■トヨタグループの問題はどこにあったか
なぜ2020年頃からトヨタ、トヨタグループ、関連企業で不祥事が続いてきたのか。数多くの報告やトヨタ自身の説明からは筆者の受け止める真因は、先述の「余力不足」という基礎力が欠けており、「企業風土」の問題であると捉えている。
トヨタと言えば技術・生産技術・調達・経理という機能軸の強い会社であった。その壁を取り払うために、製品軸によるカンパニー制やプロジェクト軸を中心とした組織改革を実施してきた。各機能の代表が集結し、一人のリーダーシップの下でいいクルマを作るという「チーフエンジニア(CE)制度」はその代表的な取り組みである。
「経理機能の力は弱くなった。カンパニーに取り込まれている」と、あるトヨタの経理社員が強かった経理を懐古するような話をしたことがある。筆者は長くアナリストとして多くの自動車会社を比較分析してきた。「それでも、どの会社よりも、トヨタの経理はまだまだ強いですよ」と筆者は切り返したことがある。
機能軸の壁は今でも厚く、調整に時間と忖度を費やすことが多い。言いたいことを言えない。
横連携が弱まり、問題提起をためらう企業風土が生まれていたようだ。
■曖昧だったグループの統治構造
機能軸の壁は「余力不足」にもつながっているようである。トヨタイムズによれば、企画→生産→販売など機能ごとに車両仕様書がそれぞれの機能で「読み替え(変換)」リレーが発生しており、合計で31万時間を「読み替え」に費やしていたという。(※2)
合計で31万時間。新車の企画から販売まで、クルマづくりの作業全体の35%を、トヨタが社内資料の解読に費やしているという話には驚かされた。現在では、機能間の言語を統一するシステム「OMUSVI(オムスビ、Organized Master Unified System for Vehicle Information)」が導入されている。
グループ会社の不正問題はそれぞれに固有の真因があるが、共通していることは余力不足とスケジュール偏重、グループ内での権限・責任の曖昧さがあり、声を上げにくい風土が根付いていたことである。グループの統治構造の曖昧さが問題の大きな原因と考えられる。
トヨタ、トヨタグループの不正に共通するのは認証試験での不正であり、実際の性能・安全性には問題がないところだ。基準に達せないものを不正で隠すことは動機がはっきりしているが、基準を満たす開発力を持ちながら認証結果を歪める真意はより深刻な話である。
■急転直下の展開を迎えたトヨタ自らの不正
日野、ダイハツ、豊田自動織機に共通するのはトヨタグループの中で比較的独立色が強いことだ。
トヨタ生産方式による成果が目的化され、無理が生じたところに認証不正がはびこったと言える。議論を回避して、社内プロセスを優先的に進めようとする効率重視の風土が生まれたのである。
トヨタはグループ不正の問題に対し、2024年1月の段階でトヨタグループ17社のリーダーに向けてトヨタグループが進むべき方向を示したビジョン「次の道を発明しよう」を発表、豊田会長はトヨタグループの責任者に就任しグループ統治の責任者としての役割を明確にした。
グループ統治の責任者としてグループが原点回帰を果たせるよう、より時間を割く考えを豊田は示した。しかし、同年6月に発覚したトヨタ自らの型式指定申請に関する認証不正によって事態は急転直下の展開を迎える。
■強まるメディアのトヨタ批判
6月3日、トヨタ、ホンダ、マツダ、ヤマハ発動機、スズキの5社において、型式認証試験における不適切・不正事案があったことを国土交通省は発表した。これはダイハツ工業の国内型式認定に関わる不正問題を受け、年初から国土交通省が過去10年間の国内指定申請における不正の有無の調査を実施したことで発覚したのである。
型式指定制度とは安全・環境基準を満たしているかを量産前に国が確認・承認する制度である。自動車メーカーが基準に沿った試験方法・条件で試験を実施したデータを国土交通省に提出し、検査を受けて「型式指定」が付与される。
6月3日の緊急会見において、豊田会長は謝罪しつつも、質疑の中で会見後半は認証制度の仕組みの問題に話が発展してしまった。ジャーナリストからの質問に誘導された感は強かったものの、こういった議論はこの場では不適切ではないかと筆者は心配したが、その不安は的中した。
メディアのトヨタ批判は強まり、国交省はトヨタへの対応を硬化させた。7月末には国交省は新たに7車種の不正行為を認定し、トヨタに是正命令を発出した。そのうち6車種は海外当局が認証を行い、その認証を用いて日本の型式指定を取得していたことを明らかにした。国交省は海外当局へ通知し、基準適合性の確認を要請している。
■なぜトヨタは「不正」を指摘されたのか
第三国が他国の承認内容に直接介入するというのは、国連「1958年協定」に基づく相互承認の枠組みとしては、極めて異例のことである。今回、通知を受けた英国とベルギーの認証機関や当局は、さぞや驚いたのではないかと察する。彼らがどのような判断を下したかについての正式公表はない。トヨタは通常通りの販売を続けているところから判断して、問題には発展しなかったと推察する。
日本が1958年協定に参加して以来、保安基準の国際調和は進んでいる。
