※本稿は、牧田善二『脳と体が老けない人の食べ方』(新星出版社)の一部を再編集したものです。
■老化予防のカギは毎日の“食”にあり
脳や体の老化をできるだけ遅く、ゆるやかにするには、AGEが体内にたまらないよう、食事で摂る糖質の量を減らすことがとても大切なのです。
食事で気をつけることはさらにもうひとつあります。それは、食べ物そのものに含まれているAGEに気をつけることです。AGEは多かれ少なかれ、ほとんどの食べ物に存在します。食べ物に含まれるAGEはほとんどが体外に排出されますが、6~7%が体内に蓄積され、腎臓などの働きにより、さらにそこから排泄されますが、排泄しきれないものは徐々に蓄積していきます。老化を予防する(AGEを増やさない)ためには、AGEを多く含む食べ物にも気をつけたほうがいいでしょう。
基本的に、生の食べ物にはそれほど多くないのですが、揚げたり、焼いたりなど、高温で調理することでAGEの量は一気に増えます。どの程度増えるのかは、素材によって異なりますし、調理方法や調理時間でも違ってきます。
逆にAGEの害を減らす食べ物や食べ方もあります。食べ物のなかにはAGEの害を減らすものもありますし、AGEを増やさない食べ方や調理法もあります。工夫しだいで、AGEの害を減らすことはできるのです。
■体内のAGEを増やさない=血糖値を上げないこと
私たちの脳や体を老けさせ、病気を招くAGEは、毎日の食事で少しずつ体内にたまっていきます。AGEはタンパク質と糖が結びつくことで発生する物質です。体を構成する細胞や臓器はタンパク質からできていますから、血液中の糖が増えるとそれだけAGEがたくさん発生することになります。
体内でつくられるAGEの量は、「血糖値の高さ」と「高血糖状態が続く時間」で決まります。私たちの脳や体を老化させる黒幕であるAGEを増やす、もっとも大きな要因は食後に高血糖状態(血液中に血糖[ブドウ糖]が多い状態)が続くことと言ってもいいでしょう。若々しい脳、若々しい体を維持するためには、食事による血糖値の上昇をできるだけ避けることが、とても重要なのです。
■食事の影響を大きく受ける血糖値
「血糖値」とは血液中のブドウ糖の量のことです。ブドウ糖とは糖の一種で、私たちが生きていくためのエネルギー源となる重要な栄養素です。
生命活動を維持するために必要不可欠なブドウ糖は、ごはんやパンや麺、いも類や根菜類などの炭水化物や、甘いお菓子や甘い飲み物に含まれる砂糖などが腸で分解されるとブドウ糖となって吸収され、血液へと送られます。
血液へと送られたブドウ糖は全身の細胞に運ばれて、生命活動を維持するためのエネルギー源になります。
このように糖は生きていくうえで欠かせないものではありますが、使いきれないほどあるとAGEを増やしてしまいます。
現代の日本人には、使いきれないほどの糖を摂り入れている“高血糖状態”の人が多く、ここ30年ほどで糖尿病(血糖値が高い状態が続く病気)の患者数は爆発的に増えているのはその証しでしょう。
■血糖値を上げない食べ方
高血糖がよくないことは明らかなのですが、日本人には「主食を必ず食べないといけない」という思い込みがあるので、糖質の摂取量を減らすことに抵抗がある人が少なからずいます。
何度も言いますが、糖質の摂取量を減らしても何の問題もありません。私たちの体には血糖値を一定に保つ仕組みがきちんと備わっています。糖質を減らしたとしても、低血糖に陥って倒れるなどという心配はないのです。飢餓に対応する能力が備わっているので心配ありません。
ですから、血糖値を上げない食べ方を心がけてください。そして、血糖値は食事内容で大きく変わります。血糖値を上げる食べ物を控えることで、高血糖状態を避けることはできます。
いつまでも見た目も体のなかも脳も若々しく過ごしたいのでしたら「血糖値を上げない食べ方」を今すぐ実践しましょう。
①主食の量を減らす
体内のAGEを減らすために、もっともシンプルで効果的なのは、毎食のごはんやパン、麺など主食の量を減らすことです。まったく食べないのは現実的ではないので、まずは毎食食べる糖質の量を半分にすることを目標にしてみましょう。
主食の量を減らすと自然に体重が減っていきます。内臓脂肪や皮下脂肪も減り、血糖値を抑えるインスリンの分泌もよくなり、AGEの排泄を促す肝機能もよくなります。つまり、糖化リスクがさらに低下する効果もあるのです。
肥満な人ほど体内のAGEが多いという研究報告もありますし、肥満はさまざまな病気のリスクでもあります。肥満解消という意味でも、糖質を制限することはとても有効です。
ごはんや麺を好きなだけ食べる習慣は、ある程度の年齢になったら見直したほうがいいと私は思います。
②おやつは加工が少なく甘くないものを
加工されている市販のお菓子は全般的にAGEが高いので、老化予防のためにはできるだけ食べないのが正解です。
ただ、空腹の時間が長く続くと、次に食べるときに多めに食べてしまうことになりますし、食後血糖値の急上昇を招くことにもなります。
