物事を明瞭に説明するコツは何か。スピーチコンサルタントの阿部恵さんは「説明に事実と見解を混在させると曖昧な印象を与え、相手には伝わらない。
私はアナウンサー時代に『“思います”はやめろ!』と指導されていた」という――。
※本稿は、阿部恵『きちんと伝わる説明の「型」と「コツ」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■ビジネスの説明や提案に活用できるFABE法の中身
説明上手は相手の「ベネフィット」を示し、説明下手は「仕様説明」に終始する

「ちゃんと説明しているんですが、全然売れないんですよ……」と、営業パーソンから相談されたことがあります。
実際に、どのような説明をしているのか実演をしてもらったところ、すぐに原因がわかりました。彼は、商品の仕様説明ばかりしていたのです。
例えば、冷蔵庫の営業パーソンの説明例です。
「こちらの冷蔵庫は、500Lの大容量で、AIによる自動温度管理と温度コントロール機能付きの野菜室を備えています。自動製氷機能もあり、省エネ性能は年間消費電力320kWhです」
この説明を聞いて、あなたは「これ、買いたい~!」と思うでしょうか? 残念ながら私には、用語も内容もさっぱりわかりませんでした。確かに、性能は立派ですが、肝心なのは「それが自分の暮らしにどう役立つか」ではないでしょうか。
お客様によって、何を重視するかは変わります。その興味の対象にアプローチする説明の「型」が「FABE(ファブ)法」と呼ばれるものです。FABEとは、Feature、Advantage、Benefit、Evidenceの頭文字をとったもの。
次のようになります。
F :Feature(商品の特徴)

A :Advantage(商品の優位性)

B :Benefit(お客様が得られるメリット)

E :Evidence(根拠)
先ほどの説明下手な営業パーソンは、商品の特徴のみを羅列し、肝心のBenefit(お客様が得られるメリット)が抜け落ちていたのです。またEvidence(根拠)では、その商品、サービスのよさを示す客観的数字やデータを示すと説得力が増します。
先ほどの営業トークを「FABE」に当てはめてみましょう。共働きのファミリー層を想定した冷蔵庫の営業トークです。
F:特徴 大容量冷蔵庫「スマートフレッシュ500」をご紹介します。
A:優位性 AIが自動で庫内温度を管理してくれるので、食材の鮮度が長持ち。ドアの開け閉めに応じて最適な温度にしてくれます。自動製氷機能も付いています。
B:メリット 平日は買い物に行けないご家庭でも、週末にまとめ買いをすれば約7日間、野菜もお肉も新鮮なまま。「氷がない~」とお子さんが困ることもなく、家事の手間も食材の無駄も減ります。
E:根拠 ユーザーの93%が「家事のストレスが減った」と回答。
「買い物の回数が減った」「野菜や肉が傷まない」と、高く評価しています。

FABE法は、ビジネスシーンでの説明や提案にも活用されています。商品やサービスの特徴だけでなく、お客様にとっての具体的なメリットを伝えることが重要です。
■意見が対立しても、冷静かつ建設的に伝える
説明上手は「DESC法」で描写から伝え、

説明下手は「提案だけ」伝える
打ち合わせや会議の場で、時に議論が高じて、感情的な物言いになっている人を見かけることがあります。立場や考え方の異なる人に対して、自分の意見を伝えるというのは難しいものです。一つ間違うと、言い争いに発展しかねません。
典型が、討論番組として有名な「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系列)でしょう。
さまざまなテーマについて、政治家や評論家が激論を交わす名物番組です。しかし、議論が白熱してくると、話している人がいるのにそれを遮って持論を展開する出演者がいたり、時には喧嘩になるケースもあります。テレビであれば、こうしたハラハラも“見どころ”の一つになりますが、ビジネスにおいては適切ではありません。
意見が対立するときでも、冷静かつ建設的に自分の意見を伝えられるのが説明上手というもの。このようなときに活用したいのが「DESC(デスク)法」です。

