相手の心に刺さる提案のコツは何か。犯罪ジャーナリストの多田文明さんは「闇バイトのリクルーターや旧統一教会は、『理想』から話す三段階話法で相手の心をアップダウンさせながら、罠にはめようとする。
これをビジネスにおきかえると、逆にNGな言い回しは『現状』や『救い』の話を最初にしてしまうことだ」という――。
※本稿は、多田文明『人の心を操る 悪の心理テクニック』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■同情と共感を示すような言葉で相手の心をぎゅっと握る
「理想」「現実」「救い」の三段階話法×
「どのような懸案事項がありますか?」

「どうなりたいですか?」
「今の悩みは何ですか?」
「解決できる方法がありますよ」

「これまで、お金に苦しんできて、大変でしたね」「うちで仕事をすれば、借金はすぐに返せますよ」という言葉は、闇バイトを募集するリクルーターが使う常套句です。
闇バイトの調査電話をしていると、相手の持っている悩みや苦しみに共感するようなソフトな対応をしてくることが多くありました。こうした言葉をかけられて心を許してしまい、犯罪行為に手を染めてしまった人も多いはずです。
犯罪グループは応募者を術中にはめるために「理想」「現実」「救い」の三段階話法で相手の心をアップダウンさせながら、罠にはめようとしてきます。先の「大変でしたね」の言葉はそのなかで効果的に使われる話術の一つです。
闇バイトの募集では、最初にお金に困っている悩みを聞いた上で、「どのくらい稼げば借金がなくなるのか」を聞き出し、借金で苦しまない「理想」の姿を思い描かせます。
しかし今は、多額の借金があり、税金も払えず、督促状や電話がかかってくる不安な現状であることを口にさせて、その救いの方法として「仕事は荷物を運ぶだけで簡単です。3~5万円の報酬なので、何回か仕事をすれば今月の支払いは大丈夫ですよ」という言葉をかけて、借金の苦しみから逃れられる話をしてくるわけです。
その際に、冒頭の「これまで、お金に苦しんできて、大変でしたね」「うちで仕事をすれば、借金はすぐに返せるよ」という同情と共感を示すような言葉を話して、相手の心をぎゅっと握ってきます。
■旧統一教会がお金を集めるために使った方法
この三段階話法のテクニックは、霊感商法でもよく使われてきました。

近年話題となった旧統一教会がお金を集めるために使った方法で、信者らが占い師役(霊能師役)の人物になりきり、販売会場に連れ込んだ人へ「あなたには悪の因縁がとり憑いている」といって恐怖心をあおり、壺や印鑑を売りつけていました。
この商法のテクニックには「理想」をみせた後に「現実」をみせて、奈落の底に突き落とし、そこから「救い」あげるという三段階の話術が潜んでいます。
例えば、女性が、壺や印鑑を売るということを隠されて会場に連れ込まれたとしましょう。そのとき、商品を買わせる会場であることは一切告げずに、姓名判断や家系図を取るイベントといった言葉で誘います。本人はただ「占いをみてもらおう」という軽い気持ちでやってきているので、警戒心なく自分の個人情報を話してしまいます。
なにより、占いをみてもらいたいと思う人の多くは、なにかしらの悩みを持っているものです。霊感商法をする側はそれがわかっていて、人間関係、家庭の問題、仕事がうまくいかないなど、占い師役はその情報を聞き出します。
その上で、「あなたはどうなりたいのですか?」と、本人が望む理想を口にさせます。「家庭円満で過ごしたい」「お金で苦労しない生活をしたい」「よい伴侶と巡り合いたい」など、様々な夢を描き、それを話すことでしょう。
■こうして人は「壺」を買ってしまう
すると、次に占い師役は、実際にはそうなっていない現実を口にさせます。今の悩みを抱えた自分の姿を口にさせながら「いかに自分は不幸なのか」というどん底の気持ちに突き落とすのです。
そこで、すかさず、占い師役は「原因がわかれば、解決方法がわかります」と救いの手を差し伸べます。

女性が身を乗り出すと、「あなたの不幸の原因は、過去に罪を犯した先祖の悪因縁のせいである」と話して、「財物で罪を犯した人がいる」「色情因縁があって、先祖が霊界で苦しんでいる」などの話をします。
そして、「このままでは、もっとひどい不幸がやってくる」と畳みかけ、恐怖心をあおり、悪因縁の話で本人をがんじがらめにします。
「どうしたらよいのだろうか」と藁にもすがりたい思いになっている相手の表情を見て、占い師役は「大丈夫です。悪い因縁から救われる方法はありますよ」と優しく声をかけ、「壺や印鑑などを買えば、悪因縁を断ち切り、先祖の祟りの呪縛から逃れられる」という解決方法を教えてきます。
それを聞いた女性は「それで祟りから解放されて、幸せになるのなら」と思い、壺などを購入してしまうのです。
■相手の心に刺さる提案の順番
まず幸せな理想の姿を口にさせて、そうなっていない現実の自分をみせる。すべての原因は霊のせいだとして、壺を買うなどの救いの方法を示す。これこそが霊感商法で使われた手口です。
ビジネスにおいて相手の心に響くような話をするためには、まず相手の望む理想の形を聞き出すことです。その上で現状を口にさせることで、一緒に懸案事項はなにかをつかみ、どのように解決すべきかを話せば、相手は身を乗り出して話を聞いてくることでしょう。「理想」「現実」「救い」の流れで話をすることで、効率的な営業ができます。
NGな言い回しは、「どのような懸案事項がありますか?」や「○○をすれば、御社の売り上げに大きく改善するはずです」と、「現状」や「救い」の話を最初にしてしまうことです。

