博報堂生活総合研究所の調査によると、「同性の幼なじみがそのまま親友になる」ケースがZ世代で増えている。なぜ、今の若者は幼い頃の関係性が長く続くのか。
Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)から、その実態を紹介する――。
■Z世代は幼なじみがそのまま親友に
本稿では、Z世代の幸せにとって欠かせない、大切な関係に注目します。「同性の幼なじみが、そのまま親友になっている」ケースの増加です。
博報堂生活総合研究所の若者調査では、「同性の一番親しい友達と知り合った時期」、つまり親友といつ出会ったかを聴取しています。1994年も2024年も過半を占めているのは「中学・高校時代」で変わらないのですが、「小学校入学前」と「小学校」を足した割合が19.6%→34.5%に増加しているのです。
一方で、「短大・大学時代」と「社会人になって」を選択した人を足した割合は、30年で18.2%→9.3%へと半減しています。やはり、大学生以上になると友人関係がかなり機能分化してしまい、何でも話せる深い友人関係を作る難易度が高まっているようです。
ちなみに、「異性の一番親しい友達と知り合った時期」についても30年間の変化傾向は同性の場合と同様ですが、最も増加しているのが「そのような友達はいない」という結果なのが、悲しいながらも同性へのシフトを傍証しています。
■Z世代の「自分と関係が近い人」の順序
インタビュー調査でも、「一番仲のいい友達は誰ですか?」という問いに対しては、中学校や小学校より前に出会った同性の友達が挙がることが非常に多く、時系列調査の結果とも一致しています。ただし、全国的に中高一貫校が増加しているため「中高の友達」とまとめられるケースも増えています。
ある男子大学生に「自分と関係が近い人を順番に並べていってください」と尋ねたところ、家族→彼女→中学からの友達→サッカーコミュニティ→ゲームコミュニティの順番で挙げてくれました。恋人がいる/いない、コミュニティの数などの違いはありますが、この並びの感覚は多くのZ世代に共通するようです(恋人と幼なじみの順位が逆転する場合も多くあります)。

この男子に、なぜ中学からの友達が特別な存在なのか尋ねると、「とにかく一緒に過ごした時間が一番長い。学校やお互いの家、ときに街中でなんでもないことを延々話していた時間があるから」という答えでした。
■幼なじみは最高の「ローリスク仲間」
SNS上の「ガチ勢」仲間は特定のテーマを深く話せるものの、趣味や推し活をやめると仲間付き合いも立ち消える場合が多いのです。
一方で、子どものころからの親友はお互いに何でも話してきたからこそ、簡単には切れない、積み上がってきた関係があるわけです。
また、多くのコミュニケーションがオンラインで済ませられる世代だからこそ、共に過ごした物理的な時間の厚みがいっそう価値を持っているようにも見えました。
コンプラ解放区である同性の友人、そのなかでもお互いの性格や過去を知り尽くし、家族や人生の悩みも含めて心を開いて何でも話せる幼なじみは、最高の「ローリスク仲間」といえるでしょう。ほかの友人関係には代えがたい価値があるのです。
■オンライン上の「遊び場」で縁をつなぐ
ところで、「幼なじみがそのまま親友になっている」ことについて、大人目線で見ると「よく途中で関係が切れないな」と感心してしまいませんか?
実は、こうした関係性が育ちやすくなっている社会的な背景がいくつかあります。環境的に、友人関係がリセットされにくくなっているのです。
まず、当然ながらSNSの浸透がその一つです。特に中学受験の盛んなエリアでは、小学6年生の卒業を前に親から初めてのスマホが与えられ、チャットアプリでグループが作られるクラスも少なくないようです。進学や就職で物理的に離れてしまっても、アプリにアクセスすればそこに「いる」。
さらにXやインスタグラムなどのアカウントで「友達」になれば、より強固なつながりが作れます。
そして、オンラインで友達と対戦できるゲームや、動画配信サービスで同じコンテンツを見ながらオンライン通話するなどの「遊び」が広まった結果、「遊び場」がリアルの場に限られなくなったことも非常に大きな要因です。たとえ引越しや大学進学による上京などで居住地が遠くなったとしても、子どものころと同じように遊び続けることができます。
■ゲームのおかげで卒業後も続く友情
たとえば中高一貫校出身のSさんは、中一のころから続く部活の友達7~8人と今でも一番仲良くしているそうです。みんなゲームが好きで、卒業後もオンラインゲーム上でつながっているとのこと。
「仲の良さが続いているのは、ゲームの存在が大きいですね。中身のない身内ネタを延々と言い合ったり、周囲には通じないような内輪ネタの言葉を使ったり。中高生時代に戻るというか、バカになるために集まっている感じです」
実はこのSさん、前回【第4回】でご紹介した「自分にとって価値があるかないか損得勘定で友達を選んでしまう」人と同じ人物ですから、いかに「友達の使い分け」をしているかをうかがい知ることができます。
■オンラインで集合し「スプラやろうぜ!」
また、銀座で街頭インタビューした20歳の若者4人組も、同様な関係でした。彼らは小学生時代に出会った仲間で、もう10年以上の付き合い。職種もバラバラですがその日は連れ立って買い物に来ているとのことで、次のように話してくれました。
「このあとそれぞれの家に帰って、オンラインで集まって『スプラトゥーン』をプレイする予定です。
ぼくら、小学校のころからずっと『スプラトゥーン』とか『モンハン(モンスターハンター)』をやってるんですよ」
「磯野、野球しようぜ!」の声で空き地に集合する『サザエさん』の世界のように、令和の若者は「スプラやろうぜ!」とそれぞれの家からゲームの世界に「集合」する。オンラインを遊び場にしているからこそ、小学校を卒業してもいつでも集まって遊び続けることができるのです。

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博報堂生活総合研究所(はくほうどうせいかつそうごうけんきゅうじょ)

広告会社博報堂の企業哲学「生活者発想」を具現化するために、1981 年に設立されたシンクタンク。人間を単なる消費者ではなく「生活する主体」として捉え、その意識と行動を継続的に研究している。1992 年からの長期時系列調査「生活定点」のほか、さまざまなテーマで独自の調査を行い、生活者視点に立った提言活動を展開。本書は、若者研究チーム(酒井崇匡、髙橋真、伊藤耕太、佐藤るみこ、加藤あおい)による調査・分析をもとに構成されている。

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(博報堂生活総合研究所)
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