腸を整えるグルテンフリーを実践するときの注意点は何か。医師の溝口徹さんは「米粉パンは本来、グルテンフリーを実践するためのパンではないことも多く、実はグルテンが含まれていることが多い。
また原料のお米を摂りすぎれば糖質過多の問題が出てくる。グルテンフリーの麺も同様に糖質はそれなりに含まれているから、食べ方にも注意が必要だ」という――。
※本稿は、溝口徹『腸の不調がなくなる「小麦」の抜き方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■まずは「小麦」を2週間抜いてみる
今の不調が、グルテンが原因で起きているかどうかを見極める方法は簡単です。
それが「小麦を食生活から抜くこと」。期間は「2週間」です。
もちろん、その際にはカゼインも抜く、つまり乳製品も食べないようにしてください。
「小麦製品と乳製品を食事から抜くなんて無理」

「何も食べるものがなくなってしまう」
という声が聞こえてきそうですね。確かに、かなり難しい人が多いかもしれません。
ただ逆にいえば、それだけ普段の食生活を小麦と乳製品に依存していたということではないでしょうか。
そういう人にこそ、2週間、グルテンとカゼインを抜いてみる意義があります。
ただし、この2週間は少し頑張って、厳密に抜いてもらうことになります。

小麦が含まれる食品については、パンやパスタ、麺類などわかりやすいものだけではなく、この期間は麦茶やビール、しょうゆなど、“麦”と名のつくもの、つまりグルテンが含まれている可能性のあるものを完全に除去します。
カゼインフリーでは、牛乳、ヨーグルト、チーズ、生クリームなどが代表的なもので、これらを除去することになります。グルテンに比べれば、カゼインのほうが除去しやすいのではないでしょうか。
なぜ、ここまで完全に除去するのかというと、それだけ体調の変化がわかりやすいからです。今、これといって不調を感じていない人も、一度「小麦断ち・乳製品断ち」をすることで、グルテンやカゼインに原因があると気づくこともあります。
■いつも通りの食生活に戻すと不快症状が出てくる
私は潜在的なグルテン、カゼインアレルギーの人はかなりいると見ています。もし何か体調にいい変化が起きてきた場合は、グルテン、またはカゼインのアレルギーである可能性が高いでしょう。一度やってみて損はありません。
いい変化、とひと口にいっても人それぞれです。
よく聞くところでは、「便秘や下痢が治った」「肌がきれいになった」「集中力が出てきた」「頭痛や肩こりが治った」「アトピーが改善した」「鼻炎や花粉症が軽減した」「疲れにくくなった」「頭がスッキリして朝の目覚めがいい」などがあります。
2週間抜いたあとは、もう一度、いつも通りの食生活に戻してみてください。アレルギーがある場合、また不快症状が出てくるはずです。
むしろ、抜いたことで体がリセットされて変化に気づきやすくなるため、不調が顕著に出るかもしれません。
いい調子を持続したければ、ある程度は食生活を変えていかなければなりません。その後の食生活をどうするかは、体調と相談しながらやってみてください。
グルテン、カゼインには麻薬のような作用があるため、パン大好き、乳製品好きで毎日のように口にしている人も多いはずです。でも、再開するとまた体調が悪化してしまうこともあります。
実際にやってみるとわかりますが、抜いたときの体調のよさ、頭の冴えを十分実感できることも多く、「もうパンは食べない」という人もいます。
ただ、グルテンやカゼインのアレルギーの度合いにもよりますが、一生食べてはいけないということはまずありません。たまにパンやパスタを楽しんだり、外食を楽しむなど、自分なりに工夫してみるといいでしょう。
体調さえよければ、やり方やアレンジは自分次第。平日はそこそこにして、週末はしっかり除去する、あるいは平日はしっかり除去して、たまの週末は好きな食事を楽しむというやり方でもいいでしょう。自分の状態に合わせて工夫してみましょう。
なお、グルテンを抜いてもどうも体調が完全によくならない、あるいはおなかの調子が今一つスッキリしない人は、先の記事でも紹介した低FODMAP食事法もあわせてやってみることをおすすめします。

