不登校が長期化してしまうのはなぜなのか。神科医の村上伸治さんは「不登校になると子どもは学校に行けないことで自分に自信をなくし、親は焦ってプレッシャーをかけてしまう。
『不登校→親の焦りと子の自己否定→不登校悪化』という悪循環が回り始めると長期化してしまう」という――。
※本稿は、村上伸治『発達障害も愛着障害もこじらせない もつれをほどくアプローチ』(日本評論社)の一部を再編集したものです。
■不登校の激増
わが国では少子化が急速に進んでいるのに、不登校は増加の一途をたどっています。特にこの数年は激増と言えるほどに増えています(図表1)。令和2年からの3年間の増加は「コロナ禍」のせいだろうなどと言われていましたが、コロナ禍がほぼ終息した後の令和5年も大幅に増加しているのが現状です。その原因や対策について、多くの専門家がさまざまな意見を述べていますが、答えといえるものはまだありません。
■体の症状で始まる
不登校の多くは体の症状で始まります。朝起きると、お腹が痛い、吐き気がする、頭が痛いなどの症状です。「学校へは行きたいのだが、体調が悪いので行けない」ということで、病院で診てもらうことになります。
血圧が低いので起立性調節障害との診断を受け、血圧を上げる薬をもらっている子もいます。これらの診断は間違ってはいないのですが、体の治療で元気になり、登校できるようになった子を私はほとんど知りません。ただ、身体の治療で登校できるようになれば、精神科には来ないでしょうから、これは私が出会ってないだけなのかもしれません。

体の症状がしっかりあると、精神的な症状は目立ちません。ですが、精神面を尋ねていくと、精神的には元気ですという子はまずいません。週末や連休、夏休みなど、登校のプレッシャーが弱まる時期は体の症状も精神症状も軽くなります。これこそが、精神的な側面があることを意味しています。そして、紆余曲折を経て最終的に精神的に元気になった頃には、体の症状はなくなっているのが普通です。
■心身ともに悲鳴をあげている
精神的なストレスによって起こる症状には意味や機能があります。不登校に伴うさまざまな症状は、心身の不調なのですが、「本人を守るために出ている症状」という面もあります。登校することがあまりにも苦しく、登校を続けると心身が壊れてしまいそうなため、体の症状を繰り出すことで、本人を守ろうとしているわけです。
一方、精神的なしんどさがそのまま精神症状として現れ、全く元気がないとか、感情が不安定とかで、登校が無理だと周囲の大人が感じるようになれば、体の症状の役割は主役から脇役になっていきます。
そういう意味で、体の症状も精神症状も、本人が相当に追い詰められていることを示しています。体の症状は「体が悲鳴をあげている」ことを示しています。そして、精神症状は「心があげている悲鳴」そのものです。

■我慢強い子こそ不登校に…
不登校の子の親御さんが知りたいのは、学校に行けない理由であり、どうしたら登校できるのかです。ですが、それは本人もわからないことが多く、気持ちの苦しさを言葉で直接教えてくれることはなかなかありません。これが子どもの精神科では重要であり、厄介でもある点です。
「不登校の子は我慢が足りないのだ」という人が時にいますが、それは違います。不登校の子はみな「我慢強い子」です。我慢しない子、つまり文句言いの子であれば、気持ちを言葉にするのが比較的上手なので、限界に達するより前に文句を言い始めます。すると、親も問題に気づくし、いきなり不登校とはなりにくいです。
ですが、我慢強い子は何が苦しいのか分からぬままひたすら我慢を続けます。そして、限界を超えると体の症状や不登校が始まります。
不登校の子が後に元気になった頃に、「あの頃、学校に行けないのはなぜだったと思う?」と尋ねても、「今でもよくわからない」と答える子がほとんどです。不登校になってもよいことがあるわけではないことは本人もよく分かっており、「学校に行っておけばよかった」と述べる子も時にいます。ですが、「あの頃って、頑張れば行けたと思う?」と尋ねると、「理由はよく分からないけど、あの時は無理だった」とほとんどの子が答えます。

■「お母さんが僕のせいで落ち込んでいる」
学校に行けない理由はよくわからなくても、子どもたちは何も感じていないわけではなく、自身の気持ちを結構言葉にしてくれます。子どもたちがよく教えてくれる言葉を以下に列挙してみます。
「朝起きて1階に降りると、お母さんが僕の顔を覗き込む。今日こそは行くんじゃないかと期待している。けど無理だと分かるとお母さんがため息をつく。それを見るのがつらい」