DESC法は、アメリカの心理学者ゴードン・バウアーによって提唱された、自分の意見を冷静に伝えつつ、解決策を提案して相手と建設的に対話するコミュニケーション手法です。DESCはそれぞれ、描写する(Describe)、説明する(Explain)、提案する(Suggest)、選択する(Choose)の4つの頭文字をとっています。
例えば、「朝まで生テレビ!」風の議論をDESC法に変換するとどうなるでしょうか。以下に、DESC法の変換前と変換後の議論を上下に並べてみました。
Beforeでは感情的な応酬が続き、議論が混乱していましたが、AfterではDESC法を用いて、事実と提案とを冷静に伝えています。テレビ番組としては面白みに欠けるかもしれませんが、建設的な議論がなされているのが一目瞭然です。
ビジネスの場では、単刀直入に言いづらいときもあるでしょう。そうしたとき、DESC法なら相手に配慮しながら事実を共有し、自分の意見や提案を伝えられます。段階を踏んで説明することで、意見の異なる相手にも納得を得られやすくなるのです。
■アナウンサー時代に禁止されていた語尾
説明上手は「事実と見解」を分け、

説明下手は「感情」も混在
上司にトラブル発生の報告をしたら、「事実関係を整理して、もう一度説明して?」などと言われたことはないでしょうか?
「自分としては、ちゃんと説明しているつもりなんだけど……」。こういう場合、「事実と見解を混在して話している可能性」があるので要注意です。説明下手は、説明に自分の「感情」を混在させてしまうのです。

取引先でトラブルが発生したときの報告例を、見ていきましょう。
「部長、申し訳ありません。A社の納品で問題が発生した模様です。製品の品質に何か問題があったようで、クレームが来ているとのことです。たぶん、製造ラインの不具合が原因じゃないかと。でも、すぐに解決できると思います!」
事実と推測が混在しているのが、おわかりですね。
「製造ラインの不具合が原因」の部分は、単なる推測です。また「~模様です・~とのことです」といった、語尾に「伝聞・推測表現」を使っているため、曖昧な印象を与えています。悪い報告のときには、つい、ぼかした表現を使いたくなりますが、報告では事実をしっかりと伝えることが大切です。
「~と思います」も同様です。私はアナウンサー時代、「『思います』はやめろ!」と指導されてきました。取材してきた事実を伝えるときに曖昧表現ではいけないということに加え、話し手の感情はどうでもいいからちゃんとリポートを、との意味でした。

■事実は木の幹で、見解は枝葉
では、先ほどの報告を、事実と見解に分けてみましょう。
「部長、A社の納品に関して問題が発生しましたので、ご報告いたします。

A社からクレームの電話がありました。昨日納品した製品100個のうち、30個に傷が見られるというものです。(→事実関係)

現在、製造記録の確認を進めています。A社には本日中に今後の対応についてご連絡をする旨、お伝えしています。(→現在の対応状況)

ここからは私の意見ですが、原因特定後、同時期に製造したほかの製品についても確認が必要かもしれません。(→見解)

以上が現状報告ですが、今後の対応についてご指示をお願いいたします」
この報告では、事実と現状、自分の見解を分けた上で報告をしています。これなら上司は状況を把握しやすいため、すぐに対応策を指示することができます。
説明の際に、事実と見解が混在しやすい場合は、次のように分けて、メモに書き出してみるといいでしょう。
① 具体的な日時、どこで、何が起きたなど誰が聞いても変わらない客観的事実

② 自分の印象、気持ち、推測といった見解
書き出してみると、客観的な事実が見えてきます。喩えるなら、事実は木の幹で、見解は枝葉のようなもの。
説明の際はまず、太い幹の部分から話していきます。
普段から、語尾に「思います」を付けるクセがある人は、意識して語尾を断定形にしましょう。「事実だけ教えて」「もう一度説明して」と言われることが減るはずです。

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阿部 恵(あべ・めぐみ)

スピーチコンサルタント

元TBS系列中部日本放送アナウンサー、元国会議員政策担当秘書。神奈川県川崎市出身。中部日本放送(CBC)にアナウンサーとして入社。CBC「サンデードラゴンズ」キャスター、TBS「おはようクジラ」中継キャスター等を歴任。TBS系列28局の中で最も優れたアナウンサーに与えられる「アノンシスト賞・最優秀賞」ほか、数々の賞を受賞。その後、フリーアナウンサーとして活動したのち、出産を経て、キャリアチェンジ。国会議員政策担当秘書資格を取得し、政財界のトップリーダー、官僚らとやりとりしながら政策立案、国会質問原稿作成、選挙戦略策定等に従事。有権者にきちんと伝わる説明や話し方指導を行う。政治家や元総理夫人、上場企業の社長・役員、弁護士等のトップリーダーから企業研修まで、これまで6000人以上にスピーチ指導を実施。

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(スピーチコンサルタント 阿部 恵)
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