対の声がたくさん寄せられたという。国は早急な利上げによるインフレ抑制が必要です。
車に関しては、車両価格308万円の普通車を13年間使用した場合の自動車関連税負担総額は65万円超ですが、アメリカでは3万円弱で、日本の負担はアメリカの23.4倍(日本自動車工業会=JAMAの試算)とのことで、食費を中心とした物価高騰とともに、国民の怒りは限界に達しているのではないでしょうか。
■金融資産も目減りが続く
また、日本の個人金融資産は約2200兆円ありますが、そのうちの預貯金は約1000兆円です。
これらのことを考えれば、利上げは必要です。政府は1000兆円を超える国債を発行しており、利上げが財政を悪化させることを心配する人もいますが、国債の半分以上は日銀が保有し、日銀が利上げで得られる金利は、政府に還元させることもできます。
借り入れの多い企業が大変という声も聞きますが、長年低成長を続ける一つの大きな原因であるゾンビ企業が淘汰されやすくなるのはむしろ望ましいのではないかと私は考えます。
M&Aなどをうまく活用すれば、ゾンビ企業もより強い企業と一緒になれますし、そこで働いている人たちもより良い企業に転職できるのではないでしょか。
いずれにしても今週のFRBと日銀の動きに注目です。
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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)