UNR規則に従い、審査官による立会い試験を実施してきたなら、不正が入り込む余地はないはずである。しかし、国内認証制度では必ずしも立会い試験を必要とせず、①メーカーが自ら実施する認証試験、②開発試験での有効データを認証データとして提出することでクリアできる仕組みがある。
トヨタはこの開発試験のデータを提出したが、国内認証のルールに適していなかったことで「不正」と呼ばれたのである。では、なぜルールと異なる開発試験のデータをトヨタは提出したのか。
■株主から厳しい審判を受けた豊田会長
自動車の開発は、グローバルモデルで求められるより厳しい保安基準や、NCAP(新車アセスメントプログラム)のような情報開示でより高いスコアを得るために、保安基準よりもはるかに厳しい「ワーストケースシナリオ」に沿って行われる。「ワーストケースシナリオ」で得られたデータを国内認証として提出すること自体は認められているが、その運用を誤ったのである。
6月に発覚した自らの型式指定申請に関する認証不正によってトヨタは「風土」の問題にとどまらず、余力づくり等の「体制」から内部統制や監査の「仕組み」を全体的に網羅した抜本的な構造改革に向かうことになる。
グループの出資構造を含めた統治構造の再構築も大きなテーマとして取り組む課題となった。「不正」問題はトヨタには不名誉な出来事ではあったが、自らの構造問題を発見し、それを正すことで、持続可能な競争力とその基盤を持った企業への進化を促すきっかけとなったのである。
しかし、不正が連鎖したトヨタへの株主の審判は極めて厳しく、2024年のトヨタの株主総会では豊田章男会長の取締役再任に対する「賛成比率」は前年の84.5%から71.9%へ急落した。
■危機感を露わにした豊田会長
「かつてトヨタ自動車でここまで低い賛成比率になった取締役はいない。このペースでいくと来年は取締役としてはいられなくなる」。
自前メディアのトヨタイムズの中で豊田会長自ら危機意識を露わにしたのである。
豊田家はトヨタのオーナーではないし、当然、世襲企業でもない。トヨタは創業以来、12人の社長を輩出してきたが、そのうち5人が豊田創業家からの登用であり、7人がいわゆるサラリーマン社長である。創業家と創業家外が約半々の期間を経営してきた。
創業家が統治に関わり、ステークホルダー(社員、取引先、地域、株主)から望まれているのは何だろうか。創業家が持つ思想と理念の連続性を、トヨタのステークホルダーが求めていることにあると筆者は考える。
トヨタが社会から尊敬される最大の要素とは、持続的に成長を続け、そして収益性も高いというところにある。誰が経営してもブレない経営の軸がある。社会通念や資本市場の論理は時には大きくブレる。
■それでもトヨタはブレずに突き進む
例えば、2000年初頭のインターネットバブル、2010年の金融危機、2020年のEVシフト熱、サステナブル・ファイナンスなど、行き過ぎた市場圧力は企業経営の軸に大きな影響を及ぼしてきた。
例えば、ハイブリッドの初代プリウスを開発する時に、燃費改善率の開発目標を不可能に見える100%(2倍)に敢えて置き、その技術課題を克服しながらゴールの山頂に向かって、粛々と山を登ってきた。30年が経って、ハイブリッドはトヨタのかけがえのない競争力に育ったのである。
そして今、トヨタは次のモビリティカンパニーへの転身という、次の大きな山を登ろうとしている。
豊田会長を失うことはできない。この現実を直視したトヨタは、株主の信頼回復の実現に向けて3つの取り組みを強化していく。具体的には、①トヨタ自らの企業統治構造の改革、②トヨタグループ統治構造の改革と出資と事業構造の改革、③ROE20%を実現できる新しい成長戦略を明確に設置することである。
(※1)「「対話を諦めさせてはいけない」トヨタはワンチームになれるのか?」トヨタイムズ、2024年11月27日、https://toyotatimes.jp/toyota_news/roushi_2024/011.html
(※2)「31万時間をお客様のために。本気で変えるトヨタの働き方」トヨタイムズ、2024年10月22日、https://toyotatimes.jp/spotlights/1059.html?utm_source=chatgpt.com
----------
中西 孝樹(なかにし・たかき)
ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト
オレゴン大学卒。山一證券,メリルリンチ証券等を経て,JPモルガン証券東京支店株式調査部長,アライアンス・バーンスタインのグロース株式調査部長を歴任。現在は,株式会社ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリスト。国内外のアナリストランキングで6年連続第1位など不動の地位を保った日本を代表する自動車アナリスト。著書に『トヨタのEV戦争』(講談社ビーシー),『自動車新常態』『CASE革命』『トヨタ対VW』(いずれも日本経済新聞出版)など多数。
----------
(ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト 中西 孝樹)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