小腹がすいたときには血糖値を上げない、ゆで卵、ナッツ、チョコレート、チーズを食べるといいでしょう。ナッツはローストしたものはAGEが高めなので、ローストしていないものを選び、チョコレートはカカオ70%以上のものを1日30~50gを目安に食べましょう。
③よく噛んでゆっくり食べる
よく噛んでゆっくり食べると、血糖値の上昇がゆるやかになり、食後の高血糖を防いでくれます。速食いは大食いを呼びます。
基本的に、食事をして血糖値が上がると「お腹いっぱい」というサインが脳から送られて食べるのをストップするのですが、かき込むようにして食べる速食いの場合、血糖値が上がる前に、必要以上の量を食べてしまうのです。ゆっくり時間をかけたから血糖値が上がらない、ということではありませんが、食べ過ぎを防ぐ効果は間違いなくあります。また、噛むことは脳を活性化すると言われています。顔の筋肉を使うことで脳に送られる血流が増える、記憶するときに働く脳の「海馬」というところを刺激するため記憶力、集中力を高める、ストレスを軽減するなどが報告されています。
④生のまま食べるのが理想的
AGEのことを考えると、理想は加熱せずにそのまま食べるのがいちばんです。生で食べられるものは、できるだけそのまま食べるようにしましょう。
海に囲まれた日本では、昔から新鮮な魚介類を生(刺身)で食べています。火を通さずそのまま食べる刺身は、AGEも少なめで、糖質の心配もありません。
⑤炒める・揚げるよりもゆでる・蒸す
理想は火を通さずそのまま食べることですが、加熱調理が必要なものもありますし、食事内容を制限し過ぎるのも現実的ではありません。ただ、知識としてAGEの少ない調理法を覚えておくことは大切です。
食べ物に含まれるAGEは、高温で加熱することで一気に急増します。調理中にAGEを増やさないためには、炒めたり揚げたりするよりも、ゆでるか蒸したほうがAGEの心配が減ります。
家庭で調理する際、フライパンで炒める温度は170~180度くらいです。この温度を超えると焦げ目がつきはじめます。揚げるときの温度の目安は、低温で炒めたり揚げたりする温度が高く、時間が長くなるほどAGEがたくさんつくられるので、そうした調理法を避けるとAGEの心配がありません。一方、ゆでたり煮たり蒸したりする場合の温度は100度以下です。
⑥メリットとデメリットを考える
体を老けさせるAGEが多い食べ物は、できるだけ避けたほうがいいのですが、数値のことだけを考えると、食べるものがなくなってしまいます。大事なのは、それぞれのメリットとデメリットを知って、総合的に判断することです。
例えば、ナッツやエクストラバージンオリーブオイルは、AGE含有量は多めですが、老化を防ぐ抗酸化作用の強い脂質を豊富に含んでいます。健康食材の代表として取り上げられることが多いですし、ココア(チョコレート)もAGEが高めですが、抗酸化作用が強いポリフェノールが豊富で、不足しがちな食物繊維や鉄分なども多く含まれています。
それぞれメリットもデメリットもありますから、自分のベストを見極めて選びましょう。
■糖化酸化の害を防ぐ栄養素が老化予防に役立つ
ここまでは体内にたまるAGEを減らす方法を説明してきましたが、体内でAGEがつくられるのを抑制したり、体内にたまったAGEを減らしたり(糖化を抑える)、酸化を抑えたりする栄養素を紹介します。
まず積極的に摂って欲しいのが、ビタミンB1とB6です。ビタミンB1は筋肉や神経が正常に働くために欠かせない栄養素で、糖や脂質の代謝にも関わっています。不足すると記憶や集中力なども低下しますから、認知症予防にも有効です
実は、ビタミンB1には、体内のAGEがたまるのを抑制する働きがあることが確認されています。積極的にビタミンB1を多く含む食べ物を摂り入れることで、体内のAGEを増やさない効果が期待できるでしょう。
ビタミンB6は、神経伝達物質の合成に関わるため認知症予防に不可欠です。肌や髪の合成の材料でもあり、不足すると皮膚や頭皮、髪の質がもろくなります。さらに、体内のAGEの産生を抑える働きもあります
ビタミンB12は抗酸化・抗糖化作用は限定的ですが、老化防止に役立つビタミンです。一般的には造血作用が有名なため貧血の予防に効果が高いと言われていますが、記憶力の低下や思考力の低下を予防する働きもよく知られ、認知症の予防に役立ちます。神経を修復する作用もあり、視神経の働きも助けるため、目の老化予防にも役立つビタミンです。
抗酸化作用のあるビタミンとして、有名なのがビタミンCとビタミンEでしょう。この2つは強い抗酸化だけでなく、強い抗糖化作用もあります。
ビタミンC・Eほどではありませんが、ビタミンAや亜鉛も抗酸化作用があります。亜鉛には、皮膚や毛髪の健康を維持する働きもあります。老化現象のひとつである骨粗しょう症を予防するためには、骨の主成分であるカルシウムだけでなく、ビタミンDやビタミンKも役立ちます。ビタミンDやビタミンKはカルシウムの吸収・吸着を促進する作用があるからです。
