チームの生産性を上げるには何が必要か。らしさラボ代表の伊庭正康さんは「経験も、責任も、重ねてきたリーダーが、みんなと同じ仕事をしていたら、実はコストのムダ遣いである。
生産性を上げるもっともシンプルな方法は、あなたより給料の低い人に任せること、つまり職場では部下に任せること。“自分でやる”から、“自分たちでやる”へ切り替えなくてはいけない」という――。
※本稿は、伊庭正康『リーダーの「任せ方」の順番 部下を持ったら知りたい3つのセオリー』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■役職は、能力ではない
むしろ部下のほうが「優秀」と考えてみる

上司か、部下、どちらが優秀だと思いますか?
まず、こう考えてください。
「むしろ、部下のほうが優秀かも」
そう考えないと、上司は務まらないでしょう。
だって考えてみてください。必ず、上司には見えていない盲点があるはず。
現場の隠れた問題を知るのは、きっと部下のほうでしょう。
新しいAIの活用法も、きっと部下のほうが詳しいのではないでしょうか。
部下は、上司が見えていない「箇所」を把握していることが普通ですし、
また、上司が気付かない「対策の選択肢」も持っているものです。
さらに、上司にはできない「得手」があるものです。
むろん、部下にも得手不得手はあります。

それこそ、主体性が高い部下もいれば、頭にくるほど低い部下もいることでしょう。
でも、得手がない部下はいません。
同時に、主体性の低さは、すべての事象に対してのことではないでしょう。
“このことに関しては低い”と考えるのが自然です。
部下の「得手を引き出す」「主体性を引き出す」、
これこそが上司の役割です。
■謙虚と感謝で部下を「主役」にする
私は宗教家でも哲学者でもありません。成果にこだわる実践家です。
なので、説法や説教はしません。解くのは現場で効果のある実践法のみです。
でも、マネジメントを実践する上では、「謙虚」と「感謝」は不可欠。
この会社より、他の会社のほうが、いい条件はあるかもしれないけど、
この部門より、他の部門のほうが、働きやすいかもしれないけど、
私より、他の上司のほうが、あなたは満足できるかもしれないけど、
それでも、ここで働いてくれるからには、できる限り、「この部署でよかった」「この上司でよかった」と思ってもらえるよう、どんどんチャンスをつくる、と決める。
そう、甘やかすことではありません。

やるべきことは、チャンスをつくることです。
加えて、会社(あなたの上司)は、あなたに何を期待しているのでしょう。
あなたが主役になることではないはずです。
部下を主役にし、しっかり育成をすることではないでしょうか。
「任せる力」を身に付けることとは、「ここでよかった」と思ってもらうためのキーアクション(重要な行動)なのです。
■見えない思い込みを外すために
あなたの「任せる力」、眠っていませんか?
あなた自身の「任せる力」を、今ここで見つめてみましょう。
確かに部下が忙しいので任せられないということもあるでしょう。
でも、本当の原因は、部下を「信じる力」にブレーキがかかっているからかも。
だとしたら、いくら任せ方のテクニックを知ったとて、ブレーキがかかってしまうかもしれません。まずは、ブレーキがかかっていないかチェックしておきましょう。
当てはまるものにチェックを入れてみてください。
あなたの「見えない思い込み(ブレーキ)」に気付けるはずです。

チェックしてみよう(ほんの少しでも当てはまるものに?)□人に頼むより、「自分でやったほうが早い」と、少し思ってしまう
□人に任せると、「自分より出来栄えが低くなりそう」と、少し思ってしまう
□「部下も忙しいので、とても頼めない」と、少し思ってしまう
□人に任せると、「ミスされるのが怖い」と、少し思ってしまう
□人に任せたとしても、少しは「口出し」をしたくなる
□任せた時、「報告が少ない」ことに対し、ストレスを感じる
□自分ができるのに任せることは、「怠けること」のように少し思ってしまう
□重要な仕事を任せたら、「見せ場が減ってしまう」ように少し思ってしまう
□「育成とはやり方を教えること」だと思っている(それ以外に思いつかない)
□「頑張ることが美徳」のように感じているところがある

☑が0~2個
きっと、すでにあなたは「任せる力」が高いタイプでしょう。
だからこそ、さらに、この本でもっと任せる機会を探ってみましょう。
もっと任せることで、部下を覚醒させる方法を紹介します。
☑が3~5個
きっと、あなたは「任せる」ことに努力をしているのではないでしょうか。
でも、「もっと任せたい」との想いもあるはず。
部下もあなた自身もさらに飛躍できる方法を紹介します。
☑が6個以上
頑張り屋さんすぎるあなたへ――
ひょっとしたら、「思い込み(ブレーキ)」が、かかってしまっているかも……。
「任せる=信頼する」、この視点を持つだけで、関係性も成果も大きく変わります。
あなたの「思い込み(ブレーキ)」をはずすヒントをこの章では紹介していきます。
■「任せること」には迷いや葛藤がつきもの
ここでは、チェックの数は気にしないでください。
もちろん、誰でも「任せること」には迷いや葛藤がつきものです。
“ない人”なんていません。