「お母さんもお父さんもイライラして、夫婦ケンカが増えた。私のせいだ」、「お母さんが僕のせいで落ち込んでいる。悪いなと思うけどどうしようもない」

「お前のせいだってお母さんがお父さんに怒られて泣いている」

「あんたの育て方が悪いって、お母さんがおばあちゃんに嫌味を言われているのが申し訳ない」

「お兄ちゃんと比べられる。それが嫌だ」

「最近お父さんが、腫れ物に触るような言葉遣いをするのがイラっとする」、「お母さんが好きだった趣味を辞めた。不登校の子がいるのに何しているの? って思ったのかもしれない」

などです。彼らは家族の言動を実によく見ています。
■急に学校へ行けなくなった
親や教師などの大人から見ると、不登校はある時ふと始まったと感じられやすいです。
「2学期から行かなくなりました。どうしてなんでしょうか?」とか「不登校が多いのは聞いてましたけど、どうしてうちの子が不登校になったんでしょうか?」などと言われます。突然の不登校ではなく、行きしぶりの時期がある子もいますが、原因はよく分からないまま、親になだめられて何とか登校する時期の後に、ついには行けなくなります。
一方、本人に話を聞くと、「不登校が始まる直前まで元気だった」と答える子は少ないです。ほとんどの子は「頑張って行ってたけど」と言います。つまり、不登校の多くは、急に始まったように見えても、何らかの無理が長期に累積し、ある時限界を超えて不登校が始まるのです。無理が蓄積しつつある時期も、子どもは我慢しているので、多くの大人は「登校しているから大丈夫」と思っています。
■不登校の「こじれ」
不登校が始まると、親は焦ります。多くの親は、長期にわたる無理の蓄積に気づいてないので、「急に不登校になった」と感じます。「我が家の子育ては、普通にやれていたと思っていたのに、突如、ダメ出しを受けてしまった」と思う親も多く、「何で行かないの!」と子を責めてしまったりします。
でも子どもとしても、なぜなのか分かりません。心身が拒否反応を起こしているので、「お腹が痛いから」とか「何となく無理」としか言いようがありません。
自分でも「学校は行くべきところ」とは分かっているのに、学校に行けない自分が情けなくなります。自分に自信を失い、自己肯定感が下がっていきます。その上に親からのプレッシャーや叱咤が加わるので、どんどん自己否定的になります。
要するに、「不登校→親の焦りと子の自己否定→不登校悪化」という悪循環が回り始めます。これが不登校における「こじれ」です。
■不登校になって親が味方でなくなった
このように、不登校は不登校自体よりも、二次的にこじれることで回復しにくくなります。ある子が次のように話してくれたことがあります。以下の文章そのままをスラスラと語ったわけではないですが、ボソボソと何回かに分けて話したことに言葉を補ってまとめると、次のような内容となります。
「僕は勉強もあまりできないし、部活でもレギュラーになれない。これといって優れたところはない。けど、お母さんは僕の味方だった。学校で嫌な事があっても、家に帰ればお母さんがいた。
僕にとって家は味方がいて安心できる場所だった。
けど、不登校になって、お母さんもお父さんも味方でなくなった。学校へ行けない僕をすごくきつい目で見るようになった。学校に行けないことはとても苦しいけど、それを分かってもらえないのがつらい。これまで僕は親に愛されていると思っていた。
けど違っていた。僕が勉強や部活を頑張るとか、要するに親の期待を満たすから愛されていたんだ。僕そのものが愛されていたんじゃない。愛される条件を満たさなくなった僕は要らない子なんだ」

ほとんどの子どもは親を味方だと思って生きています。ですが、不登校になった途端、家の中に味方はいなくなります。彼のように自分の気持ちを適切に表現できる子は滅多にいないのですが、不登校の子の多くは彼と似たような気持なのだと思います。

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村上 伸治(むらかみ・しんじ)

精神科医

1989年岡山大学医学部卒業後、岡山大学助手、川崎医科大学講師を経て、2019年より川崎医科大学精神科学教室准教授。専門は青年期精神医学。著書に『実戦 心理療法』『現場から考える精神療法 うつ、統合失調症、そして発達障害』(共に日本評論社)、編著として『大人の発達障害を診るということ 診断や対応に迷う症例から考える』(医学書院)などがある。

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(精神科医 村上 伸治)
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