■腸を整える「小麦抜き」にはコツがある
ここからは、具体的な「小麦抜き」食事法の実践ポイントについて説明していきます。
パスタやピザ、パンを主食にしてきた欧米人から見れば、日本ほどグルテンフリーが実践しやすい国はないと思われているかもしれません。
いうまでもなく、日本人の主食はお米です。
いくらお米の価格が高騰しているとはいえ、グルテンフリーを実践すると、お米に行きつき、パン食から米食に変えたという声もよく聞きます。
確かに和食ならグルテンフリーは実践しやすいでしょう。実際、お米はアレルギーをつくりにくい食材でもあります。
でも、ここであえてお伝えしたいことがあります。
それは、日本人がグルテンフリーを実践するとき、単純にお米を小麦の代わりにしてしまうことには、デメリットもあるということです。
そもそも、なぜグルテンがこんなに問題になっているかというと、事のはじまりはグルテンをたくさん摂ってきた欧米人たちに不調が出てきたことにあります。
グルテンがよくないのであれば、お米ならいいだろうと、お米を食べはじめた――もちろん悪いことではありません。しかし、それはグルテンを食べ続けてきた欧米人の歴史があってのことなのです。
もともと日本では、お米が主食ではありましたが、近年は新たな問題が出てきました。

それが、私がクリニックで長年取り組んできた“糖質過多”を引き起こすという側面です。
お米はパン同様、糖質であり、たくさん摂りすぎると、当然、血糖値が上がりやすくなります。それがさまざまな病気や不調のもととなってしまうのです。
■米粉パンにグルテンが含まれている可能性も
パン好きな人にとって、グルテンフリーを実践するのは、とくにつらいものです。
最近、米粉(こめこ)を使った「米粉パン」をよく見かけるようになりました。グルテンフリーのパンがなかなか手に入らないなか、グルテンフリーを実践したい人にとってはすぐにでも飛びつきたいところでしょう。ただ、残念ながら、ここでも注意が必要なのです。
米粉パンは本来、グルテンフリーを実践するためのパンではないことも多く、実はグルテンが含まれていることが多いのです。
実際、米粉だけの生地では粘り気を出すのが難しく、なかなかふくらみにくいようです。
結局、グルテンを混ぜることがいちばん手っ取り早いということで、グルテンが入っていることがあるのです。
米粉=グルテンフリーと考えて安易に購入して食べてしまうと、小麦アレルギーの人なら大変なことになってしまいます。
実際、グルテン=小麦と知らずに、小麦アレルギーの人がグルテン入りの米粉パンを食べてアレルギー症状を引き起こした例もあるようです。
くれぐれも気をつけましょう。
また、グルテンフリーの米粉パンであっても、原材料はお米です。これらもまた、摂りすぎれば糖質過多の問題が出てきます。しかもパンは、得てしてご飯よりもたくさん食べすぎてしまうものです。
■欧米のグルテンフリー食材は日本人に合うのか
ちなみに、グルテンフリーの麺でパスタなどを楽しんでいる人も少なくありません。ダイエット目的で食べている人も多くいますが、実際は体重が減らないどころか、増えてしまったという声も聞きます。
グルテンフリー麺の原材料は豆(おもにえんどう豆)が使われていることも多く、低糖質と謳われているものでも、糖質はそれなりに含まれています。
また、「グルテンフリーだから大丈夫」という安心感が、食べすぎにつながっていることもあります。食べる際には食べ方にも注意が必要でしょう。
欧米に比べると、日本ではまだグルテンの代替食材が広く売られているところまでは行っていないのが現状です。
加えて、欧米のグルテンフリーのOK食材、NG食材は、すべての日本人に当てはまるとは限らないものも多いのです。当たり前のことですが、同じグルテンフリーでも、その国に合わせた方法を提供しなければ実践しにくいものです。

また、欧米ではよしとされている牛乳やヨーグルトなどの乳製品などに含まれているカゼインについても、日本人の場合は摂らないことをおすすめします。
欧米のスーパーでは「グルテンフリー」の食材や、「ローファット」「コレステロールゼロ」「シュガーフリー」といったものはよく見かけても、「カゼインフリー」の食材はほとんど見かけません。
これは、日本人に比べて、欧米人に乳糖不耐症が少ないことも理由の1つでしょう。
乳糖不耐症とは、乳糖を分解するための酵素が不足したり弱まったりして、体内で適切に消化できず、下痢などを引き起こすことをいいます。日本人には、この乳糖不耐症が多いのです。
カゼインフリーは日本人ならではの問題ですが、繰り返しお話ししているように、グルテンフリーとあわせてカゼインフリーをおこなうことのメリットは大きいといえます。

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溝口 徹(みぞぐち・とおる)

医師

1964年生まれ。神奈川県出身。福島県立医科大学卒業。横浜市立大学病院、国立循環器病センターを経て、1996年、痛みや内科系疾患を扱う辻堂クリニックを開設。2003年には日本初の栄養療法専門クリニックである新宿溝口クリニック(現・みぞぐちクリニック)を開設。著書に『2週間で体が変わるグルテンフリー健康法』『発達障害は食事でよくなる』『お酒の「困った」を解消する最強の飲み方』(いずれも青春出版社)、『花粉症は1週間で治る!』(さくら舎)などがある。

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(医師 溝口 徹)
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