そうではなく、「どのようなビジネスを展開したいのでしょうか?」「御社のヴィジョンはどのようなものでしょうか?」と、理想から聞くことです。
もしかすると、会社案内などにそれが載っていることもあります。それを読んでいれば、相手の会社のビジネスの理想像を詳しく聞き出せるはずです。
相手の心に刺さる提案をするためにも「理想」「現実」「救い」の筋道を立てて話すことが大切です。話の順番を間違えると、せっかくのよい提案も相手の耳に届かないことになりかねません。
POINT:理想の姿を口にさせ、うまくいっていない現実を突きつけた後、救いの手を差し伸べる
■悪質業者や詐欺でキーワードになる数字
話を信じ込ませる「3つのポイント」の法則×ポイントを絞らず話をする
○「伝えたい大切なことが3つあります」

詐欺師たちによる、番組アンケートをかたったアポ電では、質問を3つにとどめている点が巧妙で参考になります。これまで、様々な悪質業者や詐欺グループのメンバーと話してきましたが、「3」という数字がキーワードになっていることがわかりました。
例えば「競馬レースに必ず勝てる情報がある」「あらかじめ、競走馬の着順が決まっている」と嘘をついて、情報料金をだまし取ろうとする競馬詐欺業者は、嘘の話を相手に信じさせるために、わかりやすくポイントを3つに絞って話をしてきます。
悪質業者は私に「競馬で稼ぐために伝えたい大切なことが、3つあります」と話を切り出します。
「1つ目は、たくさんの競走馬を育成しているAグループがあり、そこの馬は数多くレースに出場していて、このグループが主導する仕込みレースが年間にいくつか存在していることです」
「2つ目は、競馬情報会社B社の存在で、ここにはAグループの人たちが役員として多く入っていて、当社はこのB社から、Aグループによる仕込みレースの特別情報を手に入れています」
「3つ目は、表向きでは枠順をコンピュータによる抽選で決めていると公表していますが、仕込みレースでは、やらせ馬が勝てるように決められているのです。Aグループ、競馬情報B社、JRA(中央競馬会)の3つが融合して、仕込みレースができています」
このような説明をします。
私がこの話に関心を示したフリをすると、さらに詐欺業者は「3つのことを守って、情報を扱ってください」と話します。

「1つ目は、この情報を他言しない。2つ目は、このレースではその内容が真実かどうかを見極めてもらいたいので馬券は買わない。3つ目は、仕込みレースがあることを(第三者に)告げない」
このように、すべての説明が3つに切り分けられているのです。
■説明や質問が苦手だと感じたら「3」を意識する
この話術は、ビジネストークにおいてもよく使われるスキルです。
「伝えたいことは3つあります」といって、相手の頭のなかに3つの箱をつくらせ、自分の話したいことを伝えるようにすれば、相手に理解してもらいやすくなります。
私たちが誰かに買い物を頼まれて「リンゴ、醤油、豚肉を買ってきて」と3つ程度であれば覚えられますが、「このほかにも牛乳、納豆、キャベツ、タマネギ」などと数が増えるほど覚えきれなくなってくるのと同じ原理です。
プレゼンなどの説明においても、ポイントを3つに絞って話すことで、相手に理解してもらえやすく、話を覚えてもらえることにつながります。
これは質問をするときも同じです。番組をかたったアポ電も、4つ、5つの質問になると長く感じられて、面倒になり適当に答えられてしまうということがわかっているので、3つの質問にとどめて、話をしてきたと考えられます。
質問をするときや、重要な話をするときに、「1つ目は~、2つ目は~、3つ目は~」とポイントを絞ることが大切で、それ以上に質問が増えそうな場合は、優先順位やポイントの見直しが必要であるということを覚えておきましょう。
対人関係において、説明や質問が苦手だとの自覚がある方は、「3」という数字を意識して話すことで、その状況が改善することにつながります。
POINT:説明や質問を3つに絞ることで、相手に受け入れてもらいやすくする

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多田 文明(ただ・ふみあき)

ルポライター

詐欺・悪質商法に詳しい犯罪ジャーナリスト、キャッチセールス評論家。
1965年北海道生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌「ダ・カーポ」にて『誘われてフラフラ』の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。キャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。悪質商法や詐欺などの犯罪にも精通する。著書に『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(プレジデント社)、『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)などがある。

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(ルポライター 多田 文明)
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