会話が上手い人とそうでない人は何が違うのか。『年上との話し方で人生は変わる』(総合法令出版)を書いた中島健寿さんは「相手からもっと話したいと思われる人は、話しやすい空気を作るのが上手い。
その空気感を分析すると3つの特徴がある」という──。(第2回)
■聞き上手な人に共通する「安心・尊重・余白」
年上の方と話すときに、「この人にはもっと話したくなる」と思ってもらえるかどうか。それは話し手の“話術”だけでなく、聞き手がつくり出す“空気感”に大きく左右される。
では、どうすれば相手が自然と心を開いてくれる話しやすい空気を生み出せるのか。鍵となるのは、安心・尊重・余白の3つだ。
1.安心:否定されないという安心感を与える
「間違っていたらどうしよう」「変に思われたくない」。そう思わせてしまうと、相手の口数は自然と減っていく。逆に、「何を話しても大丈夫」と思える空気があると、人はどんどん言葉を重ねてくれる。
リアクションで心がけたいのは、否定や訂正ではなく、受け止めること。たとえば、意見が違ってもすぐに「いや、それは……」とは返さず、「なるほど、そういう考えもあるんですね」と、一度受け入れる。
このワンクッションが、相手の安心感を大きく左右する。
2.尊重:話の内容より“話している姿勢”を尊重する
たとえ内容が自分の知っている話だったとしても、「それ知っています」「あ、それ前に聞きました」などと返してしまうと、相手の意欲は萎えてしまう。

年上にとって大切なのは、「自分の経験や想いを、真剣に聞いてくれている」という実感。話の新しさではなく、自分の言葉が尊重されている感覚があるかどうかがポイントだ。
■相手の心に余裕を与える聞き方
3.余白:「話していい空気」の“間”を作る
たとえば、話の途中でスマホをチラ見したり、相槌が早口だったりすると、「早く終わらせたいのかな?」という空気が伝わってしまう。
逆に、ゆったりとした相槌、適度な間合い、笑顔のうなずき。こうした余白のある聞き方は、相手の心に余裕を与える。それが、結果として「もっと話したい」という気持ちにつながっていく。
空気感とは、言葉以上に場の雰囲気で伝わるもの。安心して話せる人には、自然と話が集まる。その積み重ねこそが、「あの人にはつい相談したくなる」という信頼を育てていくのだ。
そしてこの空気感を作るうえで、どこで話すかも実は重要な要素になる。できれば、話をする場所はホテルのラウンジや有料のカフェラウンジなど、落ち着きのある空間を選びたい。
無理をしてでも、ファミレスや騒がしいチェーンカフェは避けたほうが良い。
なぜなら、影響力のある人ほど“場の格”に敏感であり、庶民的な場を本音の語り場とは感じにくい傾向があるからだ。
「誰と、どんな空気で、どんな場所で話すか」そのすべてが信頼の印象を形づくる要素となる。
■意見が食い違ったら「角度を変える」
年上との信頼関係を築くうえで、「否定しない聞き方」は重要なポイントだ。とはいえ、「相手の言うことにすべて同意しなければならない」というわけではない。大切なのは、意見が違っても、関係を崩さずに話を進められる聞き方の工夫だ。
たとえば会話の中で、「それは違います」と反射的に返してしまうと、どれほど正しい内容でも、相手には「話を遮られた」「上から指摘された」という印象を与えてしまう。
そこで使いたいのが、「柔らかく角度を変えて返す」フレーズである。
「なるほど、そういう見方もあるんですね。ちなみに、最近はこういう事例もあるようで……」

「その考え方、僕も最初そう思っていたんですが、別の視点から見るとまた印象が変わって……」
こういった言い回しは、相手の言葉を肯定しながらずらすという、まさに共感と視点転換の合わせ技だ。また、否定ではなく対話へと導く力を持つのが、共通項を探す姿勢でもある。
「たしかに、僕もそういう感覚を持ったことがあります」

「根っこの部分では、きっと似たような価値観を持っている気がします」
といった前置きが入ることで、相手も「自分の話が尊重されている」と感じやすくなる。特に年上の方は、「長年の経験から語っている」という自負がある。
それを真っ向から否定されると、考えそのものではなく、自分自身が否定されたように感じることもある。
だからこそ、意見が違うときほど丁寧に聞く姿勢が信頼につながる。
■「でも」と言いたくなったら
もし「いや、でも……」と言いたくなったら、一度呼吸を置いて、こう言い換えてみよう。
「それって、どういう背景があったんですか?」

「そう思われたとき、どんな体験があったんですか?」
これは、相手の話を“理解するための質問”に変えるテクニック。結果として、相手も深く話しやすくなり、信頼残高が増していく。
ポイントは、同意しなくても、理解しようとする姿勢は持てるということ。信頼とは、考えが合うかどうかではなく、違っても関係を結べるかで決まる。会話の中で、相手の立場を壊さず、自分の視点も丁寧に差し出す。
この“差し出し方の美学”こそが、年上に深く信頼される聞き方の本質だ。
相手の心に深く触れたいとき、そして本音を引き出したいとき、最も効果的な聞き方が、「オープンクエスチョン」だ。オープンクエスチョンとは、はい、いいえでは答えられない問いかけのこと。
たとえば、
×「楽しかったですか?」(クローズド)

○「どんなところが印象に残りましたか?」(オープン)
この違いが、会話の深さを大きく左右する。
特に年上の方と話すときは、相手の経験や価値観を引き出すことで、信頼は一気に深まる。こういった重ねるような主張は、相手を否定するどころか、「理解しようとしてくれている」という好印象を与える。
主張とは、前に出ることではなく、立ち位置を丁寧に示すことなのだ。
■ただの情報交換から、信頼関係の構築へ
特に年上は、「まず耳を傾けてくれるか」「話を尊重してくれるか」という部分に、とても敏感だ。だからこそ、自己主張の前に一度、相手の言葉にしっかり共感と敬意を添える。
主張の前に、信頼がある。それを忘れないことが、信頼される若手であり続けるための、最大の心得である。
「どんなことを大切にしてこられたんですか?」

「そのとき、どんな決断をされたんですか?」

「どうしてそこまでやり抜けたんですか?」
こうした問いには、正解がない。だからこそ、相手は自分の言葉で語り出す。それが、会話を単なる情報交換ではなく信頼関係の構築へと導いていくのだ。
オープンクエスチョンの威力は、ただ話を深掘りするだけではない。相手に「自分の話をもっと聞いてくれそうだ」と感じさせ、「この人とは、また話したくなる」と思わせる、“関係性をつなぐ鍵”にもなる。


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中島 健寿(なかじま・けんじゅ)

株式会社KENJU代表

1996年、栃木県生まれ。立正大学法学部卒。大学卒業後、独立。わずか3年で世界10カ国以上で展開し、1万人以上の組織を作る。ビジネスの傍ら、現在は、これまでの経験をもとに「信頼され、引き上げてもらえる人になるためのコミュニケーション術」を軸にセミナーや講演を全国で展開。また、10歳で野球を始め、中学時代には専用グラウンドもなくわずか5人しかいないチームを2年で日本一に導く活躍を見せる。15歳で日本代表として国際大会に出場し、アジア大会準優勝。白鷗大学足利高校時代には同校初の選抜甲子園出場を果たす。大学時代には明治神宮野球大会で人生2度目の日本一を経験。それぞれの世代で常に学生野球の頂点を極めてきた。プライベートでは5歳、3歳、0歳の三児の父。

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(株式会社KENJU代表 中島 健寿)
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