でも、自分1人では、とてもできないことを知っているからこそ、強い意志を持って、任せているのが本当のところ。
この本は、「任せる力」を、もう一段階引き上げるヒントを紹介します。
ブレーキを外し、一歩前へ。
あなたが変われば、部下も育ち、チーム全体が変わります。
■大きな成果を出すための“最適解”を導く
1分で100個のリンゴを剥くためには

ちょっと、クイズにお付き合いください。
あなたは今、「目の前にある100個のリンゴ」を、いかに速く剥けるかを競うゲームに参戦中。
制限時間は、たったの1分。
優勝賞金は5万円。
観客は100人。空気はピリッと張り詰めています。
ルールは――特にナシ。
さあ、あなたならどう動きますか?
選択肢を用意しました。

A:1分はムリ。早々にあきらめる。
B:「ムリかも……」と思いつつ、とにかく自分でやってみる。
C:観客から20人ほど応援を募って、一緒に剥いてもらう(謝礼は賞金から)。
もう、おわかりですね。
Cこそが、リーダーとしてもっとも賢い選択。
なぜか。
それは「他者の力を借りて、成果を最大化する」
これこそが、リーダーに求められる本質だから。
自分ひとりで頑張るのではなく、周囲のリソースをどう活かすかにこそ、力を使う。
人を集めてでも、大きな成果を出すための“最適解”を導くのが、リーダーの仕事なのです。
■リーダーがリンゴではなく本当に「剥く」べきもの
でも現実は、どうでしょうか。
つい目の前の仕事を、自分で抱え込んでいませんか?
「自分がやったほうが早いし、ミスもない」、その気持ち、よくわかります。

でも、それは“リンゴを1人で剥いている”のと同じ状態。
たとえ1分で5個剥けても、残り95個はどうなるのでしょうか?
あなたの時間も、チームの成長機会も、目減りしていきます。
リーダーの「頑張りどころ」は、“自分が動くこと”ではなく、“人を動かすこと”。
どこに手を入れれば、組織が一歩前に進むのか。
誰に何を任せれば、チームが活性化するのか。
そこを考えることが、あなたの真の価値です。
あなたが本当に剥くべきなのは、リンゴじゃない。
チームの可能性にまとわりついた“殻”なんです。
「やってもらう」「任せる」「信じてみる」――
そのひと手間が、組織をまるごと変えていく。
さあ、観客席ならず、職場を見渡してみてください。
手伝ってくれそうな人、きっといますよ。
あなたの「頼る力」が、チームの成長を連れてきます。
■あなたの給与は、部下より高い
あなたの頑張りが「罪」になる?

これは当たり前のこと。
経験も、責任も、重ねてきた証だから。
でも、そんなあなたが“同じ仕事”をしていたら――
それ、実はコストのムダ遣いかもしれません。
「生産性を上げるもっともシンプルな方法」
それは、あなたより給料の低い人に任せること。
……つまり、部下に任せることです。
ちょっと、算数で考えてみましょう。
たとえば、あなたが営業職で、年間1億円の売上を持つ顧客を担当していたとします。
あなたの人件費+諸経費は800万円。
では、その顧客を、経費400万円の若手に任せたら?
売上は同じ、でもコストは半分。はい、生産性は2倍です。
数字にすれば一目瞭然。
でも、心では、なかなか手放せない。
「自分がやったほうが安心だ」

「ミスされたら困る」

「お客様との関係があるから」
――わかります。私もそうでした。
かつて営業部門の管理職をしていた頃、上司からこんなことを聞かれました。
「1契約あたりのコスト、どのくらい? 下げられないかな?」
……「1契約あたりのコスト」、考えたこと、ありませんでした。
振り返れば、私を含めた給与の高いメンバーが、テレアポをしていたわけです。
これは、バイトを雇わず、高給のシェフが新作メニューの開発をせずに、目の前の野菜を洗っているようなもの。そんな店が儲かり続けるはずはありません。
もちろん、タスクの「価値が低い」と言っているのではありません。
「コストと見合わない」ことが問題ということです。
■コストを下げれば、生産性は上がる
考えてみると、どうでしょう。
世の中の多くの部長は自部門の人件費を「パッ」と言えます。
そりゃそうです。責任者ですから。
でも、課長の多くは自分の職場の人件費を「パッ」と言える人が少ないもの。
そこまでのコスト意識がないからです。
残業すれば、時間外の給与は1.25倍に跳ね上がります。社員の残業代は結構なコストです。少なくとも、あなたの残業代が一番高いかも……。
だとすれば、残業をなくすため、バイトを雇ったほうが生産性は上がるかもしれません。
成果が何倍にも上がるわけじゃないなら、コストを下げることが、生産性を上げる一手。
部長以上、役員は、普通にそう考えます。
あなたの頑張りが「罪」になるなんて、悲しいこと。
あなたに求められているのは――任せること、育てること、導くこと。
チームの未来をつくることです。
“自分でやる”から、“自分たちでやる”へ。
その一歩を、あなたからはじめてください。

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伊庭 正康(いば・まさやす)

らしさラボ代表

1991年、リクルートグループ入社。営業部長、フロムエーキャリア代表取締役を歴任後、2011年に研修会社らしさラボを設立。YouTubeチャンネルでも営業のノウハウを配信中。近著に『超効率的に結果を出す テレアポ&リモート営業の基本』(日本実業出版社)がある。

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(らしさラボ代表 伊庭 正康)
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