就活や転職などの面接で失敗する人にはどんな共通点があるのか。アナウンススクール代表の松下公子さんは「声の大きさや姿勢、笑顔などを意識することは大切だが、それだけでは印象は変えられない。
私が転職コンサルとして関わった30代の女性は、とある口癖が直らなかったことで面接に落ち続けていた」という――。
■「とにかく面接が苦手」と語る30代女性
「書類選考までは通るのですが、面接で必ず落ちてしまうんです」――。
30代前半の女性Aさんは、そう深いため息をつきながら私の元を訪れました。大手メーカーで10年近く勤務し、チームリーダーとして後輩指導やプロジェクト管理も経験してきた、十分なキャリアの持ち主です。にもかかわらず、転職活動を始めて半年。
まだ一度も内定を得られていないというのです。
「とにかく面接が苦手なんです……」と本人も自覚しており、特に複数の面接官を前にしたときは緊張が極度に高まり、うまく話せなくなるといいます。履歴書や職務経歴書はきちんと整っている。人柄も誠実で、職務経験も豊富。それでも結果につながらない理由はどこにあるのでしょうか。
■「ハキハキと大きな声」で話そうとしているが…
Aさんは相談の中で、自分なりの努力を話してくれました。
「声が小さいと暗い印象になると聞いたので、面接ではいつもより大きな声を意識しています。
姿勢も背筋を伸ばして、できるだけ笑顔でハキハキと答えるようにしています」
確かに、姿勢や声の大きさは第一印象を左右する大事な要素です。元アナウンサーである筆者の経験からも、その意識は正しいといえます。
ところが、模擬面接を始めてすぐに私は違和感を覚えました。声量や姿勢の問題ではない。むしろ、それらを意識しすぎて表情が硬くなり、ぎこちなく見えていたのです。
そして何より気になったのは、答えの最後に必ず付け加えられるある一言でした。
■姿勢の悪さや話の勢いだけが問題ではない
模擬面接でのやり取りを再現してみましょう。
「これまでリーダーとしてどんなことに力を入れてきましたか?」

「後輩の育成に力を注いできました。新人研修ではマニュアルを作り直し、理解度に合わせた教育を意識していました……はい……」
「仕事で印象に残っているエピソードを教えてください」

「海外工場とのトラブル対応です。時差もあり大変でしたが、現地チームと深夜までやり取りをして解決しました……はい……」

質問に対する回答の最後に「はい……」と小さく付け足す癖。
「Aさん、いま答えの最後に必ず『はい』と言っていましたよね。ご自身では気づいていましたか?」

「えっ、そうなんですか? 全然気づきませんでした……」
驚いた様子のAさん。
まさに無意識の口癖だったのです。
■自信の無さは「締めのひと言」に宿る
面接官は話の内容だけでなく、言葉の「終わり方」にも敏感です。堂々と語尾を言い切れば自信があるように映りますが、言葉を曖昧に濁すと「自信がなさそう」「責任を取りたくないのでは」と受け取られてしまいます。
Aさんの「はい……」は、まさにその典型でした。
本人としては、面接ではいつもより大きな声を意識し、背筋を伸ばして姿勢よく答えることで「自信のある自分」を演出できていると思っていました。ところが実際には、最後のひと言の語尾が曖昧になってしまい、その努力がすべて台無しになっていたのです。
実際に、ハキハキとした喋り方を意識するようになってからも、面接官からも「すみません、どういう意味ですか?」や「緊張してますよね。深呼吸しましょうか」と指摘されたことが何度かあったようで、「気を付けているのになぜ指摘されるのだろう」と悩んでいたようでした。
ここには心理学的な背景もあります。パラ・ランゲージ理論によると、人は「何を話したか」よりも「どんな声で、どんな調子で話したか」に強く影響を受けます。語尾を小さく濁すと、自信のなさや消極性が強調されてしまいます。逆に、同じ内容でも語尾をしっかり言い切るだけで、堂々とした印象を与えられるのです。

■「一呼吸の沈黙」が余裕を演出する
では、この口癖をどう直せばよいのでしょうか。私はAさんにこんなアドバイスをしました。
「まずは語尾をしっかり言い切る練習をしましょう。『はい……』でごまかすのではなく、『育成に力を注いできました。』とピリオドで締めることです」
「でも、言い切るのって勇気がいりますね」
「そうですよね。だからこそ“間の取り方”も大事です。『はい……』で間を埋めるのではなく、黙って一呼吸おいてから次の言葉を出してみてください」
「沈黙って怖くないですか?」
「わかります。でも実は、その沈黙こそが落ち着きや自信に見えるんです。面接官は『余裕があるな』と感じますよ」
「……でも、一呼吸ってどうすれば?」
「コツは“鼻からゆっくり吸って、口から静かに吐く”こと。自然に深い呼吸になり、表情も柔らかくなります。その間に数秒黙るだけで、相手には堂々とした印象が伝わりますよ」
このアドバイスによって、Aさんの話し方は明らかに変わっていきました。
■口癖を直した結果、内定へ
ロールプレイを重ねるうちに、Aさんは質問の答えを“言い切って”伝えられるようになり、面接全体の雰囲気が一変しました。
次の面接後、彼女は笑顔でこう報告してくれました。
「初めて面接官がうなずきながら聞いてくれて、自然に会話ができた気がします」
それまで「壁のように反応がなかった」面接官が、自然に相槌を打ち、会話がキャッチボールのように続いたことが、大きな自信につながりました。
結果、外資系メーカーと国内大手企業、2社から立て続けに内定を獲得。半年間悩んでいた面接突破の壁を見事に乗り越えることができたのです。
■「自信」はメンタルではなくテクニックで作れる
面接において「自信があるように見えるかどうか」は、性格やメンタルの強さだけで決まるものではありません。話し方の小さな工夫で印象は劇的に変わります。
「はい……」という口癖を直し、語尾を堂々と言い切る。それだけで評価は大きく変わるのです。自信は性格の問題ではなく、テクニックで作ることもできます。
どうしても自信が持てない、緊張すると声が震える――そんな方こそ、まずは“締めのひと言”に注目してみてください。語尾を濁さず、堂々と言い切る。その小さな意識の変化が、内定の可能性を大きく広げてくれます

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松下 公子(まつした・きみこ)

元アナウンサー、アナウンススクール代表

STORYアナウンススクール代表/STORY代表。
1973年茨城県鹿嶋市生まれ。25歳フリーターでアナウンサーに内定。テレビラジオ4局のステップアップを果たす。その後、共感で選ばれるプレゼン手法「共感ストーリー」としてメソッド化。STORYアナウンススクールでは、志望動機、自己PRの作成を指導。面接における伝え方の指導も行い、NHKキャスターや地方民放局アナウンサーの内定に導いている。現在は、一般企業の転職など、選ばれる人になるサポートや講演活動を行っている。著書に『「たった1人」に選ばれる話し方』、『転職は話し方が9割』(ともにstandards)がある。

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(元アナウンサー、アナウンススクール代表 松下 公子)
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