青魚などに多く含まれている「EPA」「DHA」は脂質の一種で、強い抗酸化・抗糖化作用があり、動脈硬化や認知症を予防する働きがあります。目や骨の老化防止にも役立ちます。
■お酒は大いに飲んでよし
「お酒は体によくない」と考える人が多いのですが、そんなことはありません。
昔から「酒は百薬の長」と言われますが、お酒を飲むと血糖値の上がり方はゆるやかになり、AGE対策になります。お酒が好きならば毎日でも飲んでOKです。
血糖値の上昇がゆるやかになりAGEを抑える原則として「日本酒やビール、ワインなどには糖質が含まれるので血糖値を上げる」「焼酎やウイスキー、ブランデーなどの蒸留酒は糖質が入っていないので血糖値を上げない」と言われています。
ところが、実際に調べてみるとそうでもありませんでした。図表3は、ある編集者に実験台となってもらい、お酒の種類で血糖値がどう変わるかを調べたものです。確かに、糖質が多いビールや日本酒や赤ワインは血糖値が上がっていますがごくわずかです。糖質が入っていない蒸留酒にいたっては、食事前よりも血糖値が下がっていました。
健康のためにはお酒を大いに飲みましょう。
私も毎日飲んでいます。まず帰って妻と一緒に350mLのビールを飲んで、食事をしながらワインのボトルを1本空けます。ワインは白のときもあるし、赤のときもあります。その後は、ウイスキーをちょっと濃いめの水割りにして飲んで、最後に缶ビールをもう1本飲んで寝酒にします。毎日これくらい飲んでも、肝臓の数値はまった問題ありません。お酒が肝臓に悪いというのは間違った認識だと思っています。
■ストレスもAGEを増やす
老化物質であるAGEを体内にためないためには、これまでの食事を変える必要があります。ただし、いろいろなものを制限し過ぎるのもよくありません。食べたいものをがまんして、過度なストレスを感じることも、かえって老化を速めることになってしまうのです。
ストレスが続くと「コルチゾール」というホルモンが分泌されるのですが、こうしたストレスを感じたときに増えるホルモンには、血糖値を上げる働きがあります。
老化や病気を予防するために食事内容に気をつけるのは、とても大事なことなのですが、食べたいものをがまんしてつらい思いをしたうえに、血糖値が上がって体内のAGEが増え、かえってリスクが高まるなんて本末転倒です。
■こだわり過ぎず、できることから続ける
AGEをためないために、食事で気をつけることはたくさんあります。あり過ぎて、すべてを実践することは難しいほどです。また、こまかく考えると、どちらを優先させればいいのかわからなくなることもあるでしょう。
すべてを守って実践するのが理想でしょうが、AGEはほとんどの食べ物に含まれていますし、おいしく食べるには加熱調理が必要です。血糖値を上げない食事を続けることも、理論的には可能でも、実際には難しいでしょう。
理想の食事にこだわりすぎるとストレスがたまり、かえって老化を速めてしまいます。糖質をどのくらい制限すればいいのか、AGEはどれくらい減らせばいいのかなど目安を聞かれることも多いのですが、基準は人によって違います。
まずは自分の体質に合わせて、何を優先させるのかを決めましょう。
・自分の体質に合わせて食事を調整しよう
・太っている人や血糖値が高い人はまず糖質制限を
・脂質に異常がある人は脂質やタンパク質の種類に注意
・やせている人は体重がそれ以上減らないよう糖質も摂ろう
・間違った食べ方を減らすだけでも老化予防になる
ヒトの体は驚くほど完璧にできています。その完璧なメカニズムは、間違った食生活を続けることで、徐々に綻びが生じていきます。その結果、老化のスピードが加速度的に進むことになるのです。
70代でも80代でも遅すぎることはありません。何歳から始めても遅すぎることはないのです。
あなたにとって“今日”がいちばん若い日です。今すぐAGEをためない食事を始めましょう。そうすれば5年後、10年後には大きな差が生じます。
毎日のちょっとした努力の積み重ねが、確実に老化を遅らせてくれる。それどころか「若返らせる!」。そう考えて、AGEをためない食事を、日々実践してください。
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牧田 善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。
2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。
著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。
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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)